強い基礎(コンプライアンス)の上には、強い(信用・信頼)が築かれる。信用と信頼は企業にとって攻めの力となるが、時に企業は信用・信頼に助けられることもある。永続企業になるためには、社会から信用と信頼を寄せられる存在でなければならない。大企業でも、中小企業でも、企業規模の大小にかかわらず、正しい経営を続けていれば、社会から信用・信頼され、邪道な経営をしていれば社会から追放されることになる。
2017年で最も大きな倒産は、自動車エアバックメーカーのタカタであろう。正しくは民亊再生だが、経営が立ち行かなくなったという事実は大きい。世界のエアバック市場の20%を占めるといわれる大企業といえども、社会からレッドカードを突きつけられれば、たちどころにその命を失ってしまう。日産自動車の傘下に入った三菱自動車も同様だ。その三菱自動車を傘下に入れた日産自動車もいま揺れている。企業ブランドとは、社会的な信用・信頼そのものである。
タカタは押しもおされぬブランドだった。だが、社会的信用と信頼という基盤を毀損すれば、一瞬で崩れ落ちてしまう。どんなに優れた技術をもった企業でも、この会社でなければダメだという分野はこの世にほとんど存在しない。特にビッグビジネスを展開している会社ほどそうした傾向は強い。優れた技術力では会社はよくならない。技術を正しく使う経営力が肝要である。そして、経営力の根幹にはコンプライアンス(法徳遵守)がある。
東芝はぎりぎりのところで踏みとどまっているように見えるが、社会的な信用・信頼を失えば、百数十年かけて営々として築いた信頼も、3日で崩壊することになる。「築城三年、落城三日」なのである。
中には、不祥事を起こした後に立ち直った企業もある。社会は正しい経営を続けてきた企業に対して、救いの手を差し伸べることがある。一時的に、間違った方向に進んでしまったとしても、社会からもう一度やり直すチャンが与えられるのだ。
伊勢の名物「赤福餅」のメーカー赤福と、北海道のおみやげナンバーワン「白い恋人」のメーカー石屋製菓は、不祥事から立ち直った。「赤福餅」は、伊勢神宮と切り離して考えることができない。「白い恋人」も北海道という地域があっての菓子だ。それぞれに個性の強い商品だが、決して代わりがないという商品ではない。しかし、地域との一体感は、他の商品よりも抜きん出ている。
食品不祥事を起こした企業には倒産したケースも少なくない。代表例は雪印だろう。不二家も経営危機に陥り山崎パンの傘下に入ることで生き延びた。両社は共に赤福、石屋製菓に比べ大企業である。しかし、両社は赤福、石屋製菓のような地域との一体感はなかった。地域社会は赤福、石屋製菓には救いの手を差し伸べたが、雪印、不二家に対して社会は差し伸べなかった。赤福には、地元の伊勢神宮の商店街の復興に力を尽くしてきた経緯がある。石屋製菓にも「札幌ブランド」を築くことに長く貢献してきた実績があった。社会貢献は、“結果”として企業を救う大きな因子となり得るのである。
徳には余熱があるという。孟子の言葉だが、過去の経営者が築いた信用と信頼には余熱効果があり、現在の経営者が仮に経営を誤ったとしても、余熱効果でしばらくは社会からの信用と信頼が猶予されるという意味だ。過去に築いた信用と信頼は、決して過去のものではなく、未来に遺す資産でもある。
次回に続く