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第5章 家族の物語
第20話
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翌日、帰還されるアレス卿のお見送りは盛大に行われた。今回の夏至祭の国賓でもあり、皇妃様の弟でもあるので、国の重鎮方だけでなく皇家の方々も揃ってお出ましになられている。
「お世話になりました」
「こちらこそ、来てくれて感謝する。ブレシッドの義父上、義母上にもよろしく伝えて欲しい」
「道中、気を付けてね」
陛下と皇妃様がアレス卿にお声をかけている。内乱が収束してからはパラクインスの我儘に付き合う形で毎年の様にタランテラに来られていたが、大母様のご依頼で内乱が続くエルニアの調査に向かわれる為にこちらまで来られる事が困難になる。久しく会えなくなるため、特に皇妃様は名残惜しそうだ。
クゥゥゥ
もっと名残惜しそうなのはパラクインスだった。もう連れて来ないとアレス卿から宣言されているからか、最後の最後までティムにブラッシングをねだっていた。まあ、今度はティムが聖域へ移動になるので、今よりも楽に会いに行けるようになるのかもしれないが……。
そんな恨めし気なパラクインスの視線を気にせず、ティムはアレス卿の足にまとわりついて離れようとしないエル坊を抱え上げた。「叔父様と遊ぶの!」と言って抵抗しているが、敵うはずもない。我々にきちんと護衛の任務を果たしている姿を見せてくれていた。
重鎮方との挨拶を終えられたアレス卿は最後に俺達に近寄って来る。
「ルーク卿、オリガ夫人、大事な家族であるティム卿の力をしばらくお預かりする」
「本人の希望です。存分にこき使ってやってください」
俺の答えにアレス卿は目を瞬かせると、「では遠慮なく」と応えてまだ拗ねているパラクインスの元へ向かわれた。ちなみにもがくエル坊を必死に抑えているティムには俺達の会話は聞こえていなかったようで、アレス卿に向けて抱え上げたエル坊に手を振らせていた。
「クーズ山聖域神殿騎士団、プルメリア使節団、帰還する」
アレス卿の号令の下、飛竜が次々と飛び立っていく。彼等を先導するのはリーガス卿率いる第3騎士団。それに続いてアレス卿もパラクインスを飛び立たせる。隊列が整うまで上空をしばらく旋回した後、飛竜の一団は南へ進路を向ける。その中でも目立つ黒い飛竜は名残惜しそうに何度も何度も振り返っていた。
アレス卿のお見送りで夏至祭に絡む公式な行事は全て終わった。これでようやく一息つける。本当はラヴィーネ行きの準備もあるのだが、皇都に呼んだきりその対応をサイラスに任せっぱなしになっている両親と過ごすため、2日程休ませてもらう事になっている。そしてその休みの間はラウルとシュテファンが交代で対応し、どうしても2人で判断できない場合は俺に知らせてもらう手筈を整えていた。
オリガを伴《ともな》い大急ぎで家に帰ると、カミルが大喜びで出迎えてくれる。でも、やはり一番に向かうのは母親のオリガで、ちょっとだけ羨ましかった。本当はこのまま一緒に過ごしたいのだが、今日これから出かける先へは子供を連れて行けないのでカミルはお留守番だ。あまり時間に余裕が無いので、カミルをビアンカに任せて俺達は急いで外出着に着替えた。
この後、父さんと母さんを連れて皇都の劇場で観劇した後、外食してから帰宅することになっている。これは普段、皇都で俺達が過ごす休暇だ。
既に父さんと母さんの準備も整っていたので、4人で馬車に乗り込んだ。置いて行かれたカミルは泣いていたが、こればかりは仕方がない。これから向かうのは庶民向けとはいえ劇場。小さな子供は入れないし、帰りは遅くなる。可哀そうではあるが、明日は1日一緒にいる予定なので今日はいい子でお留守番してもらうしかない。
「カミルも連れていければ良かったのにねえ」
