第16回ファンタジー小説大賞
選考概要
第16回ファンタジー小説大賞には3207作品と、例年に劣らず多くのエントリーが集まった。趣向を凝らした力作が多数あった中で、一次選考を通過したのは48作。悪役令嬢に転生したり並外れたスキルを手にしたりした主人公の活躍を描く王道の作品から、ミステリーのテイスト、あるいはループモノの要素を盛り込んだ一味違った作品まで、改めてファンタジーというジャンルの幅の広さを認識させられた。
さらに選考を重ね、編集部内で大賞候補としたのは、「ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します」「離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~」「ホーム(自宅アパート12部屋)と伴に異世界へ」「悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く」「信じた聖女に裏切られて王国に処刑された死に戻りの第六王子は、復讐のために隣国の『ギロチン皇女』と再び婚約した結果、溺愛されて幸せになりました」「前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢~幼女になった皇帝、父親にブタ貴族へ売られそうになったから家を捨てて冒険者を目指すもカリスマ性は隠しきれない~」「S級パーティーから追放された劣等剣士、天界から追放された堕天使さんと出会う。もうお互い人生に疲れていたので、一緒にスローライフを目指します」の7作品。
これらの候補作の中で、すでに読者賞に決まっていた「ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します」が、編集部内でもやはり高く評価され、大賞とのW受賞に決定。そしてテーマ別賞では、『ヒロイン賞』に「離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~」、『癒し系ほっこり賞』に「悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く」、『キャラクター賞』に「前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢~幼女になった皇帝、父親にブタ貴族へ売られそうになったから家を捨てて冒険者を目指すもカリスマ性は隠しきれない~」、該当するテーマ別賞がなかった「信じた聖女に裏切られて王国に処刑された死に戻りの第六王子は、復讐のために隣国の『ギロチン皇女』と再び婚約した結果、溺愛されて幸せになりました」については、『ストーリー賞』を新設し、授与。特別賞に「ホーム(自宅アパート12部屋)と伴に異世界へ」と「S級パーティーから追放された劣等剣士、天界から追放された堕天使さんと出会う。もうお互い人生に疲れていたので、一緒にスローライフを目指します」を選出した。
なお、最終選考に残ったものの、惜しくも受賞に至らなかった作品を奨励賞とした。
「ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します」は、ラノベの中に悪役令嬢として転生した主人公が断罪を回避するために奔走する王道のストーリー。ヒロインが周囲の人々と協力して運命に抗いながら、貴族の悪事を暴いていく展開が爽快だった。主人公を取り巻く三角関係を描いた「恋愛モノ」としてのクオリティが非常に高く、かつ「内政モノ」の良さも味わえる物語の幅も評価された。
「離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~」は、氷の中に十年もの間閉じ込められていたヒロインが離縁され、魔道具店を始める物語。主人公を閉じ込めた犯人を探るミステリー要素を主軸に置きつつ、獣人の少年をはじめ、魅力的なキャラクターたちと成長するヒロインを描いた秀作だった。
「悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く」は、幼女に転生した主人公が両親と五人の兄に溺愛されるストーリー。タイトル通り、魔法やチートで我が道を行く主人公と、個性的なキャラクターが絡む鉄板の展開に評価が集まった。冒険者になるべく努力したり、国内の事件を追ったりと、「愛され」以外の要素も上手く盛り込まれていた。
