人は誰しも夢を持つ。夢や理想のない人は、実質的に死んだ人である。夢を持つことは万人に与えられた権利だが、実際に夢をかなえられるのはごく一部の人でしかない。夢をかなえるのは、ほんの一部の、極めて運のよい人だけに許される特権なのだろうか。
私の経験から言えば、夢をかなえるためには確かに運もツキも必要ではある。しかし、最も重要なことは夢を目標にすることだ。夢は目標となって、はじめて実現に近づき始める。夢は夢のままでは、一歩も実現に向かって動き出すことはない。目標となっていない夢は、単なる夢見る夢子さんの夢であり、ビューティフルドリーマーの幻想のままで人生が終わってしまう。
では、夢を目標に変えるためにはどうすればよいか。夢は、そこに時限設定と行動計画を加わることで目標となる。それが次の公式である。
「目標=夢+時限設定+行動計画」
つまり、夢をかなえるために必要な力とは、夢を目標に変える力である。時限設定とは、すなわち締め切りである。時限設定つきの行動なくしては、夢は目標とはなり得ない。目標にならなければ、夢は実現できない。時限設定と行動計画とは「いつまでに何をやる」ということだ。
また、夢をかなえるには、締め切り(デッドライン)のプレッシャーを伴う具体的な行動が肝心である。時限設定も行動計画もない目標は、目標ではない。ただ単なる願望に過ぎない。願望人間で成功した人は、この世に一人もいない。運頼みだけでは、宝くじを買って僥倖(ぎょうこう)を祈るようなもので、夢がかなう確率は1%~2%程度である。さらに言えば、運というものは正しく目標に向かって行動している人には、味方となってついて来る。したがって、夢を目標にして行動している人は、自然と運にも恵まれることとなる。
個人の夢をかなえるためのプロセスについては、具体的な事例として私自身のことを述べたほうがよいだろう。このブログでも何度か述べているとおり、私は45歳までに社長になるという目標を32歳の時に立てた。45歳までにというのが時限設定である。目標達成までに残された時間は13年だ。
夢の時限設定から逆算していけば、いつまでに何をしなければいけないかという行動計画が必然的に決まり、プロセスの中のマイルストーンとなる中間目標が決まる。途中にあるマイルストーン目標を達成し、結果を積み重ねることによって、最終ゴールである夢の実現に結びつく。マイルストーンとなる中間目標が決まれば、達成するために必要なスキルとマインドも明らかになる。
私の場合、マーケティングスキル、コミュニケーションスキル、英語力、マネジメントスキル、リーダーシップスキル、人間力、大局観といったものが、段階を追って求められる能力だった。そうした能力をどうやって鍛え、レベルアップさせるか、そして何を経験するべきかという自己啓発計画もそこから見えてくる。
私は、シェル石油でスキルとマインドを鍛え、日本コカ・コーラで伸ばし、結果としてジョンソン・エンド・ジョンソンで社長となった。もちろん当初の計画どおりにいかないことは多い。私の場合も、行動計画には途中でさまざまのものが追加された。しかし、究極的なゴールやマイルストーンを動かしたことはない。
富士登山ならば、あくまで頂上を目指すこと。締め切りをやすやすと延期したり、達成レベルを落としたりしない粘り強さも、夢を実現するために肝心なことだ。確かに13年も先のことを計画しても、途中でどうなるかわからないという危惧はある。しかし、行動計画のある目標は、ない目標に較べ達成率で9:1ほどの差が生じる。確かな見通しの立たない計画であっても、計画があることは大事なのだ。
目標はゴールとなる大目標であっても、マイルストーンとなる中間目標であっても、明瞭・明確であることが基本。あいまいではいけない。いつまでに何をするか、誰が見てもわかる明確な目標を立てること、これこそが目標を達成するための原則だ。また、中間目標で大事なことは、必ず結果や進捗のチェックを行うことである。
プロ野球日本ハムファイターズの大谷翔平選手が、高校時代からノートをつけていたことは有名だ。練習や試合の前に今日何をやるか、何を目指すか、練習・試合後に何をやったか、どこまでできたか、次にやるべきことは何か等を記録し続けたのである。
スポーツ選手にはノートをつけている人は多い。ノートは単なる記録をつづるだけではなく、目標の再確認でもあり、夢の再認識でもある。多くのスポーツ選手がノートをつけるたびに、「オリンピックで金メダル」とか「日本代表になる」という夢を最後に書き加え、夢実現のイメージづくりをしていると聞く。
こうした習慣は、いわば夢をかなえるためのPDCサイクルと言えよう。プラン(計画)、ドゥ(実行)、チェック(評価・改善)を繰り返すPDCサイクルを回し続けることは、夢を実現するための大きな推進力となる。目標を達成するための方法論については、すでに本ブログの第5回「目標の力」で述べているので、ここではこれ以上の詳述を控える。