泣いているカミルの姿に母さんは心を痛めていた。そんな母さんを父さんが宥める。
「今日の所は仕方ないだろう。明日、その分遊んでやればいい」
そんな話をしているうちに馬車は劇場に到着していた。皇都には国立の大劇場もあるが、そちらは完全に貴族の社交場だ。幾度か陛下のお供で足を運んだことはあるが、俺には格式が高すぎて私的に行こうとは思わない。
それに対して今日来たところは、庶民でも少し奮発すれば本格的な舞台を楽しむことが出来る中堅どころの劇場だ。サイラスが父さんと母さんの為に気を利かせて一番いい席を確保してくれていた。
「どんな劇が見られるのかねぇ……」
アジュガには常設の劇場は無く、観劇は祭りの折ぐらいにしかできない。カミルの事は心配ではあるが、それでも母さんは観劇ができるのは嬉しい様だ。
「タランテラ復興譚……内乱の時の話だね」
内乱終結後、あの惨事を後世に残す為に陛下のご命令で作られた戯曲だ。陛下に指名された作者が張り切りすぎて、完成したのは通常の戯曲の数倍となる超大作となっていた。当然、これを1日で上演できるはずもなく、大劇場で行われた完成のお披露目会は3日に渡ったと言う曰く付きの戯曲だ。
このままでは後世に残すと言う当初の目的にはそぐわない。そこで大劇場以外では話を区切って上演されている。当然、上演されるのは人気がある話に偏って来る。ちなみに今日この劇場で上演されるのは、フォルビア城に囚われている陛下を竜騎士達が助けると言う内容だ。出て来る竜騎士の中には俺の名前もある。何だか気恥ずかしい。
「おや、ルークも出てくるのかい?」
「……楽しみだな」
本当に気恥ずかしい。サイラスの奴、わざとこの戯曲を選んだのかもしれない。葛藤する俺を隣に座るオリガが優しく慰めてくれた。
「素晴らしかったわねぇ」
「うむ」
「役者さんもみんな素敵だったし、音楽も良かったわ」
「うむ。飛竜が出て来る仕掛けは見事だったな」
舞台は素晴らしいの一言に尽きた。この劇団ならではの工夫も随所にみられ、あの大劇場で見た舞台と遜色のない出来栄えだった。大満足で劇場を後にした俺達は馬車に乗り込み、その感想を口々に言いながら次の目的地である料理屋へ向かっていた。
「皇妃様の役をやられた方の歌も素敵でしたね」
「そうだね」
幕間に皇妃様が離れ離れになった陛下を想って歌う場面があった。この劇場一番の女性歌手だったらしく、その抜群の歌唱力で観客を魅了していた。オリガもその一人だったようで、また見に行こうとねだられた。もちろん、喜んで承諾する。但し、今度は違う演目にしよう。タランテラ復興譚は何だか気恥ずかしい。
「ルーク役の役者さんは大活躍だったねえ」
「ははは……」
どうやら、俺達が家族で見に来ることを劇場側が事前に知っていて、脚本に少し手を加えて俺の役の人の見せ場を作ってくれていた。もうそれが事実よりも誇張されていて、何だかいたたまれないと言うか気恥しいと言うか……。こうして母さんが喜んでくれているのならそれでいいかとも思う。
そうして話をしているうちに目的の場所に着いていた。賑やかな通りから少し入った落ち着いた雰囲気の料理屋で、皇都に住むようになってから通い出した店だ。店主とも顔なじみで、今回両親を連れてくると言ったところ、店を休みにして俺達だけの貸し切りにしてくれていた。
「ルーク卿、良くお越しくださいました」
「こちらこそ、わざわざありがとう」
店に着くと、店主がわざわざ出迎えてくれた。俺が通い出した頃はまだ店を出して間もない頃だったらしい。オリガとだけでなく、雷光隊の仲間も連れて来たこともある。ラウルもこの店を気に入り、イリス夫人と2人で来るらしい。店主は俺のおかげで客が増えたと感謝してくれるが、出される料理が美味しいのだから当然だといつも言い返している。
