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「勉強って楽しいですねー。そういえば、私、どうして授業を受けてるのでしょうか?」
誰か、この人を止めてくれ。
コイツは絶対に、学校にいたらいけないタイプの生き物だから……。
「こ、高坂君。お昼の、時間だよ?」
「ぁ、ああうん。そうだね」
顔を上げると、弁当箱を持った悠人と遥がいた。今は栄養分を摂取して、少しでも体力を回復せねばだ。
「ねえねえ。サヤっちも一緒に食べようよ」
「おや。いいのですかー?」
「モチさ。あたしと悠人っちは手伝いしてて朝は自己紹介程度しかできなかったし、移動教室もあったから、もっと色々話したいなって」
友達を作る名人・遥は僅か数分でサヤと仲良くなり、すでにお互いを「サヤっち」「遥さん」と呼ぶようになっていた。人見知りが激しい悠人も、俺の親戚という安心感からか、会話できるくらいに打ち解けている。
「それは、嬉しいですねぇ。では、ご一緒させて頂きます」
「ナイスサヤっちっ。それじゃあ4人で行きますかっ!」
俺は鞄からコンビニ袋を取り出し、俺たちはいつもの場所――屋上へと移動開始。校内を歩き、三階から屋上へ続く階段を上り、扉を開ける。すると、春のそよ風と晴天の空がオレたちを迎えてくれた。
「おおー、これは絶景ですねぇ。誰もいませんし、この景色を独り占めって感じです」
「そーでしょそーでしょ。サヤっちも気に入って何よりだ」
ここ白月高校では数年前に生徒を呼ぶための新たな武器として食堂の大改造が行われ、大抵の生徒は『安い、早い、美味い』学食を利用する。よってここは、俺らの指定席みたいになっているのだ。
「ではさっそく! お昼ご飯としゃれ込もうぜい!」
「だな」
俺たちは円になるように――俺から見て時計回りに、悠人、サヤ、遥という形で、コンクリートの地面に腰を下ろした。こういう座り方にしているのは言わずもがな、お互い顔を見て駄弁りながら食事ができるからだ。
「さて、と」
俺はコンビニの袋に手を突っ込み、今朝購入しておいたマーガリンコッペとジャムコッペを取り出す。
何のへんてつもないコッペパンにマーガリン等を挟んだシンプルなモノだけども、これで1個百円しないのだから貧乏学生は大助かりだ。
ちなみにサヤには、サンドイッチを買った。遠慮していたのだが、一応は命の恩人になるのだからこれくらいしないと罰があたるからね。
「おやおや~、お二人さんは出来合い品かい? サヤっちよ、手作り弁当イベントはいつ発生するんだい?」
意地悪い笑みを浮かべた遥が、しょーもない話を振る。
「手作り弁当ですねー。それは、明日辺りから挑戦したいと思っているのですよー」
「ほー、早々にやる気だねぇ。でも明日は建校記念日でお休みだから、拝めるのは明後日になりそうだ」
「そ、そうなのですかー……。それは計算外でしたー」
「よっし、悠人。この人達は放っておいて食べるぞ」
「えっ、あ、う、うん」
このまま放置しておくと不毛な話題が延々続きそうだから、勝手に食事スタート。俺がパンの袋を開き始めた頃、ようやく二人も取り掛かった。
「いだだきます」
味の濃い苺ジャムコッペはメインなため、まずはマーガリンコッペから食す。
…………ふむ。口の中いっぱいに植物性油分の優しい甘みと滑らかな食感が広がる。土台となるパンは少しパサパサだけど、噛めば噛むほど本来の糖分が出現するなかなかの代物。
朝を抜いていたから、あっという間に1個たいらげた。
「ところでさー。そういやさー。サヤっちは戸籍上は親戚になってるけど、順平と一緒に住んでてラヴな関係に発展する可能性はないのかい?」
ポテトサラダをついばんでいた遥が、下世話な話題を展開し始める。この人はホント、こういう話をしたがるよね。
「それがですねー。私はそうあって欲しいのですけど、順平さんにその気がないみたいでして、無下に扱われちゃいます。よよよ~」
こっちは最後の一切れを口に放り込んでの、サヤ。「よよよ~」はどういう意味だ。
