高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「あのー。順平さんと少々お話しをしたいので、質問は次の機会にしていただけませんかねー? すみませんが、お願いしますー」

 戻ってきた途端サヤは妙なことを言い出し、周りにいた人達は訝りながらも了承する。皆名残惜しそうにして、もう一人の転校生のもとへと移っていった。

(ねえ、急にどうしたの? 俺に話ってなに?)

 あまりの変わりようだから、なんか引っかかる。そこまで緊急を要する話題なのかな?

「いえいえ。お話はありませんよ~」
「は? じゃあなぜに?」
「実はですね……。あまり大声では言えないのですが――」

 周りを気にしてか、声を落とした。

(星流院さんから『わたくしより目立つな』と、おしかりをうけましてねー。あのような行動を起こしてみました)
「う、嘘……。うそ、でしょ?」

 あのおしとやかなアリスさんが、そんな酷いことを口にするなんて信じられない。でもサヤが嘘を付く理由がないし、俺だけに聞こえるように言った。もしも評判を下げたいのなら、全員に言いふらした方が効果がある。

 つまり、全て真実。

 だとするとよそ見していた俺へ言葉をかけてくれたのは、クラス全員を掌握するための過程にすぎなかったのか。
 ガックリくるものの、だろうねと納得している自分がいるのも悲しい。

「しかし。よく承服したねえ」
「負けず嫌いと言いましょうか、プライドがいやに高い方はどこにでもいらっしゃいますよー。ただ、今回の場合はそこまで悪意はなく、若気の至りみたいなものでしょうから、いちいち目くじらを立てていてはいけません」
「ぉぉ。達観してるねぇ」

 若気の至りって、まるで自分が年上みたいな台詞。この人、一体何歳なんだ?

「社会に出ると色々なことがありますからー、ひとつひとつ相手にしているとキリがありませんよー。適当に受け流す、それが人生を楽しむコツです」
「なるほどねぇ。勉強になります」

 余計に年齢が気になって来たが、そこは追及しないでおく。
 そうして話を終わらせてから、数分後――。三人が教室に戻って来て、今日の授業が始まったのだった。


 一時間目 数学
「順平さん順平さん、小テストはあるのに、中テストはないですよねー」
「うるさい今は話しかけないで。……俺、まだ一問しか解けてないんだよ」

 二時間目 美術
「いや~、木炭デッサンは味があって良いですねぇ~。消しゴム代わりにパンなんてブルジョアです」
「……今は水彩画の授業だけどね」

 三時間目 現国
「前々から思っていたのですが、日本語って奥深いですねー。この年になっても完全に習得できないんですよっ」
「……そうだね」

 四時間目 化学
「順平さん、実はですねー。人類が発見していない元素がまだまだあるのですよ。アルゴンの妹分的存在がですね――」
「…………」


「あー、疲れたー」

 午前中の授業を終えた頃、俺は教室の机に突っ伏していた。
 なんだよあの無茶苦茶は。ふざけたことやってるかと思えば、全世界の常識が覆りそうなことをさらりと言う。席をくっ付けてるから逃れることもできず、ちょっとした拷問だった。毒の床をずっと移動している感じで、じわじわとライフを削られた。


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