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3章

46話 実家のような安心感

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その後、リーナの涙が延々止まらなかったので、私はとりあえず彼女を我が家に招待することにした。
このまま街の真ん中で泣き続けてしまったら、それこそ逆に白い目で見られることになってしまう。

部屋に案内して、彼女が落ち着くのを待つ。

それから、詳しく話を聞くこととした。
まあ、大体わかっているのだけど、一応はゲームと現実世界が一致しているかどうか確認しなくてはなるまい。それに、こういうのは話すだけで気が楽になれるというものだ。

「そもそもこの目になったのは、3年前、15歳の誕生日の時です。魔法を覚えたと同時に、突然目と髪の色が黒に変わっちゃったんです……。それで、その目で使用人だった老執事さんを見たら、その方がショックで倒れちゃって――」

うん、やはりその抱える過去はゲームの設定と同じのようだ。

この偶然が重なってしまった事件が噂話として外へと漏れてしまい、最終的にそれは『リーナの目で見られたものは呪われる』という酷い誤解を生む。

結果として彼女は、無実にも関わらず人から避けられ、ひそひそと肩身の狭い生活を送っているというわけだ。

「噂って怖いですね。広がっちゃうと、こんな荒唐無稽なありえない話までまかり通っちゃうなんて」
「……仕方がないですよ。私の黒魔法は、他に使える人のいない魔法です。見た目が変わっちゃったこともあって、呪いだ呪いだ、と騒がれてました。だからしょうがないんです……」

あー、こういうところもゲームで見てきたのと同じだ。

リーナは主人公で語り手にもっとも近しい存在だっただけに、セリフ外の心情の細かなところまで、私は知ってしまっている。
この黒い目と髪が原因で、彼女は超のつくネガティブ、そのうえ消極的な性格になってしまっているのだ。

「しょうがなくなんかないですよ。とんだ災難ですって。自分のせいだって抱え込まずに、もっと気楽に考えた方が楽ですよ」

私はとりあえず、月並みな言葉でもって、彼女を励ます。
そんなやり取りが何往復かあったのち、リーナが言う。

「あの、もう一回。もう一回、目を合わせてもらってもいいですか」

彼女は口にするとともに、照れくさそうに目線を下に逸らす。

な、なんてヒロインらしい行動なのかしら!

普通ならばヒーローに向けられるべきセリフであるという点はともかくとして、その純真さに庇護欲を駆られる。

女性が相手だというのに、思わずどきりとしてから、私はそれに応えた。
ここまできたら、もう本来のシナリオのことを気にしたってしょうがない。

はっきり正面から目を合わせること、数秒。

「…………本当に、全然怖がってないんですね」

まあ、そりゃ大体のストーリーを知ってしまってますから。
全ルートをクリアしたわけではないとはいえ、共通ルート部分については、否が応でも覚えてしまっている。

ただ、馬鹿正直にそんなことを言っても頭のおかしい人だと思われてしまうだけだ。

「ええ、まったく怖くないです。なんなら、少しほっとしたかもしれないです。その目、見てると落ち着きます」
「……この黒い目が……?」
「あー、えと、別に色んな目の人がいますしね。ほら、黒って気持ちが落ち着く色というか……!」

言い訳をしたが、本当のところは違う。

この世界にきてからというもの、アニータ含めてみんながカラフルな髪色をしており、なんだか落ち着かない感じがしていたのだ。

そこへきての黒髪、黒目!

日本人であれば、平凡すぎるくらいの彼女の見た目には、まるで実家に帰ったような安心感があった。

「そんなの、はじめて言われました……。う、嬉しいです……!」

またしても今に泣き出しそうに、リーナはその黒目を潤ませる。

それを見ていると、プレイヤーサイドに立っていた時の怒りがまったく浮かんでこない。
むしろ、その辛い境遇を想うとずきずき胸が痛みさえする。

これまでずっと酷い境遇で育ってきたにも関わらず彼女は、今日私を助けてくれたみたいに、温かい心をなくさないで持ち続けているのだ。
とても優しくて、いい子だなとすら思う。


……そもそも、ゲーム内のリーナが苦手だったのも、主にエリゼオのせいなのよねぇ。

彼が優柔不断でなかなか声をかけてこないから、リーナは鬱々としてしまって、そのあまりのマイナス思考ぶりに苦手意識を持っていたのだ。

彼がもっと早くにリーナの事情に気付いていたならば、私もここまで『黒の少女と白王子』を嫌いにはならなかっただろう。


――と、ここまで考えて私は気づく。
今後彼女に降りかかる災難を振り払うのは、本来ならばエリゼオを中心としたヒーローたち。
けれど、その出会いのシーンを私がとってかわってしまった。


つまり、それがどういうことを意味するかといえば、一つだ。
私がどうにかするほかなくなっているらしい。
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