さて、前回は1軍レギュラーに定着し、その後、有能な若手の台頭で世代交代を意識させられるようになった頃までをお話ししました。今回は、そこから引退を迎えるまでの、私の野球人生の“総決算期”について触れてみたいと思います。
前回お伝えしたとおり、2005年からレギュラーの座を退き、代打として起用されるようになりました。代打で結果を出すために心がけていたのは、とにかく「1球目からバットを振っていくこと」です。手を出すべきかどうか、なんて考えているうちにどんどん追い込まれてしまいますから、とにかく早めに“勝負”に出ることが重要なんです。最初から勝負に打って出るという、いわば短期決戦だと思って代打に臨んでいましたね。
私はもともと、短期決戦は得意でした。たとえば相手ピッチャーのことを事前にきっちり研究し、対策を練って打席に立つといったやり方よりも、相手の球種だけ把握しておいて“ぶっつけ本番”で勝負するほうが結果を出せると考えていましたね。
代打になって、試合中の心構えも大きく変わりました。代打は、いつ打席に立つことになるかわからない。だから、試合開始直後から「本番モード」で気を張っていたら、いざ出番を迎える頃にはひどく消耗してしまいます。そうならないよう、私は試合開始からしばらくの間は、「他人事」のような感覚で試合を眺めていました。こうすることで神経が張りつめるのを防ぐことができるし、冷静に俯瞰できるので、かえって試合の流れを読むことができたように思います。
それでももちろん、代打にも緊張感はありました。でも、たとえば若い頃の9回2アウトからの守備固めなどに比べれば、たいしたものではなかった。守備固めにおいてミスは許されませんから、その緊張感たるや別格なのです。一方、代打に求められるのは、せいぜい打率にして3割。まして対戦相手は、ほとんどがリリーフエースかクローザーです。言ってみれば「打てなくて当たり前」「打てたら儲けもの」なんですね。それがわかっているから、過度に緊張することはありませんでした。そしてその、適度に肩の力が抜けていたことが、代打として良い結果を残すことにつながったのかもしれません。
「切り替えが速い」という私の性格も、代打と相性が良かったように思います。バッターにとって1打席1打席が勝負であることは間違いないのですが、そもそも打席に立つチャンスが少ない代打は、ともすれば1打席に集中しすぎてしまうんですね。そういう傾向の選手だと、ある打席で打てなかった場合、翌日まで引きずってしまい、また結果が出せず……という悪循環に陥る可能性があります。
でも、すでに結果が出てしまったことを悩んでいても仕方ありません。過去に悩むより、未来に目を向けて「次、どうするか」に思いを馳せるべきなんです。私は昔からそういう思考をするタイプだったので、自然と切り替えが速く、過去の結果に邪魔されることなく打席に立つことができました。代打として一定の実績を出し、一時は「代打の神様」などとも呼ばれることができたのは、ひとえにこの切り替え上手な性格のおかげではないかと感じています。