ビジネス書業界の裏話

有名になって本を出すか、本を出して有名になるか

2016.12.22 公式 ビジネス書業界の裏話 第22回
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作家主導から企画主導へ

そうはいっても、ビジネス書や実用書のような、やや専門性のある分野の作家がフツーの人になったのは、比較的最近のことだ。70年代以前の出版界では、原稿は大先生から押しいただくものであった。そのころには、まだビジネス書という分野はなかったため、ビジネス書は法経書というくくりであったり、経営書という位置づけにあった。このころの作家は、前にも触れたが、大学教授や有名シンクタンクの「先生」ばかりだったのである。

出版社は大先生の原稿をいただき、本にさせていただく立場である。「こんな原稿じゃ読者がついてきてくれませんよ」などとは、口が裂けてもいえなかった。こうした作家主導の出版が、企画主導の出版に変わっていく先鞭(せんべん)をつけたのは、この連載で何度も紹介している、光文社のカッパブックスをつくった神吉晴夫氏である。

今日のビジネス書の編集スタイルは、カッパブックスの成功から始まっている。ビジネス書の出版というのは、80年代以降、大先生の専売特許からフツーの人の表現手段へと進化したのである。しかし、いまや出版の市場規模は、神吉氏の時代から半減してしまった。斜陽産業となった出版界では、企画主導から再び作家の名前に頼る傾向に拍車がかかっている。最近の出版界は、むしろ神吉氏以前の時代へ先祖がえりしているように見える。このような状況下では、フツーの人が作家デビューするハードルは高くなる一方だ。

本を出せば、必ず読者をつかめそうな人でも、チャンスに恵まれないことのほうが多い。実力があればいつか世間は認めるものだという譬(たと)えに「嚢中(のうちゅう)の錐(きり)は自ずから頭角を現す」ということわざがあるが、袋の皮は厚くなるばかりで、錐も頭角を出しようがないというのが現状である。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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