店の中へ入ると、俺たち家族の為だけの席が用意されていた。先ずは父さんと母さんに席を勧め、オリガを席に促し、最後に俺が座る。するとすぐに接客を担当している店主の奥さんが前菜の皿と食前酒を運んできた。
「えっとじゃあ、俺を支えてくれている家族みんなに感謝して、乾杯」
とりあえず何か挨拶をしろと父さんに言われたので、こんな風になってしまった。みんな苦笑しながら杯を掲げてくれていた。
「これは……本当に美味しいねぇ」
「うむ」
出てくるのは、野菜の煮込みやあぶり肉など、家庭的な料理が中心だ。ただ、まるで魔法がかかっているかのように格段に美味しく感じるのだ。香辛料の使い方も上手く、素材の味を決して殺さない使い方をしている。母さんはしきりに感心しながら料理を口に運び、父さんはそれに同意しながらお酒よりも料理に手を伸ばしていた。
「喜んでもらえて良かった」
「皇都にはこんなお店もあるんだねぇ……」
外食すると言うと、貴族が行くような堅苦しい店しかないと思い込んでいた母さんはものすごく遠慮していた。俺達が普段からよくいく店だから大丈夫だと言って、どうにか説得した経緯がある。そんな母さんも満足してくれたみたいで俺もオリガもホッと一安心だ。
「ご満足していただけましたか?」
最後の1品は店主が自ら持ってきてくれた。スモモをワインと砂糖で煮込んだデザートだ。これも甘すぎず、ワインの香りが程よい一品になっている。一緒に用意されたお茶ともよくあっている。
「ありがとう、大満足だよ」
「そう言って頂けると嬉しいです」
代表して俺がお礼を言うと、店主も嬉しそうだ。また、オリガと一緒に寄らせてもらおう。カミルは独りで上手に食べられるようになってからだな。
休みにわざわざ店を開けてくれたので、通常よりも少し多めに代金を支払って店を後にした。馬車に揺られて家に向かう。
「明日は晴れるかしら?」
「晴れてくれるといいな。でも、やんちゃ坊主の相手をするから大変だぞ」
「頼りにしています、旦那様」
「ははは……」
明日は父さんと母さんだけでなくカミルも連れて郊外へ出かける。大変な1日になるだろうが、1人でエル坊の相手をしているティムよりは楽だろう。そう自分に言い聞かせながら家路についたのだった。
「お世話になりました」
「こちらこそ、来てくれて感謝する。ブレシッドの義父上、義母上にもよろしく伝えて欲しい」
「道中、気を付けてね」
陛下と皇妃様がアレス卿にお声をかけている。内乱が収束してからはパラクインスの我儘に付き合う形で毎年の様にタランテラに来られていたが、大母様のご依頼で内乱が続くエルニアの調査に向かわれる為にこちらまで来られる事が困難になる。久しく会えなくなるため、特に皇妃様は名残惜しそうだ。
クゥゥゥ
もっと名残惜しそうなのはパラクインスだった。もう連れて来ないとアレス卿から宣言されているからか、最後の最後までティムにブラッシングをねだっていた。まあ、今度はティムが聖域へ移動になるので、今よりも楽に会いに行けるようになるのかもしれないが……。
そんな恨めし気なパラクインスの視線を気にせず、ティムはアレス卿の足にまとわりついて離れようとしないエル坊を抱え上げた。「叔父様と遊ぶの!」と言って抵抗しているが、敵うはずもない。我々にきちんと護衛の任務を果たしている姿を見せてくれていた。
重鎮方との挨拶を終えられたアレス卿は最後に俺達に近寄って来る。
「ルーク卿、オリガ夫人、大事な家族であるティム卿の力をしばらくお預かりする」
「本人の希望です。存分にこき使ってやってください」
俺の答えにアレス卿は目を瞬かせると、「では遠慮なく」と応えてまだ拗ねているパラクインスの元へ向かわれた。ちなみにもがくエル坊を必死に抑えているティムには俺達の会話は聞こえていなかったようで、アレス卿に向けて抱え上げたエル坊に手を振らせていた。
「クーズ山聖域神殿騎士団、プルメリア使節団、帰還する」