「あらら可哀想に。でもね、サヤっち。順平はいわゆるツンデレってやつで、ある日突然デレるから諦めるんじゃないぜい。一度落としてしまえばこっちのもんさ!」
「そうなのですかー!」
「違います」
俺はツンデレではありません。突然デレもしません。
サヤは可愛い人なんだけど、ガラスを切って不法侵入しちゃう人だからねぇ。落ちる未来が想像できない。
「むむむぅ。まだまだ好感度を上げる必要がありますねぇ」
「サヤっち、これからは選択肢のミスしちゃいけないぜ?」
しかめる、悟ったような、二者二様の表情だった。
俺はそれ以上相手にするのはやめて、お待ちかねの苺ジャムへと取り掛かる。
「二つ目、いただきます」
小麦色の先端に噛り付くと、そこからは植物性油分の優しい――おや? これは、さっきと同じ感想。断面を見ると、そこにはマーガリンのみがいた。
「おやおや……? おや……?」
切れ目を広げて確認すると、そこは赤色の粒粒入りではなく白っぽい肌色。やっぱりマーガリン。
……はて、これはどういうことだろうか。
買い間違えたのかと包装を見るが…………そこには、『果肉入り イチゴジャム』とある。でも、中身は違った。
ということは、生産上のミスになる。こういう類は機械で大量生産だろうけど、こんなことも発生するらしい。これはある意味貴重かもしれないね(不幸慣れ)。
「高坂君。パンをじっと見てどうしたの?」
「いや、何でもないよ」
こんな些細なことに文句をつけても仕方ないから、有難く頂くことにしよう。同じ味が続くのは少し残念だけど、こっちも立派な食べ物だ。
俺は気を取り直して、口に運ぶ――
ボトッ
「あ…………」
「「「あ…………」」」
この場にいた全員の唖然とした視線と凍りついた声が、俺のパンへと集中した。
あの、ですね……。色々考えた結果含んだ表現をすると……俺が口をあけた刹那、右手に持っていたパン目がけ、鳥の生理現象の産物である白い塊が落下したんですよ。
一瞬射殺すように上空を颯爽と旋回する鳥を見たけど、アイツだって生き物。空を自由に飛び、排泄する権利だってある。八つ当たりをしてはならぬ。でもさ、場所を考えて、下を見て欲しかったよね。
誰か、この人を止めてくれ。
コイツは絶対に、学校にいたらいけないタイプの生き物だから……。
「こ、高坂君。お昼の、時間だよ?」
「ぁ、ああうん。そうだね」
顔を上げると、弁当箱を持った悠人と遥がいた。今は栄養分を摂取して、少しでも体力を回復せねばだ。
「ねえねえ。サヤっちも一緒に食べようよ」
「おや。いいのですかー?」
「モチさ。あたしと悠人っちは手伝いしてて朝は自己紹介程度しかできなかったし、移動教室もあったから、もっと色々話したいなって」
友達を作る名人・遥は僅か数分でサヤと仲良くなり、すでにお互いを「サヤっち」「遥さん」と呼ぶようになっていた。人見知りが激しい悠人も、俺の親戚という安心感からか、会話できるくらいに打ち解けている。
「それは、嬉しいですねぇ。では、ご一緒させて頂きます」
「ナイスサヤっちっ。それじゃあ4人で行きますかっ!」
俺は鞄からコンビニ袋を取り出し、俺たちはいつもの場所――屋上へと移動開始。校内を歩き、三階から屋上へ続く階段を上り、扉を開ける。すると、春のそよ風と晴天の空がオレたちを迎えてくれた。
「おおー、これは絶景ですねぇ。誰もいませんし、この景色を独り占めって感じです」
「そーでしょそーでしょ。サヤっちも気に入って何よりだ」
ここ白月高校では数年前に生徒を呼ぶための新たな武器として食堂の大改造が行われ、大抵の生徒は『安い、早い、美味い』学食を利用する。よってここは、俺らの指定席みたいになっているのだ。
「ではさっそく! お昼ご飯としゃれ込もうぜい!」
「だな」
俺たちは円になるように――俺から見て時計回りに、悠人、サヤ、遥という形で、コンクリートの地面に腰を下ろした。こういう座り方にしているのは言わずもがな、お互い顔を見て駄弁りながら食事ができるからだ。
「さて、と」
俺はコンビニの袋に手を突っ込み、今朝購入しておいたマーガリンコッペとジャムコッペを取り出す。
何のへんてつもないコッペパンにマーガリン等を挟んだシンプルなモノだけども、これで1個百円しないのだから貧乏学生は大助かりだ。
