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第1部 四神と結婚しろと言われました

105.雨が降ったそうです

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 その日は珍しく雨が降った為、結局景山に出かけるのはとりやめになった。きちんと準備をすれば行けないことはないが、そこまでして行くことはないと香子も判断したからである。

(雨が降るって身体がわかってたから余計に眠かったのかも……)

 北京ではめったに雨は降らない。なにせ香子が留学してからの最初の一年は傘なしで過ごしていられたぐらいである。夏は局地的に激しい雨が降ることがあるが、その雨は激しすぎるので傘を持っていても意味をなさない。
 たまに一週間ほど天気の優れない日が続くと自殺者が出たりするぐらいだった。
 だから雨の日は無理して表に出る必要はない。
 そんなわけで遅めの昼食を取った後はまた玄武の寝室でうにうにしていた。

(なーんていいご身分……)

 香子は今日まだ黒月と玄武の姿以外は見ていない。連絡は主に玄武が行ってくれ、香子はまだ一歩も地板ゆかに足をつけていない。昨夜玄武に抱かれたせいもあるのだろうが、やはりこの体の重さは雨のせいのような気がする。雨が降ると空気が重くなる気がするのは香子だけだろうか。常に晴天といっても過言ではない北京に四年も暮らしていたせいか、天気の変化には体の反応がとても早い。
 香子がだるそうなせいか、玄武は香子を抱き込んではいたが時折戯れのように口づけをするぐらいでそれ以上手は出してこなかった。
 女性というのは抱かれているよりそういった甘い時間に胸をときめかせるものだと香子は思う。ただ、相手が相手だけにそれすらも恥ずかしくてたまらない。

『……あ、目録……』

 午前中は寝ていたので香子宛の贈り物を確認していないことを思い出した。しばらくはそれなりに多い量が届くに違いないから、できれば毎日チェックした方がいいのではないかと思う。

『目録がどうかしたのか?』
『……いえ、また何か贈られてきたかなと思って……』

 ぼんやりとした頭で言うと、瞼に口づけられた。

『なにか欲しいものでもあるのか?』
(そういうことじゃないんだよね……)
『別に何も……ただ、毎日処理しないとたいへんかなーって……』
『処理か……。そう言われてみるとそうだな』

 玄武は面白そうに笑った。また何かへんなことを言っただろうかと心配になる。日本語を話しているわけではないので時々ちょうどいい単語が出てこなくて困るのだ。
 それでも毎日中国語だけでやりとりをしているので、確実に言い回しや語彙は増えているはずだと自分を慰める。

『だがな、そんなものを処理する為にそなたはここにいるわけではない。休める時に休んでいるといい』

 そう瞳を覗きこむようにして言われ、香子ははっとした。
 この一年でまず共にいる相手を決めるのが第一義だった。

(なーんかいろいろ考えすぎなのかなぁ……)

 照れ隠しに玄武にくっつく。それかまたは、他に何かできることがないか無意識のうちに探していたのかもしれない。
 ただ四神に囲いこまれているだけではなんだかいけないような気がして。

(……そういえば、精を与えたって言ってたけど……)

 そこまで考えて香子は真っ青になった。

(な、中出しーっ!? そう簡単に子どもとかできないとは思うけどいきなり中出し!?)

 背中を油汗がだらだら流れているような気がする。

香子シャンズ?』

 香子の体が硬直したのを不審に思ったのか、玄武が声をかける。

『あ、あのっ! 玄武様の精を受けたって聞きましたけど、もういきなり妊娠とかしちゃうんでしょうかっ!?』

 ばっと顔を上げて聞く香子に、玄武は呆気にとられたような表情をした。
 そして今にも泣き出しそうな顔を見、

『……残念だが、そう簡単に宿るものではない』

 と嘆息して言った。
 それに香子は悪いと思いながらもほっとした。四神の誰かと体を重ねてすぐに妊娠してしまったら、もうその神に決めなければいけないではないか。

(それはそれで諦めもつくだろうけど……)

 でもそんなのは嫌だと思う。

『そなたが我らの子を宿すには、そうなるようにまず体を作り変えていかなければならぬ。そうして体の準備が整い、そなたが心から我らを愛してくれるようになって初めて子が宿るのだ』

 玄武は少し寂しそうに説明してくれた。

(心からって……)

『私、玄武様のこと好きですよ……?』
 恥ずかしいけれど、玄武に抱きついて言う。玄武は香子の瞼に再び口づけた。

『可愛いことを言ってくれるな。また抱きたくなるだろう?』

 さすがに香子は慌てた。
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