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第1部 四神と結婚しろと言われました
148.動物だって生きてるんです
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四阿でお茶をした後、動物がいるという区画に案内されることになった。
本当はオオオニバスに乗ったことを香子は言いたくてしかたなかったが、さすがにまずいと思って言わなかった。実際には景山での香子たちの行動は全て皇帝に筒抜けなのでいらぬ心配ではある。一般庶民である香子は人の姿が見えないだけで、勤めている者がいるということをすっかり忘れていた。そうでなければもっと狼狽したはずである。
さて、動物たちが収容されていたのは植物園の横であった。植物園からは全く見えなかった為庭園の造りに多少感心はしたが、香子は目の前の状況に眉を寄せた。
それは収容、という言葉が似合うやる気なさっぷりであった。
動物たちは同じ種類ずつ広めの檻に入れられていた。それが等間隔に並べられているだけである。
動物園のようなものを想像していた香子としては、これは屋外に置かれた牢屋となんの代わりがあるのだと聞いてみたくなった。一応檻の前には動物の種類を書いた看板があるだけで檻の中は殺風景だった。
『あのー……ここにいるのって国内外から献上された動物とかですよね? どういうところに生息していたとか聞いてないのでしょうか?』
こんなことは言いたくなかったがさすがに口を出したくはなる。
『と、おっしゃられますと?』
王英明が聞き返した。
それで動物に対するこの対応もなんとなくわかってしまった。
動物愛護とかそういう精神はこの国にはないらしい。
(広東人は椅子と机以外の四足はなんでも食べるって言われてるぐらいだし……)
ちょっとだけ香子も納得した。だがそれとこれとは別である。
歴代の皇帝の中には珍しい動物を遇した者もいるだろうが、当代の皇帝はそうでもないということがわかった。
(でもこれはさすがにないって……)
『ええと、私がいたところにも動物を沢山収容していた動物園というものがあったのです。ですがもっと動物の特性や生息地等を考えて、できるだけ動物たちが住みよいような造りになっていました。例えば檻の中に木を植えるとか、もっと広い敷地を使って自由に走り回れるようにするとか……』
『ほほう、そなたのいた世界は随分と進んでいたのだな』
玄武が感心したように言う。
『世界規模ではなんともいえませんが、動物を保護する法律などもあったように思います。あそこの檻にいる首の長いキリンという動物は高い木の草等を食べるのが普通ですから、餌を檻の中に入れればいいというのではないと思います。敷地を広くとって自然のような状態を作れば草食動物同士なら同じ場所に収容することも可能なはずです』
動物園に行った時のことを思い出しながら話すと、王や趙文英は目を見開いて真面目に聞いてくれた。
『あと私の思い違いならいいんですけど、ここってめったに人を通すことはないと思うのですが、通されるとしたら身分の高い方ですよね? こんな檻がひしめいているという状況ではなく、きちんと動物の生息環境に合わせて場を作っていればその方たちも感心すると思うのです。やはり唐はすばらしい国だって……』
『なんと素晴らしい!』
『え?』
どこからか感極まったような声がした。だが聞き覚えがなかったので香子は顔を上げて辺りを見回した。しかしその姿は見当たらない。
王が眉を寄せた。
『花嫁様の言、全て陛下にお伝えさせていただいてもよろしいでしょうか?』
『いいですけど……ただ私個人の意見なのであまり気にしないでくださいね』
つい熱くなってしまったがこの国にはこの国のやり方がある。生息環境を整えるというのは金がかかることだから戯言ととらえられても仕方ないとは思う。
四神や眷族は特に口を挟まなかったが、内心香子への印象は更によくなっていた。
四神の元は人ではなく動物である。もちろん野を駆ける獣とは違い神獣と呼ばれる存在ではあるが、遠い眷族とも言うべき動物たちのことを考えてくれたのが少し嬉しかったのだ。
そうとは知らない香子は、せめて檻の中に木を植えたりできないのかなーと考えていた。それだけでも殺風景ではなくなるし、動物たちのストレスも少しは軽減できると思う。
