今日は1月8日である。2018年もすでに一週間が過ぎた。読者の多くが、年頭に当たって期するものを抱いていることと思う。そこで新年の第一回目となる本稿のテーマを「計画する力」とにした。
計画の重要性については、いまさら言うまでもないだろう。何事も計画が杜撰(ずさん)なままでは、上手くいくはずがない。無論、経営においても計画は重要なことである。だが、計画が結果のよし悪しに及ぼす影響は、実はそれほど大きくなく、カルロス・ゴーン氏の言葉を借りれば「企業が成功するために、計画の重要性は5%、残りの95%は実行(execution)」である。
古来、「百聞は一見に如かず 百見は一考に如かず、百考は一行に如かず」という。百の見聞、百の熟慮もひとつの行動に及ばないということだ。百考を重ねた計画であっても、行動が伴わなければ、何ひとつ結果は得られない。水泳の本を読んでも、実際に水に入って泳がなければ水泳は上達しない。ゴルフの本を読破したところで、自分でクラブを振らなければゴルフは上達しない。どんなに緻密な計画を練ったとしても、実行が伴わないことには何も始まらない。この点に異論を唱える人はないだろう。
明治から大正期に行政官・政治家として、国家建設に辣腕(らつわん)を振るった後藤新平も「妄想するより活動せよ。疑惑するより活動せよ」と行動の重要さを謳っている。では計画は無用なのか。いかに行動を重視するといっても、計画をおざなりにするようでは、実は肝心の行動も心もとない。計画が無用というのは、いささか言葉足らずであり、誤解を招く恐れがある。
計画について押さえておくべきポイントのひとつは、計画とはまず行動が伴っていること。そうして、はじめてよい計画といえるということだ。つまり、計画には行動に結びつく仕掛け、仕組みが必要なのである。
行動に結びつかないような浮世離れした計画や、到底、実行が不可能の無理・無謀な計画がよい計画とはいえないのは当然のことながら、実行する意欲が湧いてこないような計画も落第である。つまり、会社の計画にあっては、社員の行動を喚起し、社員が進んで行動したくなる計画がよい計画ということだ。
したがって、社員が主体的、積極的に計画の実行に動き出す仕掛けと仕組み、すなわち明確なゴールとルートの設定、および計画達成で得られる褒賞や名誉について、あらかじめ計画に組み込んでおくことなども、よい計画の条件の一つとなる。では、行動さえ伴っていれば十分な計画と言えるのか。
よい計画の条件は、それだけでは満たせない。なぜなら行動には愚行もあれば善行もあるからだ。愚行を戒め、善行に導くには、行動を点検・評価し見直すプロセスがなくてはならない。計画には必ずチェックが必要なのである。よい計画とは、すなわち行動をいざなう仕掛けと仕組み、それに行動を評価・見直すプロセスがあらかじめ組み込んである計画ということになる。
どんな組織でも、新規事業に取り組むときには必ず計画を立てる。何年後までにどの程度の経営資源を投入して、どの程度の収益を上げるかという事業計画は、どこの会社でもやっている。しかし、計画通りに順調に収益が伸びていけばそれでいいが、新規事業の場合、往々にして想定外の障害が次々と現れ、思った通りに事業は伸びないことも多い。そうした場面に遭遇したとき、最悪なのはいたずらに経営資源を投入し続け、改善の見通しがつかないまま傷口ばかりを広げてしまうことである。
多くの会社の新規事業の計画は、目指す目標に対する実行計画だけしかない。入り口はあるが、ゴールにたどり着く以外には出口が用意されていないのだ。そのため、累積赤字が積み重なり、絶望的な状況になるまで撤退という選択肢が出てこないのである。これもチェック機能、すなわち評価と見直しが計画に十分に組み込まれていないケースといえる。
新規事業の計画には、あらかじめ何年までにどれだけの経営資源を投入し、定められた水準に収益が達しない場合には、撤退という出口を設けておくことが大事だ。事業計画の進捗についてチェックはするが、「もっと頑張れ」と叱咤激励するだけでは正しい評価・見直しをしたとはいえない。計画によっては、出口計画を組み込んでおくこともよい計画の条件である。