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第4部 四神を愛しなさいと言われました
62.甘すぎて勝てそうにありません
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食堂に運ばれた時、香子の頬はまだ上気していた。
青龍のせいである。
香子の部屋から香子を抱き上げて運ぶ際、『そなたを早く独り占めしたい』などと青龍がのたまったのだ。
四神がそのようなことを言うなんて香子にはとても信じられなかった。四神同士は一切嫉妬がないようなことを聞いていたが、それと独占欲は違うのだろうか。
(そういえば玄武様も……)
たびたび香子を腕の中に抱え込んでいた。だが朱雀と共に香子を抱くのは変わらない。香子はわけがわからないと思った。
今考えてもしかたない。
香子は昼食をいただくことにした。
相変わらずどれもこれもおいしい。
この時期は冬野菜になる。白菜と肉団子、そして春雨が入ったスープは絶品であった。肉団子はちょっと肉臭いが、香子は肉がどちらかといえば苦手なのでそう思うのかもしれなかった。こちらの肉はひき肉といっても包丁で叩いて粗みじんにしたような物なので、肉の塊がそれなりに残っていることも多い。
『おいしい……』
どれもこれもおいしくてにこにこしてしまう。ごはんの代わりの水餃子には海老が入っていた。
海老も大好物である。凍石を見つけて本当によかったと香子は思う。この時期はまだまだ寒いから凍石がなくても海産物は食べられるが、凍石のおかげで一年中魚介類を食べられるようになるのだ。
(流通の大革命だよねー)
それでみんなの仕事が増えればいいと香子は思う。そして元々そういう仕事に携わっていた人たちもいっぱいお金が稼げればいい。
『玄武様』
『如何した?』
『玄武様の領地って、内陸ですか?』
玄武は少し黙ったが、頷いた。
『……そうだな。内陸といえば内陸だろう』
『そうですか……』
『何か問題でも?』
『いえ、ちょっと地理が把握できていなかったので確認しただけです』
そういえば玄武の領地は黒竜江省に位置している。香子は海が近いのではないかと勝手に思っていたが、そんなことはなかったらしい。
『香子』
青龍が声をかけてきた。
『我の領地であれば海からは近いぞ』
『そう、なのですか……』
青龍の領地は上海が近かったかもしれないと香子は思い出した。上海といえば上海蟹が浮かぶ。どうあっても香子は食い気であった。
『海を見たいのならば次は我の領地に来るといい』
『あ……』
そういえば四神のうちの誰かに嫁ぐ前に領地巡りをするようなことを言っていたのを、香子はやっと思い出した。まだ朱雀の領地にしか行っていない。
(そう、だよね。どんなところか見てみたいし……)
正直香子は選べないでいる。最初は玄武と朱雀に迫られて、どちらかと結婚するのだろうかと思っていた。しかし青龍に抱かれ、白虎に抱かれて、もう誰を選んだらいいのかわからなくなっている。選べないなんて、なんて贅沢なのだろうと香子は思う。そしてそれを容認している四神にも申し訳なく思う。
『そうですね。まだ青龍様の領地もそうですが、白虎様のところも、玄武様のところへもお伺いしていませんし……』
『我のところは一番最後でよい。まだ寒い故な』
玄武が鷹揚な態度でそう言った。
『北は確かにまだ寒いですよね』
北京もそれなりに寒い。風も冷たいし、けれど玄武の領地は更に寒いという。もし玄武と結婚したとしたら、この時期はずっと部屋の中にいるようだろうと香子は思う。それはそれでいいのではないかと、香子はぼんやり思った。
『では先に白虎兄の領地へ行ってはどうだろうか』
青龍がそんなことを言う。
『我のところは高地故、青龍のところよりは冷えるだろう。向かうのならば青龍のところがよい』
白虎は淡々と答えた。
『……では、正月が終わってから考えましょう。この時期に向かうのは迷惑でしょうから……』
『それは、あまり変わらぬと思うがな』
青龍は自分が用意するわけではないのでそう答えた。それぐらい香子もわかる。香子は青藍を見た。青藍は嘆息した。
『……青龍様が命じられれば準備は整いましょう。ですがまだ花嫁様はどなたに嫁がれるか決めていらっしゃいません。領地で抱かれることだけはお控えください』
『……わかっている』
そういえばそうだったと香子は思い出した。まだ誰に嫁ぐか決めていない状態で二晩続けて泊まることはできないのである。そうしてしまうと自動的にその神に嫁ぐことになってしまうらしいので、泊まれても一晩が限界だった。
『……でしたら、泊まらない方がいいのかもしれませんね……』
その方が安全だと香子は思ったが、青龍に手を取られた。そして手の甲に唇を寄せられる。
『香子、そなに悲しいことを言ってくれるな……』
『……ううう……』
香子は身体を少し遠ざけようとしたが、その時にはがっちりと腰を大きな手で押さえられていて無理だった。
青龍は、というより四神はずるいと香子は思う。
香子が四神に弱いことを、四神はもう理解しているのだ。学習能力が高いのも問題だと香子は内心悪態をついた。
『で、でも……二晩は泊まれませんからっ!』
青龍の領地で青龍にもし抱かれたりしたら、絶対に一晩では済まない気がするのだ。だから絶対に抱かれるわけにはいかないのである。
青龍の目が少し寂しそうに見えた。
『ならば、一晩泊まって朝食を共にして戻ってきたら……そなたを抱かせてくれるか?』
『~~~~~っっ!?』
即答はできなかった。
けれど香子が陥落するのは時間の問題だった。
ーーーーー
青龍が押せ押せ(ぉぃ