それにしてもあの時の声はいったい誰だったのだろう。
四神宮に戻る玄武の腕の中で香子は首を傾げた。
本当はオオオニバスに乗ったことを香子は言いたくてしかたなかったが、さすがにまずいと思って言わなかった。実際には景山での香子たちの行動は全て皇帝に筒抜けなのでいらぬ心配ではある。一般庶民である香子は人の姿が見えないだけで、勤めている者がいるということをすっかり忘れていた。そうでなければもっと狼狽したはずである。
さて、動物たちが収容されていたのは植物園の横であった。植物園からは全く見えなかった為庭園の造りに多少感心はしたが、香子は目の前の状況に眉を寄せた。
それは収容、という言葉が似合うやる気なさっぷりであった。
動物たちは同じ種類ずつ広めの檻に入れられていた。それが等間隔に並べられているだけである。
動物園のようなものを想像していた香子としては、これは屋外に置かれた牢屋となんの代わりがあるのだと聞いてみたくなった。一応檻の前には動物の種類を書いた看板があるだけで檻の中は殺風景だった。
『あのー……ここにいるのって国内外から献上された動物とかですよね? どういうところに生息していたとか聞いてないのでしょうか?』
こんなことは言いたくなかったがさすがに口を出したくはなる。
『と、おっしゃられますと?』
王英明が聞き返した。
それで動物に対するこの対応もなんとなくわかってしまった。
動物愛護とかそういう精神はこの国にはないらしい。
(広東人は椅子と机以外の四足はなんでも食べるって言われてるぐらいだし……)
ちょっとだけ香子も納得した。だがそれとこれとは別である。
歴代の皇帝の中には珍しい動物を遇した者もいるだろうが、当代の皇帝はそうでもないということがわかった。
(でもこれはさすがにないって……)
『ええと、私がいたところにも動物を沢山収容していた動物園というものがあったのです。ですがもっと動物の特性や生息地等を考えて、できるだけ動物たちが住みよいような造りになっていました。例えば檻の中に木を植えるとか、もっと広い敷地を使って自由に走り回れるようにするとか……』
『ほほう、そなたのいた世界は随分と進んでいたのだな』
玄武が感心したように言う。
『世界規模ではなんともいえませんが、動物を保護する法律などもあったように思います。あそこの檻にいる首の長いキリンという動物は高い木の草等を食べるのが普通ですから、餌を檻の中に入れればいいというのではないと思います。敷地を広くとって自然のような状態を作れば草食動物同士なら同じ場所に収容することも可能なはずです』
動物園に行った時のことを思い出しながら話すと、王や趙文英は目を見開いて真面目に聞いてくれた。
『あと私の思い違いならいいんですけど、ここってめったに人を通すことはないと思うのですが、通されるとしたら身分の高い方ですよね? こんな檻がひしめいているという状況ではなく、きちんと動物の生息環境に合わせて場を作っていればその方たちも感心すると思うのです。やはり唐はすばらしい国だって……』
『なんと素晴らしい!』
『え?』
どこからか感極まったような声がした。だが聞き覚えがなかったので香子は顔を上げて辺りを見回した。しかしその姿は見当たらない。
王が眉を寄せた。
『花嫁様の言、全て陛下にお伝えさせていただいてもよろしいでしょうか?』
『いいですけど……ただ私個人の意見なのであまり気にしないでくださいね』
つい熱くなってしまったがこの国にはこの国のやり方がある。生息環境を整えるというのは金がかかることだから戯言ととらえられても仕方ないとは思う。
四神や眷族は特に口を挟まなかったが、内心香子への印象は更によくなっていた。
四神の元は人ではなく動物である。もちろん野を駆ける獣とは違い神獣と呼ばれる存在ではあるが、遠い眷族とも言うべき動物たちのことを考えてくれたのが少し嬉しかったのだ。
そうとは知らない香子は、せめて檻の中に木を植えたりできないのかなーと考えていた。それだけでも殺風景ではなくなるし、動物たちのストレスも少しは軽減できると思う。
それにしてもあの時の声はいったい誰だったのだろう。
四神宮に戻る玄武の腕の中で香子は首を傾げた。
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