9月7日、千秋楽。
「劇団はえぎわ」の新作公演『其処馬鹿と泣く』の舞台は、この日がラスト。公演開始から今日まで、友人知人が何人も観に来てくれています。初日以来、その評判が日に日に広まったのか、連日満員御礼……ありがとうございます。会場の外には当日券待ちのお客様が並び、補助席も埋まって、立ち見が出るほどの盛況ぶりです。
そんな素晴らしい舞台での宣伝美術・舞台美術・舞台衣装の制作を、はえぎわ主催者のノゾエ征爾さんからオファーされたのは3月のこと。以降、千秋楽の今日まで、この舞台のことで僕の頭と♥はいっぱいでした。
「あ~、いよいよ最後の舞台が始まる」
そんな思いとともに舞台を見つめます。この制作に懸けた僕の夏も熱も、これで幕切れ。
そして、最終公演の幕が上がりました。
ノゾエさんと初めて会ったのは、僕の友人の結婚パーティー。そこで紹介されたのをきっかけに、再演『ガラパコスパコス ~進化してんのかしてないのか~』を観劇することになり、衝撃! を受け、以来はえぎわ作品はずっーと観ています。
その間にノゾエさんとの親睦も深まっていき、『ハエのように舞い 牛は笑う』『飛ぶひと』『ゴードンとドーソン Gordon&Dawson ~妻と夫と虎の夢~』の3作で宣伝美術のクリエイションを任される仲になりました。さらには、各界の方々を招待してのアフタートークにまで出演させていただくことに。
さて、初めて宣伝美術をお願いされたとき、僕はこう思いました。
「絶対、はえぎわらしいものにしたい! はえぎわだからこそできるものに! フライヤー1枚で、『この舞台おもしろそう! センスありそう!』と興味をそそられるキャッチーなものにしたい」と。
劇場でお客さんに渡される、次回作などのフライヤーの束。しかしそのほとんどは、やがて捨てられてしまいます。でも僕は、「絶対に捨てられない、あるいは捨てられたとしても強烈な印象を残すようなビジュアルクリエイションを生み出したい! 大好きな劇団の“顔”となるHAPPYなフライヤーを創り上げねば!」という思いでノゾエさんにアイデアプランを出し続けてきました。
「“宣伝”美術ですもの……PRしなければ!」
そう考え、舞台プレビューに関する僕の連載「CUEの勝手に舞台ソムリエ」を掲載している雑誌『装苑』の編集部にプレゼンをして、何度かこの劇団の公演について書かせてもらいました。もちろん舞台ソムリエとして、「舞台好き・面白いもの好き・新しいもの好き」な友人を毎回20名以上引き連れて観劇ツアーも実施しています。だって、できるだけ多くの人に見てもらいたい! 自分が大好きな劇団ですから。
ノゾエさんから制作をお願いされる際はいつも、作品タイトルの候補数点と、作品意図をざっくり書いた文章を渡されます。僕はこのやり取りが大好き。クレバーな知能ゲームのようで、「さぁ、CUEさん。どう返してきますか?」という感じがするからです。言葉を愛する僕にとって、ノゾエさんの考える作品タイトルは毎回とても新鮮で面白いし、誰よりも先に次回作のコンセプトを聞けてしまうなんて、とっても贅沢であります。
『ハエのように舞い 牛は笑う』、このタイトルを初めて耳にしたときには、“肉”のイメージが頭に次々浮かんできました。焼肉、牛丼、それらを食す人々、熱、赤、血……ハエ? というように連想が湧いてきて、それらを複数のアイデアとしてお見せし、採用されたのが――真っ赤で美しいひと切れのスライス肉の上に、ちょこんと留まった1匹のハエの実写。「数あるアイデアの中からこれをチョイスするノゾエさんはさすがだわ」と思わず舌を巻いたものです。
『飛ぶひと』の場合は、ノゾエさんが中国の上海で撮影した写真の中から選んで使用してほしい、とのオーダーでした。「お、それも面白い!」と早速取りかかり、「飛ぶひと」というタイトルからイメージして、「変てこでアンバランスな浮遊感」みたいなものを演出したいと考え……僕が選んだ写真は、とある公園で太極拳をしている人々を写した1枚。この写真を斜めにして、何とも不思議な、重力を感じさせないデザインに仕上げました。
『ゴードンとドーソン』は、「夫婦のお話です」とノゾエさん。ご自身がアメリカで撮影したという、レストランのカウンターで食事中のカップル2組の写真を見せてくれました。
この1枚から連想して、「男女2人」をキーワードに様々なアイデアを考えることに。2人いることで初めて成立する、「支え合い」みたいなシーンにしたいと思い、ハンバーガーを男女が両サイドからガブッとパクつく、ドアップな横顔のビジュアルとなったのです。