高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「ときに順平さんは、『禍福は糾える縄の如し』をご存じで?」
「あ、ああ。知ってます」

 幸福と不幸は縄のように交互に来る。確か、そういう意味の諺だったよな。

「これは中々的を射ていましてね。これは禁則事項の一つなのですが……人間の幸せと不幸の割合は決まっているんですよ。どんな人でも、生を受けてしまえば平等です。皆、形は違えど同等の幸せと不幸を体感する。これはいわゆるこの世の真理ですね」
「そ、そうなんですか」
「ですが順平さんの場合は不幸が大きすぎて、バランスが崩れたまま死ぬ。しかも本来決まっている寿命とは違う時に死んでしまう。こんな事態が起きてしまうと、真理が崩れる。それは即ち世界の崩壊へと繋がります。簡単に言うと、世界が矛盾することですからね」

 な、なんかとんでもないことになってきてるぞ……。しかし、今の話で引っかかる所がいくつかあるんだよな。

「でもさ。さっきも寿命の話が出たけど、人によって寿命は違う。それはすでに平等じゃないし、幸であれ不幸じゃないの? それに、大会社の御曹司とか幸福を掴みっぱなしの人がいるけど」
「まず寿命ですが、これはイキガミさんが新たに生まれ変わるため魂を送り出した瞬間に勝手に――順平さんたちが言うとこの、本当の神様が創ったシステムが決めてしまうものなのです。これは幸不幸の問題ではなく、魂に刻まれた宿命みたいなモノでして……シガミ、イキガミでも最高責任者にのみ代々伝えられる禁則事項中の禁則事項なので、私も断言できません」

 申し訳ないといった表情で説明した後、「不用意に知ってしまうと脳が理解できる容量を越してしまって精神が崩壊するらしいです」とも言った。確かに、宇宙の秘密などと同じで、知りすぎることは罪なのかもしれない、そう思ってしまった。

「そして、御曹司のお話ですが――これは、目に見える幸せの形というだけです。この人は見えないところで不幸が働いているのですよ。例えばですが、死なない程度の持病や人間関係などですね」
「なるほど……」

 得心した。言われてみれば、金があるところでは肉親同士で骨肉の争いをしてる、なんて話は良く耳にするし。

「と、いうことで。ご説明は以上で終わりですー」

 両手を前で揃えて、お辞儀をしてくれた。

「どうも、ご苦労様でした」

 俺も頭を下げ、労う。
 いやぁ……すごい話の連続だった。とりあえず内容を逃すまいと付いて行ったけど、頭がガンガンする。脳の普段働いていない部分まで使った感じだ。

「では、信じて納得していただけましたねー?」

 最初の役目を終え、充実した表情のサヤさん。

「それはもちろん。はい。…………いや……?」
「ど、どっちなんですかっ?」

 はっきりとしない俺の返事に、サヤさんは器用にズッコケた。

「え、えーと…………」
「わ、私には途中からかんっっぜんに信じてらっしゃるように映ったのですが」

 ええ。それは否定できません。

「す、すみません。でも、あまりに荒唐無稽だったから、まだ信じられなくって」

 今更言うのもなんだけども……。途中で不幸と死を出されて信じ切ってたけど、よくよく考えてみれば、この人が本当にイキガミかどうかわからない――それ以前に本当にそんな組織があるのかすらわからない。さらには、俺が死ぬ話の真偽も不明だ。
 そもそも自分でいうのもなんだが、俺ごときが死んだくらいで滅びるほど世界ってのはやわなのだろうか。それに、何億年という人類の歴史の中で、俺一人だけってのも妙。今まで何百何千億の人がいたってのに、おかしい。
 まあ、ホント今更なんだけどさ。

「順平さんの、ついでにご両親のお名前を知っているというのはダメでしょうか? シガミのデータベースで調べたのですよー」
「でもそれは、電話帳とかでわかりますよね?」

 どうして俺のフルネームを知っているか疑問だったけど、今や個人情報の漏えいが頻繁な世の中だからなぁ。ソコでは決定打にならない。

「むむむ~」

 思案顔のサヤさんは腕を組み、

「名案です!」

 頭上に電球のマークが登場しそうな程の閃き顔。考える時間より、唸り声の方が長かったのは内緒だ。

「では、私がシガミの証拠をお見せすれば首肯していただけますかー?」
「そ、それはもちろん。でも、どうやって?」
「それは…………もうすぐですね」
「ん?」

 何か呟いたみたいだけど、よく聞こえなかった。
 なんて、言ったんだ……?

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