アレス卿の号令の下、飛竜が次々と飛び立っていく。彼等を先導するのはリーガス卿率いる第3騎士団。それに続いてアレス卿もパラクインスを飛び立たせる。隊列が整うまで上空をしばらく旋回した後、飛竜の一団は南へ進路を向ける。その中でも目立つ黒い飛竜は名残惜しそうに何度も何度も振り返っていた。
アレス卿のお見送りで夏至祭に絡む公式な行事は全て終わった。これでようやく一息つける。本当はラヴィーネ行きの準備もあるのだが、皇都に呼んだきりその対応をサイラスに任せっぱなしになっている両親と過ごすため、2日程休ませてもらう事になっている。そしてその休みの間はラウルとシュテファンが交代で対応し、どうしても2人で判断できない場合は俺に知らせてもらう手筈を整えていた。
オリガを伴《ともな》い大急ぎで家に帰ると、カミルが大喜びで出迎えてくれる。でも、やはり一番に向かうのは母親のオリガで、ちょっとだけ羨ましかった。本当はこのまま一緒に過ごしたいのだが、今日これから出かける先へは子供を連れて行けないのでカミルはお留守番だ。あまり時間に余裕が無いので、カミルをビアンカに任せて俺達は急いで外出着に着替えた。
この後、父さんと母さんを連れて皇都の劇場で観劇した後、外食してから帰宅することになっている。これは普段、皇都で俺達が過ごす休暇だ。
既に父さんと母さんの準備も整っていたので、4人で馬車に乗り込んだ。置いて行かれたカミルは泣いていたが、こればかりは仕方がない。これから向かうのは庶民向けとはいえ劇場。小さな子供は入れないし、帰りは遅くなる。可哀そうではあるが、明日は1日一緒にいる予定なので今日はいい子でお留守番してもらうしかない。
「カミルも連れていければ良かったのにねえ」
泣いているカミルの姿に母さんは心を痛めていた。そんな母さんを父さんが宥める。
「今日の所は仕方ないだろう。明日、その分遊んでやればいい」
そんな話をしているうちに馬車は劇場に到着していた。皇都には国立の大劇場もあるが、そちらは完全に貴族の社交場だ。幾度か陛下のお供で足を運んだことはあるが、俺には格式が高すぎて私的に行こうとは思わない。
それに対して今日来たところは、庶民でも少し奮発すれば本格的な舞台を楽しむことが出来る中堅どころの劇場だ。サイラスが父さんと母さんの為に気を利かせて一番いい席を確保してくれていた。
「どんな劇が見られるのかねぇ……」
アジュガには常設の劇場は無く、観劇は祭りの折ぐらいにしかできない。カミルの事は心配ではあるが、それでも母さんは観劇ができるのは嬉しい様だ。
「タランテラ復興譚……内乱の時の話だね」
内乱終結後、あの惨事を後世に残す為に陛下のご命令で作られた戯曲だ。陛下に指名された作者が張り切りすぎて、完成したのは通常の戯曲の数倍となる超大作となっていた。当然、これを1日で上演できるはずもなく、大劇場で行われた完成のお披露目会は3日に渡ったと言う曰く付きの戯曲だ。
このままでは後世に残すと言う当初の目的にはそぐわない。そこで大劇場以外では話を区切って上演されている。当然、上演されるのは人気がある話に偏って来る。ちなみに今日この劇場で上演されるのは、フォルビア城に囚われている陛下を竜騎士達が助けると言う内容だ。出て来る竜騎士の中には俺の名前もある。何だか気恥ずかしい。
「おや、ルークも出てくるのかい?」
「……楽しみだな」
本当に気恥ずかしい。サイラスの奴、わざとこの戯曲を選んだのかもしれない。葛藤する俺を隣に座るオリガが優しく慰めてくれた。
「素晴らしかったわねぇ」
「うむ」
「役者さんもみんな素敵だったし、音楽も良かったわ」
「うむ。飛竜が出て来る仕掛けは見事だったな」
舞台は素晴らしいの一言に尽きた。この劇団ならではの工夫も随所にみられ、あの大劇場で見た舞台と遜色のない出来栄えだった。大満足で劇場を後にした俺達は馬車に乗り込み、その感想を口々に言いながら次の目的地である料理屋へ向かっていた。
「皇妃様の役をやられた方の歌も素敵でしたね」