「信じた聖女に裏切られて王国に処刑された死に戻りの第六王子は、復讐のために隣国の『ギロチン皇女』と再び婚約した結果、溺愛されて幸せになりました」は、自国に嵌められて命を落とした第六王子の死に戻り復讐譚。共に処刑された『ギロチン皇女』の最期の言葉を知るため奮闘する主人公、息もつかせぬ展開、それらを十全に活かす構成力が光った。
「前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢~幼女になった皇帝、父親にブタ貴族へ売られそうになったから家を捨てて冒険者を目指すもカリスマ性は隠しきれない~」は、幼女として転生した皇帝が、『普通の生活』を目指す話。『普通』の幼女冒険者として振舞いながらも、過酷な前世で得た威圧感、存在感、カリスマ性が滲み出てしまう、その外見と中身のギャップが絶妙だった。
「ホーム(自宅アパート12部屋)と伴に異世界へ」は、異世界転生した主人公が、住んでいた日本のアパートに入ることができるという、オリジナリティのある能力設定が光る作品。さっぱりした性格のヒロインやあとから召喚される彼女の兄をはじめ、キャラクターの造形も秀逸だった。
「S級パーティーから追放された劣等剣士、天界から追放された堕天使さんと出会う。もうお互い人生に疲れていたので、一緒にスローライフを目指します」は、それぞれパーティーと天界を追放された剣士と天使がスローライフを目指す話。二人の交流が微笑ましく、可愛らしい天使のキャラクターに癒される作品だった。
また、上記以外にも、大賞候補作の中には是非出版化を進めたい、あるいは出版化の道を探りたい魅力のある作品が数多くあり、個別に連絡をしていく予定である。同じく大賞候補作以外にも出版化を検討したい作品もあり、編集部より個別にオファーあるいは出版化への挑戦の打診をしていきたい。
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
元夫である第一王子やその妻に嫌がらせを受けながらも逞しく、自立して生きていこうとする主人公のサーラが非常に魅力的でした。また、ツンデレ第二王子のリアムや獣人の子供・フランのキャラクターも応援したくなります。そういったキャラクターたちが奮闘する様が楽しく描かれており、物語に引き込まれました。
悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く
主人公をはじめ脇を固めるキャラたちも個性豊かで大変魅力的です。悪役令嬢に転生した幼女ヒロインが両親と5人の兄に溺愛されるという人気設定をしっかり押さえながら、事件の真相を追及したり、冒険者になるべく自らの力で人生を切り拓くなど、定番におさまらない痛快な物語として纏まっていました。
冷酷さとカリスマ性を兼ね備えた皇帝が幼女の姿へと転生する、というテーマ性の面白さに引き込まれました。幼女皇帝の見た目の可愛らしさと、威厳のある口調のギャップが印象的で、キャラクター造形が巧みだと感じます。冷酷になりきるための葛藤や、時折垣間見せる優しさなど、心情の描き方も丁寧でした。
悲劇の運命を変えるため、二度目の人生を決死の覚悟で生きる主人公・ギュスターヴの姿に心打たれました。一癖も二癖もある登場人物たちのやりとりに張り詰めたような緊張感があります。色っぽい恋愛模様あり、熱い決闘展開あり、そしてショッキングな裏切りありの非常にドラマチックなストーリーでした。
ホーム(自宅アパート12部屋)と伴に異世界へ
自宅アパートをまるごと利用できる能力という設定のユニークさが際立った作品でした。アラフィフ主人公の実年齢にふさわしい親近感のある語り口も、本作の魅力になっていると思います。冒頭で苦境を脱して、そこから地道ながら楽しく異世界を冒険していく様が生き生きと描かれていたと感じました。
元冒険者と堕天使で送るスローライフという、珍しい切り口で王道をいく作品といった印象です。堕天使のティアが可愛らしく、エルディとのほのぼのした絡みにほっこりさせられます。キャッチーな展開とテンポの良さが素晴らしく、スローライフ好きな読者をしっかり癒してくれる安定感があると感じました。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
悪役令嬢に転生した主人公が断罪を回避するために奔走しつつ、貴族の不正を暴いていく様が痛快で、構成力の高さを感じました。それだけでなく、クローディアとフィルガルドとブラッドの三角関係も魅力的に描かれており、読者を引きつけて離しません。また、芯の強いヒロイン、そして彼女を取り巻くキャラクターたちが個性豊かに描かれている点も素敵でした。