長いことビジネス書づくりに携わってきた仕事がら、これまで多くの財界の大物、有名人といわれる人たちに会ってきた。アメリカ人作家のナポレオン・ヒルは鉄鋼王カーネギーに会って、鉄鋼王直伝の成功法則を本にまとめたが、わたしの場合、そのような成果物を生み出すことはできなかった。
大物・有名人に会って、わたしがわかったことといえば、大物・有名人といわれる人たちが、意外なことに実はあまり大物ではなかったということだ。割合、フツーの人が多かったのである。
格別に立派だったという人は、本当に数えるほどしかいない。こちらの見る目のなさを棚に上げていえば、そう大したとりえのない人ばかりだったのである。しかし、考えてみればこれは驚くことではない。なぜなら、有名人の半分は、フツーの人が何らかの理由で有名になったに過ぎないからである。元を正せばフツーの人なのだから、こちらの印象が「なんだフツーじゃないか」となっても当然といえよう。
出版相談を受けていると、よく「本は立派な経歴の人しか出せないんじゃないか」という質問を受けることがある。目立つ本というのは、概ねネームのある作家の本であるから、世間の人からは、本は立派な経歴の人が出すものという風に見えるのも無理はない。そもそも本を出しているという実績も、立派な経歴のひとつである。立派だから本が出ているのか、本が出ているから立派なのかといえば、実際のところ後者のほうが多い。
有名作家といわれる人は、有名だから本を出したのではなく、ほぼ例外なく本を出したことで有名になった人である。遠くは長谷川慶太郎氏、近くは池井戸潤氏も、本を出す前は無名の人だった。したがって、先の相談者の質問への答えは、常に「ノー、フツーの人で何ら問題ありません」である。
大物・有名人というとき、ビジネス書に限っていえば、次の2つのタイプに分かれる。
Aタイプ:本を出す以前に大物・有名人であった。
Bタイプ:本出したことで大物・有名人になった。
Aタイプは、財界のトップを務めたような大物経営者であったり、何らかの大きな実績をあげた人である。大企業の経営者もAタイプに入る。有名になった経緯がAかBかはともかくとして、大物・有名人作家の下には出版社が群がってくる。その結果、書店には大物・有名人の本が氾濫するため、世間の人々は、ますます本は大物・有名人が書くものかと思ってしまう。
しかし、Bタイプの大物・有名人は本を出す以前には無名の人で、本を出したことによって有名になったのである。そういうタイプの大物・有名人も有名人の半分はいるのだから、作家というポジションは大物・有名人の専権事項ではない。