社会が変わればビジネスも変わり、ビジネスが変わることによって、また社会も変わる。富士山に外国人観光客が押し寄せるようになれば、山小屋といえども国際化に対応しなくてはならなくなるし、コンビニの登場によって、日本人は日常的に深夜まで活動するようになった。また、高齢化社会の拡大により、流通・サービス業界では再び配達が注目されつつある。
社会が変われば、新たに必要とされるビジネスが誕生する一方で、退場を余儀なくされる産業も出てくる。音楽産業では、レコードがCDに変わった段階でレコード針は需要を失い、CDも不要となったいま、CDプレスメーカーはその役割を終えた。
しかし、企業とはゴーイング・コンサーン(継続企業)である。需要が減ったからといって、むざむざと退場するわけにはいかない。社会が変われば、会社も変わる。いや、変わらざるを得ない。これが継続的に発展するための企業の鉄則である。変化について行けなければ、座して死を待つばかりだ、といって、変化に振り回されてばかりでは、徒(いたずら)に体力を消耗するばかりで、これも自滅への道である。無闇に、ただ変わればよいというものではない、社会の変化に正しく対応するためには、正しい変わり方があるのだ。
それをこれから見ていこう。
同じ風景を眺めていても、抱く印象は人によって異なる。同様に、変化に直面したときにも、そこにチャンスを見出す人と見出せない人がいる。両者の差はどこにあるのだろうか。目の前に変化が迫ってきたとき、人は次の3つのタイプに分かれる。
1.変化に対し何もできず、取り残され没落するルーザー(負け犬)タイプ
2.変化に対応はするが、かろうじて生き残るサバイバルタイプ
3.変化をチャンスとして捉え、積極的に活用して自社の成長・発展に結びつけるウイナー(勝利者)タイプ
このうち、望ましいのがタイプ3であることは言うまでもないだろう。では、タイプ1と2と3では、何が違うのか。大きな違いは、まずタイプ1と2が変化を危機(クライシス)と捉えているのに対し、タイプ3は好機(チャンス)として捉えているということだ。
変化を好機と捉えることができれば、変化に対し積極的に対応したり、さらには自ら進んで変化を起こすことになる。
一方、変化が危機でしかないのなら、できれば変化は起きてほしくないことであり、ついつい目をそむけがちとなる。変化から目をそむけることは、変化に取り残され没落するルーザーの態度である。したがって、常に変化をチャンスと捉える習慣が、社長に必要なマインドといえる。実際に、ビジネス環境の変化を、新しいビジネスを誕生させる好機とした経営者は多い。そのひとりに、KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)創業者のカーネル・サンダースがいる。
カーネル・サンダースが経営していたロードサイド型のレストランは、新しいハイウェイが開通したことによって車の流れが変わり、お客が激減してしまった。このままではレストランは営業を続けることはできない。このときカーネル・サンダースがとった行動は、自分のレストランで好評だったフライドチキンのレシピを他店に売ることだった。カーネル・サンダースのレシピを使ったフライドチキンを売る店は、チキンを1羽売るごとに5セントをレシピの使用料として払うという契約である。現在、世界中に広がっているKFCはここから始まった。カーネル・サンダースは、このフランチャイズ契約を全米に売り歩いたのだ。新しい道路の開通、車の流れの変化という不利な状況を、新しいビジネスを誕生させる好機としたのである。
変化は常に新しいビジネスを生む。ビジネスチャンスを我がものとできるか否かは、まずトップ自身に変化を好機と捉えるマインドがなければならない。したがって、トップは意識して「変化はチャンス」と考える習慣を身に付けるべきである。
変化を好機と捉えるマインドの重要さがわかったら、次は積極的に外に出ることを習慣づけよう。
「すべてのチャンスは外にある。内部にあるのはコストだけだ」
(ピーター・F・ドラッカー)
この言葉にあるとおり、変化の芽も、やはり会社の外にある。社長室にいて、変化の兆しを掴むことはできない。入ってくるのは「後追い加工情報」のみとなる。したがって、トップはまず社長室から出て、社内を回ったり、さらに会社の外に出て行くべきだ。トップは「猟犬社長」であるべきであり、「穴熊社長」になってはいけない。外に出て変化というチャンスを探す猟犬であるべきであり、社長室という社内の穴倉にこもっている穴熊では、世の中で起きている変化に対して不感症になる。トップは働く時間のうち、少なくなくとも20%以上は外に出るべきである。私はこれを「街に仕事をしに行く」と称している。
「外の風」に当たることによって、目が覚めることは多い。大事な情報は、ほぼ例外なく社長室の外にあるものだ。そして、外に出たらできるだけ歩くこと。車で通り過ぎるだけの景色と、その場に降り立ち空気を感じて景色を眺めることで、感受する情報の量と質は大きく違ってくる。あちらこちらに足を運ぶと人の生の声を聴くこともできる。「外に出たら自分の足で歩くこと」。これも変化をいち早くつかむための基本である。変化の兆しというのは情報の一種だ。
“MBWA (Management by Walking Action=(歩き回ることによる経営)”が重要である。
変化を見抜くには、多くの情報を集め、分析することが必要である。しかし今日、情報の問題は、情報が集まらないことではなく、情報が過剰であることだ。ほとんどの、いわゆる情報はゴミの山に過ぎない。あまりにも過剰な情報量は、情報が少ないことよりもかえって始末が悪いのである。したがって、情報は収集方法と分析によって絞り込まなければいけない。収集方法の絞込みとは、現場、現物、現実に基づいた情報を集めることに情報源、収集方法を絞り込むことだ。
次に分析だが、一定の機械的スクリーニングを経た後、決め手となるのは経験とカンである。カンの度合は経験値に比例する。カンは、外に出て市場の現場、現実社会の現場にでしか磨くことができない。情報の有効活用のためには、量を集めることによりも、どれだけ適切に「捨てる」ことができるかにかかっているといえよう。適切に「捨てる」ことができなければ、ビッグデータもプラチナデータも宝の持ち腐れとなる。