電車の中吊り広告は、雑誌と文庫の広告スペースという認識があるが、額縁広告(車体のドア脇の壁の広告)となると、都内では、エステや学習塾、サプリメントあたりが常連なので、ときどき書籍広告が出ると「おっ」と思うことがある。
わたしは、図書広告は新聞という時代に生きてきた人間なので、電車の額縁広告までやるというのは「この本は相当売れているのか」と思ってしまう。では、本当に額縁広告に出ている本は売れているのだろうか。これも、関係者に聞いてみた。
結論は前項とあまり変わらない。広告に出している本は、売れている本ではなく、売りたい本である。この売りたいという主体は、出版社だけ(潜在的には作家も入る)だ。電車の額縁広告も他の媒体と同様、年に何回という枠を押さえていることが多い。枠で広告スペースを押さえている場合、そのときにベストセラーがあってもなくても、広告主である出版社としては広告を出さざるを得ない。
このケースでは、そのときの事情に応じて出版社が適当な作品を選んで出しているので、必ずしもベストセラーというわけではない。
話が10数年前に端を発することばかりだが、ビジネス新書・文庫が盛んに発刊されたのも、やはりその頃だったと思う。最近はビジネス新書・文庫のベストセラーが見当たらないせいか、影が薄く、なんだか各社ともすこし力を抜いているのではないかという印象がある。だが実際のところはどうなのか。
これは調べればわかった。ビジネス新書・文庫は、注目を集めるようなベストセラーがないだけで、新書・文庫自体はレーベルを含め着実に増え続けている。目立たないだけなのである。目立っていないということが、状況の悪さを示すかというと必ずしもそうとはいえない。単行本なら目立つには5万部以上、新書・文庫となるとそれ以上でないと世間が注目する本とはならない。しかし、今日、5万部の文庫・新書は十分に売上良好書といえる。隠れた良好書は競合が参入してくることもないので、出版社の経営にとっても安定した良好書なのである。
仮に、そこまでうまい具合にことは運んでいないにせよ、発行点数が増えていることは、作家にとってもチャンスが増えていることであって悪い話ではない。