高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「あの。今なんて――」

 ピンポーン♪

 俺の声を遮り、不意にチャイムが鳴り響いた。

「すいません、ちょっと待ってください」

 名案を聞くのは後にして、サヤさんの隣を通り部屋を出る。自室のドアを開けるとリビングなので、そこからインターフォンの前へと移動する。ちなみにこのインターフォンは画面付きなのだが、数か月前から映像が表示されなくなっている。
 自分が買ったもの以外は一部の機能だけが器用に壊れるんだから、油断できない。

「はーい。どちらさまですか?」

 通話のボタンを押して、スピーカーに向かって誰何する。

『宅配便です』

 やけに、ドスの利いた声が返ってきた。
 ふむ、こんな朝早くから宅配か。多分、父さんと母さんが幸運グッズを送ってくれたんだろう。
 時間指定もできるし、登校前を選んでくれたんだな。

「はい。少々お待ちください」

 まずは返事をして、サインで済ませるためにペンを持って玄関へ向かう。んだけども、なぜかサヤさんまで付いてきてる。

「あの……」
「私に気にせず出ちゃってください」

 何を期待しているのかわからないけど、そう仰るのなら気にせず出ちゃおう。
 俺は靴を履いて、鍵を開けて――

「ここは高坂順平さんのお宅ですよー! ここは高坂順平さんのホームですよー! ここは高橋順平さんのお宅ですよー!」

 鍵を開けていると、背後にいたサヤさんが大声を発せられた。
 その声はとてつもなく大きく、鼓膜がビリビリする。

「あの……。急に何言ってるんですか……?」
「まあまあ。ささ、どうぞどうぞ」
「……はぁ。もう、変なことしないでくださいね?」

 今のはなんだったんだ? 考えるだけ時間の無駄なので、玄関ドアをオープンする。そうしたら――

「へっ……?」

 眼前にいたのはスキンヘッドで強面の男性で、宅配業者の制服ではなくスーツを着ていた。しかも、その手には――

 抜身の日本刀があった。

 ………………えーとこれは、父さんと母さんが送ってくれた禍払いの刀、宅配の品……ではない、よね?
 今にも斬りかかろうとしてたのは、気のせいだよね?

「あ、あのー……」
「てめえ。金平の関係者か?」

 スキンヘッドさんは開口一番、そう言った。初対面でいきなり『てめえ』呼ばわりって……。

「てめえ。金平の関係者か?」
「ち、違いますよっ。俺は金平の関係者じゃありませんっ!」

 抗議したいけど、尋常じゃあない目つきで睨まれたから即座に否定しとく。この人、絶対裏の社会に住んでるよね。

「あん? じゃあ、違うって証拠を見せてみろよ! ここは金平の部屋だって証拠はあがってんだよ!」

 ちょっ、すごまれても困ります。金平って誰さ。
 で、でも日本刀チラつかされてるから、早いとこ俺が高坂順平であることをしっかりハッキリ証明してお帰り頂こう。そして二度と会わないようにしたい。

「それじゃあ、生徒手帳でもいいですか? 顔写真付きだから――」
「逃げる気か? ここで今すぐ見せろ」

 そんなご無体な。
 ここでって言われても、手ぶらだしなぁ。部屋番号の下に表札代わりの名字入りプレートがあったんだけど、先週割れたから来月までないんだよね。それさえあればすぐわかるんだけど、これも不幸がなせる一週間越しの技なのか。

「早くしろや、コラァ!」

 わあ、なんと素晴らしい巻き舌でらっしゃる。
 まずい、この方本気だ。

((ど、どうするよ。何か、何かなかったか…………あ、そうだ。植木鉢があった!))

 このマンションの管理人さんが提案した『マンション緑化計画』により、各家の前には観葉植物が置かれている。その鉢に管理人さん手作りの、我が家の名字が入ったシールが貼られているはずだ。

「あのですね。ここの植木鉢に、ウチの名字が記載されて――…………」

 ドアを開け、一歩踏み出した俺を迎えてくれたのは、木端微塵に破壊された植木鉢だった。

「……嗚呼。母さんが育てていた、観葉植物のかんちゃんが惨たらしい姿に……」
「あん? これのどこに名字があるんだ? でたらめぬかしてんじゃねぇぞコラぁ――…………」

 ヤンキー座りした強面さんは、土の上に無残に落ちてる黄色のシール発見した。
 うん、見えたよ。俺の位置からでも、『高坂さん家♪』の文字がね。
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