ちなみにサヤには、サンドイッチを買った。遠慮していたのだが、一応は命の恩人になるのだからこれくらいしないと罰があたるからね。
「おやおや~、お二人さんは出来合い品かい? サヤっちよ、手作り弁当イベントはいつ発生するんだい?」
意地悪い笑みを浮かべた遥が、しょーもない話を振る。
「手作り弁当ですねー。それは、明日辺りから挑戦したいと思っているのですよー」
「ほー、早々にやる気だねぇ。でも明日は建校記念日でお休みだから、拝めるのは明後日になりそうだ」
「そ、そうなのですかー……。それは計算外でしたー」
「よっし、悠人。この人達は放っておいて食べるぞ」
「えっ、あ、う、うん」
このまま放置しておくと不毛な話題が延々続きそうだから、勝手に食事スタート。俺がパンの袋を開き始めた頃、ようやく二人も取り掛かった。
「いだだきます」
味の濃い苺ジャムコッペはメインなため、まずはマーガリンコッペから食す。
…………ふむ。口の中いっぱいに植物性油分の優しい甘みと滑らかな食感が広がる。土台となるパンは少しパサパサだけど、噛めば噛むほど本来の糖分が出現するなかなかの代物。
朝を抜いていたから、あっという間に1個たいらげた。
「ところでさー。そういやさー。サヤっちは戸籍上は親戚になってるけど、順平と一緒に住んでてラヴな関係に発展する可能性はないのかい?」
ポテトサラダをついばんでいた遥が、下世話な話題を展開し始める。この人はホント、こういう話をしたがるよね。
「それがですねー。私はそうあって欲しいのですけど、順平さんにその気がないみたいでして、無下に扱われちゃいます。よよよ~」
こっちは最後の一切れを口に放り込んでの、サヤ。「よよよ~」はどういう意味だ。
「あらら可哀想に。でもね、サヤっち。順平はいわゆるツンデレってやつで、ある日突然デレるから諦めるんじゃないぜい。一度落としてしまえばこっちのもんさ!」
「そうなのですかー!」
「違います」
俺はツンデレではありません。突然デレもしません。
サヤは可愛い人なんだけど、ガラスを切って不法侵入しちゃう人だからねぇ。落ちる未来が想像できない。
「むむむぅ。まだまだ好感度を上げる必要がありますねぇ」
「サヤっち、これからは選択肢のミスしちゃいけないぜ?」
しかめる、悟ったような、二者二様の表情だった。
俺はそれ以上相手にするのはやめて、お待ちかねの苺ジャムへと取り掛かる。
「二つ目、いただきます」
小麦色の先端に噛り付くと、そこからは植物性油分の優しい――おや? これは、さっきと同じ感想。断面を見ると、そこにはマーガリンのみがいた。
「おやおや……? おや……?」
切れ目を広げて確認すると、そこは赤色の粒粒入りではなく白っぽい肌色。やっぱりマーガリン。
……はて、これはどういうことだろうか。
買い間違えたのかと包装を見るが…………そこには、『果肉入り イチゴジャム』とある。でも、中身は違った。
ということは、生産上のミスになる。こういう類は機械で大量生産だろうけど、こんなことも発生するらしい。これはある意味貴重かもしれないね(不幸慣れ)。
「高坂君。パンをじっと見てどうしたの?」
「いや、何でもないよ」
こんな些細なことに文句をつけても仕方ないから、有難く頂くことにしよう。同じ味が続くのは少し残念だけど、こっちも立派な食べ物だ。
俺は気を取り直して、口に運ぶ――
ボトッ
「あ…………」
「「「あ…………」」」
この場にいた全員の唖然とした視線と凍りついた声が、俺のパンへと集中した。
あの、ですね……。色々考えた結果含んだ表現をすると……俺が口をあけた刹那、右手に持っていたパン目がけ、鳥の生理現象の産物である白い塊が落下したんですよ。
一瞬射殺すように上空を颯爽と旋回する鳥を見たけど、アイツだって生き物。空を自由に飛び、排泄する権利だってある。八つ当たりをしてはならぬ。でもさ、場所を考えて、下を見て欲しかったよね。
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