なぜ、祈りには人間関係の悪循環を断ち切る効力があるのか。ここにはいくつかの心理的メカニズムが働いていますが、もっとも直接的なところで申し上げると、祈ることで、自分のなかにある「被害者意識」を払ってくれることが大きいのだと僕は思います。
私たちはみんな、心のどこかで自分を「被害者」だと思いたがっています。なぜか。それは、自分を被害者の立ち位置に置くことによって、相手の非を容赦なく責め立てるための「免罪符」を得られたように感じられるからです。
自分は損をしている。自分は恵まれていない。必要なものを与えられていない。だから他人を責め立ててもよい。そんな被害者意識にとらわれてしまうと、私たちの心は怒りに深く毒されます。
「私はいつも、わからず屋の上司のせいでひどい目に遭っている」
「得意先の部長の無茶な注文で、うちの会社は潰されてしまうかもしれない」
仕事を通じて、こうした被害者意識を持ったことがない人はいないでしょう。また、こうした思いを持って当然なぐらい、さまざまな出来事が起きるのが仕事です。しかしながら、こうした被害者意識にどっぷりと浸かっているうちは、私たちの心は怒りにまみれ、正常な力を発揮することができないのです。
とはいえ、被害者意識をまったく持たない人というのはめったにおられません。もしも「私には被害者意識なんかないよ」という人がいるとすれば、それはたまたま、自分の調子がいいからなのかもしれません。仕事やプライベートで問題が起きたり、長く成果があがらない状態が続いたりすると、多くの人が、当たり前のように被害者意識に囚われてしまいます。
祈りは、こうした被害者意識が生み出す「負の連鎖」を断ち切る、最強のツールです。
「情けは人のためならず」と言いますが、祈ることで、あなた自身の被害者意識が薄れて来れば、むやみやたらに相手を責めようという気持ちがなくなってきます。そうすると自然と、苦手な相手と仕事をすることが、以前ほどは苦にならなくなってくるでしょう。また、あなたのネガティブなエネルギーが伝わらなくなることで、相手からの理不尽な攻撃も、自然と減っていきます。
嫌いな相手の背中を思い浮かべて「今日一日、幸せでいてください」とお祈りしてみてください。「私はあなたのことが苦手ですが、幸せでいてください」と祈ってみてもいいでしょう。ともかく、相手の幸せを祈ることによって、自分のなかにある被害者意識を払っていくこと。これが職場の空気を変えていく、大きな一歩になるのです。
「相手を変えることはできない。変えられるのは自分だけ」というのは、心理学が私たちに教えてくれる、対人関係上の大きな気付きです。性格分類にしても、祈りにしても、その点においては共通しています。
そしてもうひとつ、ビジネスマンのみなさんが、こうした心理学ツールを活用するうえで知っておいてほしいことがあります。それは、「仕事に関わる一人ひとりのパフォーマンスをあげることが、自分の仕事のパフォーマンスをあげることにつながる」ということです。
これは、当たり前のことのようでいて、忘れがちな視点です。いくら自分のパフォーマンスがあがったとしても、自分の周りにいる同僚や上司のパフォーマンスがあがらなければ、全体として成果があがるわけはありません。
自分とは異なるタイプ、自分にとって理解しがたい感性を持つ人たち。そういうさまざまな人間が集まっているのが、組織です。組織に集う個性豊かな人たちが、一人ひとり、それぞれの角度から最大のパフォーマンスを発揮する。それができれば、チームはもちろん、あなた自身の仕事の成果も飛躍的に伸びていくはずです。
祈りという心理学的ツールを活用することによって、もし「この人(のような、自分にとって苦手な人物)がいるからこそ、自分の仕事は成り立っているんだ」と思えるようになったら、しめたものです。それこそ無限に、自分と人との繋がりが見えてくるでしょう。ぜひ皆さんも、試してみてください。
次回に続く