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
青龍のせいである。
香子の部屋から香子を抱き上げて運ぶ際、『そなたを早く独り占めしたい』などと青龍がのたまったのだ。
四神がそのようなことを言うなんて香子にはとても信じられなかった。四神同士は一切嫉妬がないようなことを聞いていたが、それと独占欲は違うのだろうか。
(そういえば玄武様も……)
たびたび香子を腕の中に抱え込んでいた。だが朱雀と共に香子を抱くのは変わらない。香子はわけがわからないと思った。
今考えてもしかたない。
香子は昼食をいただくことにした。
相変わらずどれもこれもおいしい。
この時期は冬野菜になる。白菜と肉団子、そして春雨が入ったスープは絶品であった。肉団子はちょっと肉臭いが、香子は肉がどちらかといえば苦手なのでそう思うのかもしれなかった。こちらの肉はひき肉といっても包丁で叩いて粗みじんにしたような物なので、肉の塊がそれなりに残っていることも多い。
『おいしい……』
どれもこれもおいしくてにこにこしてしまう。ごはんの代わりの水餃子には海老が入っていた。
海老も大好物である。凍石を見つけて本当によかったと香子は思う。この時期はまだまだ寒いから凍石がなくても海産物は食べられるが、凍石のおかげで一年中魚介類を食べられるようになるのだ。
(流通の大革命だよねー)
それでみんなの仕事が増えればいいと香子は思う。そして元々そういう仕事に携わっていた人たちもいっぱいお金が稼げればいい。
『玄武様』
『如何した?』
『玄武様の領地って、内陸ですか?』
玄武は少し黙ったが、頷いた。
『……そうだな。内陸といえば内陸だろう』
『そうですか……』
『何か問題でも?』
『いえ、ちょっと地理が把握できていなかったので確認しただけです』
そういえば玄武の領地は黒竜江省に位置している。香子は海が近いのではないかと勝手に思っていたが、そんなことはなかったらしい。
『香子』
青龍が声をかけてきた。
『我の領地であれば海からは近いぞ』
『そう、なのですか……』
青龍の領地は上海が近かったかもしれないと香子は思い出した。上海といえば上海蟹が浮かぶ。どうあっても香子は食い気であった。
『海を見たいのならば次は我の領地に来るといい』
『あ……』
そういえば四神のうちの誰かに嫁ぐ前に領地巡りをするようなことを言っていたのを、香子はやっと思い出した。まだ朱雀の領地にしか行っていない。
(そう、だよね。どんなところか見てみたいし……)
正直香子は選べないでいる。最初は玄武と朱雀に迫られて、どちらかと結婚するのだろうかと思っていた。しかし青龍に抱かれ、白虎に抱かれて、もう誰を選んだらいいのかわからなくなっている。選べないなんて、なんて贅沢なのだろうと香子は思う。そしてそれを容認している四神にも申し訳なく思う。
『そうですね。まだ青龍様の領地もそうですが、白虎様のところも、玄武様のところへもお伺いしていませんし……』
『我のところは一番最後でよい。まだ寒い故な』
玄武が鷹揚な態度でそう言った。
『北は確かにまだ寒いですよね』
北京もそれなりに寒い。風も冷たいし、けれど玄武の領地は更に寒いという。もし玄武と結婚したとしたら、この時期はずっと部屋の中にいるようだろうと香子は思う。それはそれでいいのではないかと、香子はぼんやり思った。
『では先に白虎兄の領地へ行ってはどうだろうか』
青龍がそんなことを言う。
『我のところは高地故、青龍のところよりは冷えるだろう。向かうのならば青龍のところがよい』
白虎は淡々と答えた。
『……では、正月が終わってから考えましょう。この時期に向かうのは迷惑でしょうから……』
『それは、あまり変わらぬと思うがな』
青龍は自分が用意するわけではないのでそう答えた。それぐらい香子もわかる。香子は青藍を見た。青藍は嘆息した。
『……青龍様が命じられれば準備は整いましょう。ですがまだ花嫁様はどなたに嫁がれるか決めていらっしゃいません。領地で抱かれることだけはお控えください』
『……わかっている』
そういえばそうだったと香子は思い出した。まだ誰に嫁ぐか決めていない状態で二晩続けて泊まることはできないのである。そうしてしまうと自動的にその神に嫁ぐことになってしまうらしいので、泊まれても一晩が限界だった。
『……でしたら、泊まらない方がいいのかもしれませんね……』
その方が安全だと香子は思ったが、青龍に手を取られた。そして手の甲に唇を寄せられる。
『香子、そなに悲しいことを言ってくれるな……』
『……ううう……』
香子は身体を少し遠ざけようとしたが、その時にはがっちりと腰を大きな手で押さえられていて無理だった。
青龍は、というより四神はずるいと香子は思う。
香子が四神に弱いことを、四神はもう理解しているのだ。学習能力が高いのも問題だと香子は内心悪態をついた。
『で、でも……二晩は泊まれませんからっ!』
青龍の領地で青龍にもし抱かれたりしたら、絶対に一晩では済まない気がするのだ。だから絶対に抱かれるわけにはいかないのである。
青龍の目が少し寂しそうに見えた。
『ならば、一晩泊まって朝食を共にして戻ってきたら……そなたを抱かせてくれるか?』
『~~~~~っっ!?』
即答はできなかった。
けれど香子が陥落するのは時間の問題だった。
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青龍が押せ押せ(ぉぃ
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
応援ありがとうございます!
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