今回、このコラボレーションで奥山君を推薦したのは、もちろん彼の写真のテイストやアングル、COOLなセンスに魅了されたからです。でも一番の理由は、仕事に対する彼の姿勢に強い共感を覚えたためでした。何ページもある企画書を雑誌編集部に自ら持ち込み、「このブランドのスカートはこう撮ってみたい、あのアイテムはこんなふうに撮影したい」と提案して採用されたというお話を、前述の対談番組で述懐するのを観て、その考え方に大変な興味を持ったのでした。
そのため、奥山君には僕の出した11のアイデアを、好きなように料理してもらいたいと思っていました。「どのアイデアで撮影したいか、すべて決めてくださっていいです。NOなんて絶対言いません。僕の脳内アイデアを超えたものを、奥山君のレンズフィルターを通して見せてほしい!」と願ったのであります。
「この企画を授けます。贈ります。あとは僕をぎゃふんと言わせ、そして興奮させてください!」
初顔合わせの際、僕はそんな思いを彼に伝えました。すると奥山君は「僕はそのほうが俄然、燃えるタイプなので嬉しいです」と言ってくれたのです。そして、どのアイデアに興味があるかと聞くと、なんと僕が以前に制作した、白地に真っ赤なドットが入った大作コスチュームだと。「なんか金魚みたい」とのコメントで、僕は思わず「お! 嬉しい!」
アイデアの1つには含めたものの、以前に制作した作品だったので、僕は“過去は過去”と思っていたのです。もちろん、紅白の色づかいはお祝いというテーマにピッタリだし、非常に大きなドレスなので、祝祭の雰囲気にもマッチしています。自分としては過去のクリエイションと考えていたものを、奥山君が新鮮な目で捉えて興味を持ってくれたのは、非常に嬉しく、また面白くもあります。
この日のミーティングでいろいろなことを話し合い、翌日、実際にコスチュームを持参して確認しながら詳細を詰めていくことに。奥山君に現物を見てもらい、触ってもらいながら、さらにどんなことができそうか、どんなシチュエーションで撮影してみたいかを決めていこうということになりました。
そして迎えた翌日――装苑編集部のホワイトキューブのスタジオで、僕が持参したコスチュームを広げました(これ、披露するのは何年ぶりだろうか?)。それから実際に僕が着用してみて、どんな見え方になるのか奥山君に見てもらいます。奥山君はコスチュームのあまりの大きさに驚いていましたが、テキスタイルディテールを僕自身がソーイングしたと知ると、さらにびっくり仰天していました。
これまでこの作品を展示する場合、ハンガーに吊るして壁に掛けたり、ボディーに着せたりしていました。ところが奥山君からは、「高い脚立に上った状態で着てほしい」との斬新なアイデアが。「おぉ! 面白そう!」ということで、さっそく脚立の上に立ち、様々な角度でテスト撮影をしていきました。そうした中で、奥山君の口から、“やってみたい企画&撮影したいシチュエーション”のアイデアが飛び出します。
そして「1番撮影してみたい場所はここなんです!」と言って見せてくれたのは、あの、“伊東にゆくならハトヤ”のハトヤホテル。「わ! 面白い場所!」と僕は唸ってしまいました。そのスペーシーな雰囲気の廊下は、近未来的・宇宙的であるのに、一方で非常にノスタルジックでもある面白い場所でした。もし許可が降りるならこの廊下で撮影したい、と奥山君は思いを語ってくれたのです。
そんな奥山君と僕の年齢差はちょうど20歳ほど。僕が小さい頃は、ハトヤのCMといえば誰もが知っているドメジャーなもので、認知度はダントツ。かたや奥山君は、そんなことなどまったく知らない。その世代ギャップのコラボレーションに、さらに面白さを感じたのであります。
想像してみます……ハトヤのあのスペーシーな廊下で、天井に手が届くほど高い位置に立つ、白地に赤い水玉のBIGコスチュームを着た菜奈ちゃんを。う~ん。イッちゃってて、めちゃくちゃ面白いはず! こんなふうにアイデアのキャッチボールを奥山君としたかったから、もうこの時点で大満足❤でした。あとは、撮影許可がスムーズに降りますように……神様、お願いします。
その後、無事に撮影許可を得て、9月29日の撮影はHAPPYに終えることができました。しばらく経って僕のもとに送られてきた、奥山君セレクトのカットは、たったの1枚。さすが、やるな~。この潔さが大好きだ。そのカットは、もちろん文句なしに素晴らしいものでした。スペーシーな空間で、ダイナミックにコスチュームをまとった美しい菜奈ちゃんが輝いていました。なんてアーティスティックで、そして不思議なビジュアルなんだろうと、大興奮❤大満足です。
「僕がコスチュームを創る。菜奈ちゃんが着る。奥山君が撮る」
“装う作品”を学生の頃から制作、発表してきた自分にとって、『装苑』は毎回、新しいキラ★キラ★を運んできてくれました。いつかその憧れの雑誌の紙面を飾ることを夢見ていた僕は、今回このような素晴らしいCHANCEを与えられ、まるでお祝いのパーティーにご招待いただいた気分です。
「装苑様、80歳のお誕生日おめでとうございます❤LOVE」
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