「そうだね」
幕間に皇妃様が離れ離れになった陛下を想って歌う場面があった。この劇場一番の女性歌手だったらしく、その抜群の歌唱力で観客を魅了していた。オリガもその一人だったようで、また見に行こうとねだられた。もちろん、喜んで承諾する。但し、今度は違う演目にしよう。タランテラ復興譚は何だか気恥ずかしい。
「ルーク役の役者さんは大活躍だったねえ」
「ははは……」
どうやら、俺達が家族で見に来ることを劇場側が事前に知っていて、脚本に少し手を加えて俺の役の人の見せ場を作ってくれていた。もうそれが事実よりも誇張されていて、何だかいたたまれないと言うか気恥しいと言うか……。こうして母さんが喜んでくれているのならそれでいいかとも思う。
そうして話をしているうちに目的の場所に着いていた。賑やかな通りから少し入った落ち着いた雰囲気の料理屋で、皇都に住むようになってから通い出した店だ。店主とも顔なじみで、今回両親を連れてくると言ったところ、店を休みにして俺達だけの貸し切りにしてくれていた。
「ルーク卿、良くお越しくださいました」
「こちらこそ、わざわざありがとう」
店に着くと、店主がわざわざ出迎えてくれた。俺が通い出した頃はまだ店を出して間もない頃だったらしい。オリガとだけでなく、雷光隊の仲間も連れて来たこともある。ラウルもこの店を気に入り、イリス夫人と2人で来るらしい。店主は俺のおかげで客が増えたと感謝してくれるが、出される料理が美味しいのだから当然だといつも言い返している。
店の中へ入ると、俺たち家族の為だけの席が用意されていた。先ずは父さんと母さんに席を勧め、オリガを席に促し、最後に俺が座る。するとすぐに接客を担当している店主の奥さんが前菜の皿と食前酒を運んできた。
「えっとじゃあ、俺を支えてくれている家族みんなに感謝して、乾杯」
とりあえず何か挨拶をしろと父さんに言われたので、こんな風になってしまった。みんな苦笑しながら杯を掲げてくれていた。
「これは……本当に美味しいねぇ」
「うむ」
出てくるのは、野菜の煮込みやあぶり肉など、家庭的な料理が中心だ。ただ、まるで魔法がかかっているかのように格段に美味しく感じるのだ。香辛料の使い方も上手く、素材の味を決して殺さない使い方をしている。母さんはしきりに感心しながら料理を口に運び、父さんはそれに同意しながらお酒よりも料理に手を伸ばしていた。
「喜んでもらえて良かった」
「皇都にはこんなお店もあるんだねぇ……」
外食すると言うと、貴族が行くような堅苦しい店しかないと思い込んでいた母さんはものすごく遠慮していた。俺達が普段からよくいく店だから大丈夫だと言って、どうにか説得した経緯がある。そんな母さんも満足してくれたみたいで俺もオリガもホッと一安心だ。
「ご満足していただけましたか?」
最後の1品は店主が自ら持ってきてくれた。スモモをワインと砂糖で煮込んだデザートだ。これも甘すぎず、ワインの香りが程よい一品になっている。一緒に用意されたお茶ともよくあっている。
「ありがとう、大満足だよ」
「そう言って頂けると嬉しいです」
代表して俺がお礼を言うと、店主も嬉しそうだ。また、オリガと一緒に寄らせてもらおう。カミルは独りで上手に食べられるようになってからだな。
休みにわざわざ店を開けてくれたので、通常よりも少し多めに代金を支払って店を後にした。馬車に揺られて家に向かう。
「明日は晴れるかしら?」
「晴れてくれるといいな。でも、やんちゃ坊主の相手をするから大変だぞ」
「頼りにしています、旦那様」
「ははは……」
明日は父さんと母さんだけでなくカミルも連れて郊外へ出かける。大変な1日になるだろうが、1人でエル坊の相手をしているティムよりは楽だろう。そう自分に言い聞かせながら家路についたのだった。
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