仕事をしていると、同僚や上司に対して「許せない!」という気持ちにとらわれてしまうことがあると思います。
「どうしてわかってくれないの?」
「なぜあいつより僕の評価は低いのか?」
「もっと違う言い方があるんじゃないの!?」
私も、同じような経験をたくさんしてきましたので、そう言いたくなる気持ちはよくわかります。ただ、少なくとも心理学的な側面からみると、心の中が「誰かを断罪する気持ち」でいっぱいになっているときというのは、残念ながら、仕事はまったくはかどりません。
なぜなら、怒りは、人のパフォーマンスを低下させる大きな要因だからです。また、職場のメンバーの一人が怒りに囚われてしまうことは、実はその人だけではなく、職場全体のパフォーマンスを低下させる原因にもなるのです。
あなたが上司に対して「許せない!」と感じているときには、多くの場合、上司もまた、あなたがそうしたネガティブな思いを自分に抱いていることを感じとっています。その結果、上司の仕事のパフォーマンスも下がっていきます。人間関係がうまくいっていない職場では、だいたいこのように連鎖的に、互いが互いの足を引っ張り合うようなに、パフォーマンスを落としています。
言い換えれば、チームで成果をあげたいと思うなら、どこかでこの悪いサイクルを断ち切っていく必要があるわけです。
職場の上司や同僚に対して「許せない!」と感じているときには、必ずその職場全体に、人間関係の悪循環が起きている。もちろん例外はありますが、まずはそう考えておいて、間違いないでしょう。
ではどうやって、その悪循環を断ち切るか? これは結局、あなた自身のなかにある「誰かを断罪する気持ち」を払っていくしかありません。
「え!? どうして私が変わらなければいけないの? 悪いのは向こうなのに!」
そうおっしゃる気持ちも、よくわかります。でも、まさにその「悪いのは向こうなのに!」という気持ちこそが、職場の空気をさらに悪いほうへと押し流す「アクセル」となってしまうのです。ですからまず、あなたのなかのネガティブな思いを払い、明るい自分を取り戻すことが必要なのです。
この知見を押し付けるつもりは全くないのですが、もしも自分の心が落ち着き、明るくなってくれば、だんだんと苦手な相手のことも気にならなくなってきたり、あるいは許せるようになってきたりすることが起こり得ます。というのも、相手を許せるようになれば、相手も自分も、パフォーマンスがあがってきます。そうすることで、職場に根付いてしまった「悪いサイクル」を少しずつ、いい方向に変えていくしかないんです。
私たちは、相手のことを「許せない!」と感じはじめると、その人の言動のすべてが、癪(しゃく)にさわるようになります。他の人だったらなんとなくスルーできる言葉が、「なんでそんな言い方するのかなあ……」と引っかかるようになる。そうすると、毎日がストレスでいっぱいになっていきます。
「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」という言葉がありますが、人というのは、一度誰かのことが苦手になると、相手の「悪いところ」ばかりに目を向けてしまうようになるのです。こうなると、地獄です。というのも、どんな立派な人であっても、探せば悪いところというのは、いくらでも見つかるものだからです。
怒りに囚われると、ただでさえ狭い私たちの視野が、さらに狭まります。腹が立てば立つほど、「こんなひどい人間がこの世にいるのか」というぐらい、許せなくなっていくわけです。
実は、こうした恐ろしい悪循環を断ち切るのに非常に有効な方法があります。それが「祈り」です。
「祈り」というと特定の宗教の方法論なんじゃないか、怪しいからやりたくないな、という印象を持つ方も多いかもしれません。しかし、祈りというのは、非常に有効な「心理療法」であるというのが、僕の考えです。ぜひ、ビジネスの現場の皆さんにもこれを一つの「ツール」として取り入れていただきたいと、まじめに思っているのです。
やり方はシンプルです。ひとときの間目をつむり、あなたの身のまわりにいる人の顔を思い浮かべて「いつもありがとうございます」と感謝し、「幸せでいてください」と心から願う。これだけです。5秒〜10秒でできます。
ただ、たったこれだけのことでも、実際にやろうとすると、意外に抵抗があることに気づかれると思います。特に、いつもあなたにプレッシャーをかけてくる上司や、馬が合わない同僚を思い浮かべて幸せを祈れるかというと、多くの方にとって、かなり難しいことのはずです。
ですので、まずは身近な人からで結構です。家族でもいいし、仲のよい友人や、学生時代にお世話になった先輩でもいいでしょう。自分が好感を持っている人の顔を思い浮かべて、「幸せにいてください」と祈ってみる。実はこれだけでも、最初はちょっと気恥ずかしい思いがするものです。
それができたら、次は毎日顔を合わせる人で、特に好きでも嫌いでもない相手を思い浮かべて、「幸せでいてください」と祈ってみてください。「苦手な人の幸せを祈る」のは、これを1ヵ月ほど毎日続けて、「やれそうだ」と思ってからで十分です。
苦手な相手のことを祈れるようになってくると、「ああ、あの人もまた、自分とは違った形で会社や社会に貢献しているのだ」ということが納得できるようになってきます。そうするとだんだんと、共に働くことが苦にならなくなってくるのです。