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しおりを挟む「あー。私はどうも説明が苦手でして、質問攻めはお待ちくださいー。……まずは、シガミの説明から致しましょう」
そう言うと彼女はポケットからメモ帳とペンを取り出し、スラスラスラ。ペンをメモ帳の上で走らせた。
「シガミという読みは現在カタカナなんですけどね、数年前まで使っていたこちらを見せた方が馴染があって理解しやすいかと思います」
サヤさんが俺に向けた紙上には、『死神』の二文字があった。
「し、しにがみ!? あんたっ、助けるとか言いつつ俺の魂を刈りに来たのか!?」
これはあれかっ!? 俺は不幸すぎて死神まで呼び寄せたってのか!?
「ああっ、タイムです。恐らく順平さんは、骸骨で黒い布を被って鎌を持ってる姿を想像しているでしょうけど、あれは下界の人間さんの勝手な想像なんですよっ。だから印象が悪いとマイナーチェンジしたんです」
慌てる俺を落ち着けと両手で制す。
ま、まあ、確かにこの姿とはかけ離れてはいるし、鎌を隠せるような服でもない。サヤさんが言うように、俺たちの勘違いか――って待て。
「今、『下界の人間さん』って言いましたよね? あなたは、一体……?」
普通はそんな言葉使わない、よな。
「私は……そうですねー。順平さんにわかるように例えますと、上の世界。俗に神様の世界と呼ばれているような場所から来たんですよ」
「人間、じゃないの? セーラー服なのに?」
「これは制服ですよー。一応人間という扱いですけど、こちらの世界の人間とは少し違いますね」
「そ、そう……」
やっぱり、あの言葉はそういう意味だったのか。
「少し脱線してしまいましたが。シガミというのは『死』を管理する組織なのですよ」
「死を、管理?」
「はい。死に関するすべてを担当しています。死者の魂の回収や整理なんかも仕事の一つです。死を司るところは、順平さんが想像する死神と似てますよね」
「へ、へぇ~。でもそれが、俺と何の関係が?」
「シガミというのはこちらの世界の役所みたいなものでして、いくつもの課に分かれているんです。私は『シガミ フコウ課』所属なんですよ。そこでは人間の不幸の調整をしています」
「? 不幸の、調整って?」
さっきから疑問系ばっかりだ。
「読んで字のごとくですよー。時々順平さんのように不幸の割合が予定より大きすぎる人や逆に少なすぎる人が現れるのですけど、それをコンピューターを使って正常値に直しているんですよ」
「え、じゃあ、人間はすべてあなた達に管理されてるってことですか?」
「二十四時間監視しているワケではなく、異常が発見されたら自動通知されますから、それに対処するだけです。プライベートは守られてますよ」
「な、なるほど。あ、でも、それじゃあ俺の場合もここに来なくてもコンピューターで直せばいいんじゃないですか?」
そうすれば手間はかからない。
「それがですねー、不幸にも大きさがありましてねー。小さいものならクリック一回で修正できるのですけど、それ以上になると無理でして。時々神の声が聞こえた、お告げがあったって昔話を聞きませんか? あれは、私たちが不幸を回避できるようにこっそり助言をしてるんですよー」
それは、良く聞くな。ミステリー系の番組で、声の通りに動いたら病気が治ったとか、物事が成功したとか。
「今回もその方法を取る予定だったのですが、今迄にありえない程の大きさの不幸だったので、こうして来たというワケなのですよ。本来、直接接触はご法度なんですけどねー」
「なるほど。そうでしたか……」
「あ、ちなみに『生』を管理している組織は――こう書きます」
『生神』
「なま、がみ?」
「イキガミと読みますよ。順平さんと同じ読み間違えが多発したので、こちらも変えたそうですよー。これは余談ですが、イキガミの人たちは人見知りであまり外に出ないのに、なまじ運動神経が良くてですねぇ。交流運動大会の時は完膚なきまでに叩きのめされます」
「………………」
ソレ、本当にどーでもいいな。
「あ、先ほど接触は駄目――正確には『シガミ・イキガミ協定』違反になるのですが、事態が事態ですので、昨日付でイキガミさん側に書類を送りましたのでご安心あれ」
「そ、そうなんですか。協定のことは詳しく知りませんが、お手数をおかけしました」
ちょっと余談が文字通り余計だったけど、今の話を要約すると……俺があまりに不幸すぎて死ぬのを阻止するために、世界を超えてワザワザ来てくれたことになる。
「あのー。俺のためにすみません」
そんな人に俺は消しゴムぶつけちゃったのか。両親からも言われてるけど、もっとちゃんと人の話を聞かないといけないな。
まあ、あれはサヤさんにも問題があったけど。
「いえいえ。実は実は順平さんのためだけではないのですよ」
「と、いいますと?」
「順平さんが死んじゃうと、世界も滅びちゃうからなんですよ」
………………。
えーと……俺が死んだら、世界も死ぬ? それはあれか。俺は世界の化身とか、そういう秘密があったのだろうか?
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