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第4部 四神を愛しなさいと言われました
7.興味がないからって何も知らないのはよくないと思うのです
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昼食をいただいた後、慈寧宮を辞した。
その後、玄武は無言で香子を抱いたまま四神宮に跳んだ。香子は内心嘆息した。やはりただでは済まなかったようである。
玄武の室の居間に着いた。そのまま当たり前のように寝室に連れ込まれる。
皇太后や皇帝に会った時はほぼほぼこんなことになる。だからといって四神に付き添ってもらわないわけにはいないのだ。香子は四神がいなければただの小娘なのだから。
(小娘って歳でもないけどね……)
22歳は過ぎているし、と香子は内心呟いた。
玄武は香子を床に下ろすときつく抱きしめた。珍しいこともあるものだと香子は玄武を抱きしめ返した。
『玄武様』
『……我にはそなたの衣裳を揃えるすべはない』
『は?』
玄武が何を言っているのか、香子にはわからなかった。
『玄武様?』
『……そなたの衣裳を揃える為の資金など、我は持ち合わせていない』
ますます玄武が何を言っているのかわからなかった。確かに現金は持ってないだろう。基本四神は贈物と領地経営の収入で全てを賄っているはずである。それがどうして資金がないという話になるのだろうか。
『ええと? 玄武様は私を養わないという話ですか?』
香子はどう聞いたらいいのかもわからなかった。
『それはありえぬ。そなたが我に嫁げば領地に連れていく。そなた一人ぐらい増えたとて問題はないはずだ』
もしかして、と香子は思う。
(玄武様って超箱入り?)
『話がよくわからないので、朱雀様を呼んでください』
ここで二人で話していても埒が明かないだろうと、香子は朱雀を呼ぶことを提案した。朱雀はほどなくして現れた。何故か紅夏と紅炎も一緒である。お金のことなら朱雀よりも眷属が詳しいだろうということは確かだったので、香子は疑問を挟まなかった。
『玄武兄、どうかなさったのですか?』
『うむ、大祭での香子の衣裳の件なのだが……』
そこから紆余曲折あり、どうにか玄武が気にしていることを聞きだすことができた。
『……我らが必要ないから領地経営に全ての資金を投じているだけで、貢物を換金するだけで相当な資金を得られるはずですが? 玄武兄はそもそも町へ下りられたことはありますか?』
『少しはある』
『支払いなどを自分でしたことは?』
『ないな』
千年も生きてて自分で支払いをしたこともないそうである。香子は眩暈がしそうになった。
『……あの』
『香子、如何した?』
玄武は香子を抱きしめたままである。
『例えばなんですけど……まだどなたかと結婚するのは決めない状態でどなかたの領地に顔を出すことは可能なのでしょうか?』
『ふむ』
朱雀が考えるような顔をした。
『香子は何がしたい?』
『もし、四神と私で……どこかへ気軽に買物などに行く機会はないかと思ったのです。玄武様は元々お金に興味がなかったから、領地のお金の流れなど考えたこともないでしょう? ですから私の衣裳代をどうしたらいいのかわからなかった。違いますか?』
『……そなたの言う通りだ』
知らなかったことを恥じない姿勢は素敵だと香子は思う。往々にして人は知らないことを恥じるからだ。恥じたならば恥じないように学べばいいものを隠そうとする者が多い。香子とてそれは耳に痛い言葉である。
『花嫁様の衣装代程度でしたら、領地に届けられる貢物を多少処分する程度で足りましょう。玄武様の領地には今や凄まじい量の贈物が届けられているはずです』
紅炎が眉一筋動かさず答える。
『え? なんで?』
思わず香子は素で尋ねた。
『朱雀様の領地と同じ理由です。朱雀様はお年を召してきたせいか、領地にいらしても気候の制御がうまくなされなくなっておりました。その為南方の気候は年々暑さを増し、日照りによる渇水や、時に集中豪雨などがあり、朱雀様の力の衰えが感じられるようになっておました』
『そ、そんなに……』
四神がこの国の気候変動に一躍買っていることは香子も知っていたが、まさかそこまで影響があったとは予想外だった。
『ですが、花嫁様と交わったことにより気候は穏やかなものに変わりつつあります。そのおかげで領地への貢物は増える一方です』
しれっと紅炎が答えた。
『それと同じことが玄武様の領地でも起きていると?』
『はい。ですから玄武様に花嫁様の衣裳代程度負担できぬはずはございませぬ』
『そうか……。我は随分と物を知らないでいたのだな』
香子はそんな玄武の頭を優しく撫でた。
神様だからしかたないとは香子も思う。どんなに長く生きていても寝ている時間が主では経験は積み上がらない。
『眷属に伝えておこう』
『朱雀様、私たち、どこかへ買物などへ向かうことは可能でしょうか?』
保有している資産について少しわかったところだが、香子は四神と買物や街歩きができるのならばしてみたいと思った。
『そうさな。一番気軽なのは我の領地であろう。四神宮から片時も離れてはいけないという規定はなかったはずだ。面倒だが一応皇帝に確認させよう』
『よろしくお願いします』
できないとは香子も思っていたから何も言わないでいたが、そろそろ外に出たかった。もしできたら、更に四神を好きになるのではないかと香子は思った。
その後、玄武は無言で香子を抱いたまま四神宮に跳んだ。香子は内心嘆息した。やはりただでは済まなかったようである。
玄武の室の居間に着いた。そのまま当たり前のように寝室に連れ込まれる。
皇太后や皇帝に会った時はほぼほぼこんなことになる。だからといって四神に付き添ってもらわないわけにはいないのだ。香子は四神がいなければただの小娘なのだから。
(小娘って歳でもないけどね……)
22歳は過ぎているし、と香子は内心呟いた。
玄武は香子を床に下ろすときつく抱きしめた。珍しいこともあるものだと香子は玄武を抱きしめ返した。
『玄武様』
『……我にはそなたの衣裳を揃えるすべはない』
『は?』
玄武が何を言っているのか、香子にはわからなかった。
『玄武様?』
『……そなたの衣裳を揃える為の資金など、我は持ち合わせていない』
ますます玄武が何を言っているのかわからなかった。確かに現金は持ってないだろう。基本四神は贈物と領地経営の収入で全てを賄っているはずである。それがどうして資金がないという話になるのだろうか。
『ええと? 玄武様は私を養わないという話ですか?』
香子はどう聞いたらいいのかもわからなかった。
『それはありえぬ。そなたが我に嫁げば領地に連れていく。そなた一人ぐらい増えたとて問題はないはずだ』
もしかして、と香子は思う。
(玄武様って超箱入り?)
