15 / 74
(6)
しおりを挟む
「あのー。順平さんと少々お話しをしたいので、質問は次の機会にしていただけませんかねー? すみませんが、お願いしますー」
戻ってきた途端サヤは妙なことを言い出し、周りにいた人達は訝りながらも了承する。皆名残惜しそうにして、もう一人の転校生のもとへと移っていった。
(ねえ、急にどうしたの? 俺に話ってなに?)
あまりの変わりようだから、なんか引っかかる。そこまで緊急を要する話題なのかな?
「いえいえ。お話はありませんよ~」
「は? じゃあなぜに?」
「実はですね……。あまり大声では言えないのですが――」
周りを気にしてか、声を落とした。
(星流院さんから『わたくしより目立つな』と、おしかりをうけましてねー。あのような行動を起こしてみました)
「う、嘘……。うそ、でしょ?」
あのおしとやかなアリスさんが、そんな酷いことを口にするなんて信じられない。でもサヤが嘘を付く理由がないし、俺だけに聞こえるように言った。もしも評判を下げたいのなら、全員に言いふらした方が効果がある。
つまり、全て真実。
だとするとよそ見していた俺へ言葉をかけてくれたのは、クラス全員を掌握するための過程にすぎなかったのか。
ガックリくるものの、だろうねと納得している自分がいるのも悲しい。
「しかし。よく承服したねえ」
「負けず嫌いと言いましょうか、プライドがいやに高い方はどこにでもいらっしゃいますよー。ただ、今回の場合はそこまで悪意はなく、若気の至りみたいなものでしょうから、いちいち目くじらを立てていてはいけません」
「ぉぉ。達観してるねぇ」
若気の至りって、まるで自分が年上みたいな台詞。この人、一体何歳なんだ?
「社会に出ると色々なことがありますからー、ひとつひとつ相手にしているとキリがありませんよー。適当に受け流す、それが人生を楽しむコツです」
「なるほどねぇ。勉強になります」
余計に年齢が気になって来たが、そこは追及しないでおく。
そうして話を終わらせてから、数分後――。三人が教室に戻って来て、今日の授業が始まったのだった。
一時間目 数学
「順平さん順平さん、小テストはあるのに、中テストはないですよねー」
「うるさい今は話しかけないで。……俺、まだ一問しか解けてないんだよ」
二時間目 美術
「いや~、木炭デッサンは味があって良いですねぇ~。消しゴム代わりにパンなんてブルジョアです」
「……今は水彩画の授業だけどね」
三時間目 現国
「前々から思っていたのですが、日本語って奥深いですねー。この年になっても完全に習得できないんですよっ」
「……そうだね」
四時間目 化学
「順平さん、実はですねー。人類が発見していない元素がまだまだあるのですよ。アルゴンの妹分的存在がですね――」
「…………」
「あー、疲れたー」
午前中の授業を終えた頃、俺は教室の机に突っ伏していた。
なんだよあの無茶苦茶は。ふざけたことやってるかと思えば、全世界の常識が覆りそうなことをさらりと言う。席をくっ付けてるから逃れることもできず、ちょっとした拷問だった。毒の床をずっと移動している感じで、じわじわとライフを削られた。
戻ってきた途端サヤは妙なことを言い出し、周りにいた人達は訝りながらも了承する。皆名残惜しそうにして、もう一人の転校生のもとへと移っていった。
(ねえ、急にどうしたの? 俺に話ってなに?)
あまりの変わりようだから、なんか引っかかる。そこまで緊急を要する話題なのかな?
「いえいえ。お話はありませんよ~」
「は? じゃあなぜに?」
「実はですね……。あまり大声では言えないのですが――」
周りを気にしてか、声を落とした。
(星流院さんから『わたくしより目立つな』と、おしかりをうけましてねー。あのような行動を起こしてみました)
「う、嘘……。うそ、でしょ?」
あのおしとやかなアリスさんが、そんな酷いことを口にするなんて信じられない。でもサヤが嘘を付く理由がないし、俺だけに聞こえるように言った。もしも評判を下げたいのなら、全員に言いふらした方が効果がある。
つまり、全て真実。
だとするとよそ見していた俺へ言葉をかけてくれたのは、クラス全員を掌握するための過程にすぎなかったのか。
ガックリくるものの、だろうねと納得している自分がいるのも悲しい。
「しかし。よく承服したねえ」
「負けず嫌いと言いましょうか、プライドがいやに高い方はどこにでもいらっしゃいますよー。ただ、今回の場合はそこまで悪意はなく、若気の至りみたいなものでしょうから、いちいち目くじらを立てていてはいけません」
「ぉぉ。達観してるねぇ」
若気の至りって、まるで自分が年上みたいな台詞。この人、一体何歳なんだ?
「社会に出ると色々なことがありますからー、ひとつひとつ相手にしているとキリがありませんよー。適当に受け流す、それが人生を楽しむコツです」
「なるほどねぇ。勉強になります」
余計に年齢が気になって来たが、そこは追及しないでおく。
そうして話を終わらせてから、数分後――。三人が教室に戻って来て、今日の授業が始まったのだった。
一時間目 数学
「順平さん順平さん、小テストはあるのに、中テストはないですよねー」
「うるさい今は話しかけないで。……俺、まだ一問しか解けてないんだよ」
二時間目 美術
「いや~、木炭デッサンは味があって良いですねぇ~。消しゴム代わりにパンなんてブルジョアです」
「……今は水彩画の授業だけどね」
三時間目 現国
「前々から思っていたのですが、日本語って奥深いですねー。この年になっても完全に習得できないんですよっ」
「……そうだね」
四時間目 化学
「順平さん、実はですねー。人類が発見していない元素がまだまだあるのですよ。アルゴンの妹分的存在がですね――」
「…………」
「あー、疲れたー」
午前中の授業を終えた頃、俺は教室の机に突っ伏していた。
なんだよあの無茶苦茶は。ふざけたことやってるかと思えば、全世界の常識が覆りそうなことをさらりと言う。席をくっ付けてるから逃れることもできず、ちょっとした拷問だった。毒の床をずっと移動している感じで、じわじわとライフを削られた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
まほろば荘の大家さん
石田空
キャラ文芸
三葉はぎっくり腰で入院した祖母に替わって、祖母の経営するアパートまほろば荘の大家に臨時で就任した。しかしそこはのっぺらぼうに天狗、お菊さんに山神様が住む、ちょっと(かなり?)変わったアパートだった。同級生の雷神の先祖返りと一緒に、そこで巻き起こる騒動に右往左往する。「拝啓 おばあちゃん。アパート経営ってこんなに大変なものだったんですか?」今日も三葉は、賑やかなアパートの住民たちが巻き起こす騒動に四苦八苦する。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」
GOM
キャラ文芸
ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。
そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。
GOMがお送りします地元ファンタジー物語。
アルファポリス初登場です。
イラスト:鷲羽さん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる