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第4部 四神を愛しなさいと言われました
8.そんなにうまい話はない
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香子のわがままを叶える為、朱雀は皇帝の元へ跳んだ。
皇帝は大いに頭痛を覚えたそうだが、そんなことは香子には関係ない。
一日程度であれば事前に予定を決めた上で朱雀の領地へ跳ぶことはかまわないと許可が取れた。こんなことなら早めに言ってみるべきだったと香子は今更ながら残念に思った。ここのところそういうことが多いと香子は思う。
あれだけ四神とは話をしていたのに、そういうことは無理だと勝手に思い込み、無意識のうちに話題から除外していたらしい。
(なんでも話してみるべきだったのね)
不覚、と香子は玄武の胸に頭を摺り寄せた。そうしたことで簪がまだ頭に刺さっていることに気づいた。
『うう……』
玄武には甘えたかったが、簪を自ら取るのは抵抗がある。簪を取るということは、そういうことなのである。
しかも今はすぐ側に朱雀もいるのだ。このままなし崩しはどうかと思った。
『香子、如何した?』
でも耳に心地いいバリトンに聞かれたら、香子の全身が甘く震えた。
『……どこかで、玄武様や朱雀様と買物をしたりとか……そういう普通のことができるって思ったらすごく嬉しくなってしまって……』
『香子が嬉しいのならば我も嬉しい』
玄武の声も機嫌よく届いた。
『いつ頃参ろうか』
朱雀に問われて首を傾げた。
『いつ頃なら、ちょうどいいのでしょうね? 寒い季節ですし……でも大祭の後だと落ち着くまでは行けないでしょうし……』
香子はもう衣裳に使う布も選んであるので大祭までにしなければならないこともない。あとは張錦飛に書を習う以外は比較的自由といえた。
『ふむ……明後日にするか』
朱雀が少し考えるような顔をした後、そう言った。
『明後日? 大丈夫なのですか?』
『皇帝に言ってこよう』
『あっ……』
朱雀の行動は早かった。香子は苦笑した。
もう朱雀の姿が消えている。
『朱雀様って行動派ですねぇ』
『そうだな』
皇帝のとても困った顔が想像できて、香子はクスクス笑った。溜飲が下がるというものである。
『四神は……皇帝を振り回すぐらいでいいのかもしれませんね』
この国に加護を与えているのだ。少しばかり自由に振舞っても罰は当たるまいと香子は思った。そもそも、四神が罰を当てる方かもしれない。しばらくもしないうちに朱雀が戻ってきた。
『明後日の朝食後から向かうこととなった。我が抱き、直接館へ向かう』
『朱雀様の領地の、朱雀様の館へ、ですか?』
『そうだ』
(本当に行けるんだ)
そう思ったら、香子の胸にもぞもぞするような、なんともいえない感覚が生まれた。
香子はすごく、嬉しかった。
『すごく、楽しみです……』
『しかし、香子にしてもらいたいことがあるのだがよいか?』
朱雀に思いもかけないことを問われ、香子はきょとんとした。朱雀が悪い笑みを浮かべているようにも見え、なんだかとても嫌な予感がした。
『? 私にできることでしたらなんなりと……』
『その言葉、二言はないな?』
ぶわり……と朱雀から色香が立ち上った。
(え? どういうこと?)
朱雀の色香に中てられて、香子は全身が熱を持ったような気がした。
『領地に一時的でも戻るということは、土地に力を与えることに繋がる。その力を分けてほしいのだ』
『ど、どうやって……』
腰が引けてきたが玄武は放してくれない。それどころか床にそっと押し倒された。当たり前のように簪を抜かれる。
『香子、我らはそなたを愛せば愛すほど力が漲るようにできている。香子も我らを愛してくれているのだろう?』
『は、はい……』
それは間違いない。香子はもう四神をみな愛していると言っていい。けれど、香子が四神に力を与えているなんてことを香子は知らなかった。なんとなくそういうことがあるかもしれないとは香子も思っていたが、本当にそうだとは知らなかったのだ。
『そ、それはどれぐらい……』
『食事は取らせてやろう。香子は食べることが好きだからな』
朱雀が楽しそうに言う。
『あ、ありがとう、ございます?』
夕飯を食べさせてもらえないなんてことになったら、香子は暴れる自信はあった。
だけど。
『あ、あの……』
『なんだ?』
『今から、ですか?』
まだ明るい時間である。できれば夜の方が覚悟はできるのだが、と香子は無駄な抵抗をしようとした。
朱雀がにっこりする。
『ああ。玄武兄と、今からだ。明日一日は床から出してやれぬが、それは諦めよ』
一日半近く、香子は二神に抱かれなければならないと知って遠い目をしたくなった。
(なんかこういうの……私、予感していたかもしれない……)
だから今まで無意識に提案しなかったのかもしれないと香子はここにきて後悔した。だがもう撤回はできないだろう。玄武も朱雀もその気だ。
だがもう一つだけ疑問があった。
『朱雀様はわかりますが、何故玄武様もなのですかっ!?』
『相手の領地を訪ねる際も力の譲渡が必要なのだ。朱雀の領地に向かうのだ。我も力を分けてもらう必要がある』
『そんなぁ……』
うまい話はないということはよくわかった。香子はしかたなく身体の力を抜いた。
もう、抵抗はできなかった。
皇帝は大いに頭痛を覚えたそうだが、そんなことは香子には関係ない。
一日程度であれば事前に予定を決めた上で朱雀の領地へ跳ぶことはかまわないと許可が取れた。こんなことなら早めに言ってみるべきだったと香子は今更ながら残念に思った。ここのところそういうことが多いと香子は思う。
あれだけ四神とは話をしていたのに、そういうことは無理だと勝手に思い込み、無意識のうちに話題から除外していたらしい。
(なんでも話してみるべきだったのね)
不覚、と香子は玄武の胸に頭を摺り寄せた。そうしたことで簪がまだ頭に刺さっていることに気づいた。
『うう……』
玄武には甘えたかったが、簪を自ら取るのは抵抗がある。簪を取るということは、そういうことなのである。
しかも今はすぐ側に朱雀もいるのだ。このままなし崩しはどうかと思った。
『香子、如何した?』
でも耳に心地いいバリトンに聞かれたら、香子の全身が甘く震えた。
『……どこかで、玄武様や朱雀様と買物をしたりとか……そういう普通のことができるって思ったらすごく嬉しくなってしまって……』
『香子が嬉しいのならば我も嬉しい』
玄武の声も機嫌よく届いた。
『いつ頃参ろうか』
朱雀に問われて首を傾げた。
『いつ頃なら、ちょうどいいのでしょうね? 寒い季節ですし……でも大祭の後だと落ち着くまでは行けないでしょうし……』
香子はもう衣裳に使う布も選んであるので大祭までにしなければならないこともない。あとは張錦飛に書を習う以外は比較的自由といえた。
『ふむ……明後日にするか』
朱雀が少し考えるような顔をした後、そう言った。
『明後日? 大丈夫なのですか?』
『皇帝に言ってこよう』
『あっ……』
朱雀の行動は早かった。香子は苦笑した。
もう朱雀の姿が消えている。
『朱雀様って行動派ですねぇ』
『そうだな』
皇帝のとても困った顔が想像できて、香子はクスクス笑った。溜飲が下がるというものである。
『四神は……皇帝を振り回すぐらいでいいのかもしれませんね』
この国に加護を与えているのだ。少しばかり自由に振舞っても罰は当たるまいと香子は思った。そもそも、四神が罰を当てる方かもしれない。しばらくもしないうちに朱雀が戻ってきた。
『明後日の朝食後から向かうこととなった。我が抱き、直接館へ向かう』
『朱雀様の領地の、朱雀様の館へ、ですか?』
『そうだ』
(本当に行けるんだ)
そう思ったら、香子の胸にもぞもぞするような、なんともいえない感覚が生まれた。
香子はすごく、嬉しかった。
『すごく、楽しみです……』
『しかし、香子にしてもらいたいことがあるのだがよいか?』
朱雀に思いもかけないことを問われ、香子はきょとんとした。朱雀が悪い笑みを浮かべているようにも見え、なんだかとても嫌な予感がした。
『? 私にできることでしたらなんなりと……』
『その言葉、二言はないな?』
ぶわり……と朱雀から色香が立ち上った。
(え? どういうこと?)
朱雀の色香に中てられて、香子は全身が熱を持ったような気がした。
『領地に一時的でも戻るということは、土地に力を与えることに繋がる。その力を分けてほしいのだ』
『ど、どうやって……』
腰が引けてきたが玄武は放してくれない。それどころか床にそっと押し倒された。当たり前のように簪を抜かれる。
『香子、我らはそなたを愛せば愛すほど力が漲るようにできている。香子も我らを愛してくれているのだろう?』
『は、はい……』
それは間違いない。香子はもう四神をみな愛していると言っていい。けれど、香子が四神に力を与えているなんてことを香子は知らなかった。なんとなくそういうことがあるかもしれないとは香子も思っていたが、本当にそうだとは知らなかったのだ。
『そ、それはどれぐらい……』
『食事は取らせてやろう。香子は食べることが好きだからな』
朱雀が楽しそうに言う。
『あ、ありがとう、ございます?』
夕飯を食べさせてもらえないなんてことになったら、香子は暴れる自信はあった。
だけど。
『あ、あの……』
『なんだ?』
『今から、ですか?』
まだ明るい時間である。できれば夜の方が覚悟はできるのだが、と香子は無駄な抵抗をしようとした。
朱雀がにっこりする。
『ああ。玄武兄と、今からだ。明日一日は床から出してやれぬが、それは諦めよ』
一日半近く、香子は二神に抱かれなければならないと知って遠い目をしたくなった。
(なんかこういうの……私、予感していたかもしれない……)
だから今まで無意識に提案しなかったのかもしれないと香子はここにきて後悔した。だがもう撤回はできないだろう。玄武も朱雀もその気だ。
だがもう一つだけ疑問があった。
『朱雀様はわかりますが、何故玄武様もなのですかっ!?』
『相手の領地を訪ねる際も力の譲渡が必要なのだ。朱雀の領地に向かうのだ。我も力を分けてもらう必要がある』
『そんなぁ……』
うまい話はないということはよくわかった。香子はしかたなく身体の力を抜いた。
もう、抵抗はできなかった。
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