『話がよくわからないので、朱雀様を呼んでください』
ここで二人で話していても埒が明かないだろうと、香子は朱雀を呼ぶことを提案した。朱雀はほどなくして現れた。何故か紅夏と紅炎も一緒である。お金のことなら朱雀よりも眷属が詳しいだろうということは確かだったので、香子は疑問を挟まなかった。
『玄武兄、どうかなさったのですか?』
『うむ、大祭での香子の衣裳の件なのだが……』
そこから紆余曲折あり、どうにか玄武が気にしていることを聞きだすことができた。
『……我らが必要ないから領地経営に全ての資金を投じているだけで、貢物を換金するだけで相当な資金を得られるはずですが? 玄武兄はそもそも町へ下りられたことはありますか?』
『少しはある』
『支払いなどを自分でしたことは?』
『ないな』
千年も生きてて自分で支払いをしたこともないそうである。香子は眩暈がしそうになった。
『……あの』
『香子、如何した?』
玄武は香子を抱きしめたままである。
『例えばなんですけど……まだどなたかと結婚するのは決めない状態でどなかたの領地に顔を出すことは可能なのでしょうか?』
『ふむ』
朱雀が考えるような顔をした。
『香子は何がしたい?』
『もし、四神と私で……どこかへ気軽に買物などに行く機会はないかと思ったのです。玄武様は元々お金に興味がなかったから、領地のお金の流れなど考えたこともないでしょう? ですから私の衣裳代をどうしたらいいのかわからなかった。違いますか?』
『……そなたの言う通りだ』
知らなかったことを恥じない姿勢は素敵だと香子は思う。往々にして人は知らないことを恥じるからだ。恥じたならば恥じないように学べばいいものを隠そうとする者が多い。香子とてそれは耳に痛い言葉である。
『花嫁様の衣装代程度でしたら、領地に届けられる貢物を多少処分する程度で足りましょう。玄武様の領地には今や凄まじい量の贈物が届けられているはずです』
紅炎が眉一筋動かさず答える。
『え? なんで?』
思わず香子は素で尋ねた。
『朱雀様の領地と同じ理由です。朱雀様はお年を召してきたせいか、領地にいらしても気候の制御がうまくなされなくなっておりました。その為南方の気候は年々暑さを増し、日照りによる渇水や、時に集中豪雨などがあり、朱雀様の力の衰えが感じられるようになっておました』
『そ、そんなに……』
四神がこの国の気候変動に一躍買っていることは香子も知っていたが、まさかそこまで影響があったとは予想外だった。
『ですが、花嫁様と交わったことにより気候は穏やかなものに変わりつつあります。そのおかげで領地への貢物は増える一方です』
しれっと紅炎が答えた。
『それと同じことが玄武様の領地でも起きていると?』
『はい。ですから玄武様に花嫁様の衣裳代程度負担できぬはずはございませぬ』
『そうか……。我は随分と物を知らないでいたのだな』
香子はそんな玄武の頭を優しく撫でた。
神様だからしかたないとは香子も思う。どんなに長く生きていても寝ている時間が主では経験は積み上がらない。
『眷属に伝えておこう』
『朱雀様、私たち、どこかへ買物などへ向かうことは可能でしょうか?』
保有している資産について少しわかったところだが、香子は四神と買物や街歩きができるのならばしてみたいと思った。
『そうさな。一番気軽なのは我の領地であろう。四神宮から片時も離れてはいけないという規定はなかったはずだ。面倒だが一応皇帝に確認させよう』
『よろしくお願いします』
できないとは香子も思っていたから何も言わないでいたが、そろそろ外に出たかった。もしできたら、更に四神を好きになるのではないかと香子は思った。
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