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本日の予定は。
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******
仕事を辞めてから、数日後。
今日はサンドイッチのお弁当を作った。
修史さん、食べてくれるかな。
でもちょっと作りすぎちゃって、朝ごはん用のサンドイッチもテーブルの上に並んでいる。
修史さんのお弁当を包んでいたら、そのうち修史さんが起きてきた。
「おはよ」
「おはよう。サンドイッチ作ったから、食べて」
「ありがと」
そう言って、これ、お弁当ね、と。
ついでに修史さんに今日のお弁当も渡す。
「ごめんね。お弁当もサンドイッチになっちゃったけど」
「ううん、平気」
修史さんの今日のシフトはオール勤務らしい。
毎日仕事が大変だけど、あたしが作ったお弁当をいつも完食してくれるんだ。
あたしがそう思っていたら、ふいに修史さんが何かに気が付いて言った。
「…鏡子もどこか行くの?今日」
「!!…え、」
そう言って、不思議そうな顔をしてあたしを見るから。
キッチンに置いてある、あたしの分のお弁当に気づかれてしまった。
気づかれてしまったけど、平然を装って言った。
「あ、ああこれ?こういうのも、たまにはいいかなぁって」
「ふーん?」
修史さんには気づかれちゃいけない。
今日のあたしの予定を。
あたしは今日…このマンションを離れるから。
修史さんからも、離れるから。
修史さんはそれ以上は何も聞いてこなくて、やがて時間が経つともう仕事に行ってしまう時間になった。
「行ってらっしゃい」
「ん、行ってくんね」
出来るだけいつも通りを装って、気づかれないように笑顔で。
「…今日会議の後売り場変更しなきゃいけないから、多分ちょっと遅くなる」
「ん、わかった」
「…」
気を付けてね。と、そう言って手を振ろうとしたら…修史さんがまた口を開いて言った。
「でもできるだけ早く帰るから、待ってて」
「うん」
「…帰ったら話があるから」
…その言葉に、「そういえば出張の時も言われてたな」と思い出す。
気になってたけど聞けなかった。なんとなく、聞くのが怖くて。
修史さんが言う「話」の内容が気になりつつ、あたしは「わかった。待ってる」と見送る。
するとやがて修史さんは行ってしまって、玄関にぽつん、とあたしだけが残った。
「…修史さん」
修史さんがいなくなった途端に、こらえきれなくて涙が出てきた。
もう会えない。でもごめんなさい、もう決めたから。
もう離れるって、決めたから。
『待ってて』
修史さんが帰ってきた頃には、もうあたしはここにはいない。
「ごめん、ごめんなさいっ…」
あたしは独りぼっちの玄関で、独り泣き崩れた…。
…………
玄関で散々泣いて、リビングに戻ってきた頃にはもう9時を過ぎていた。
バスの時間は朝の10時頃。バス停までここから歩いて20分くらい。
…あたしも早く用意しなきゃ。
そう思って、散々泣いた後の酷い顔にメイクをし直す。
すると、メイクをしている最中、ふいにある人物から連絡が入って、バスの到着時刻を聞かれた。
「…うん。それくらいかな。待っててね、祐くん」
あたしは電話相手の祐くんにそう言うと、そのあと電話を切った。
…そういえば、バスのチケット買ったのどこにしまったかな。
そう思って突如不安になって、財布の中を見てみるけど、バスのチケットが見当たらない。
…あれ?ない…あ、スマホの手帳のポケットとか…。
そう思って探してみても、そこにもバスのチケットはどこにもなかった。
あれ、カバンにしまったのかな…。
だけどメイク途中の顔でカバンの中を漁ってみるけれど、そこにもバスのチケットは見当たらない。
…嘘でしょ。あたし、どこにしまったんだろ…。
でも考えてみても思い出せなくて、とりあえず先にメイクだけ済ませて、チケットは後で探すことにした。
…………
「…ない」
その後、メイクを済ませてチケットをよく探してみたけれど、結局どこにも見当たらなかった。
探しているうちにバスの発車時間が近づいてきて、もうそろそろ出なきゃいけない。
…仕方ない。駅で当日券買うか、無理なら電車を乗り継ぐかなんかしよう。
そう思って、クローゼットに隠しておいたスーツケースを取り出して、部屋を出る。
部屋を出たら何だかまた泣きそうになって、あたしは涙をこらえながらエレベーターに乗った。
…ほんと、綺麗で立派なマンション。
少しの間住めただけでも幸せだったな。
きっと、修史さんと付き合ってなきゃ住めなかったかもしれないマンションだし。
…修史さん、帰ってきてあたしがいなかったら…どうするかな。
探して、くれるかな…。
そう考えているうちにエレベーターは1階に到着して、あたしは涙を拭うと最後のそのマンションを出た。
出て、数歩歩くと、ふいにすぐ近くで聞きなれた声が聞こえた。
「ずいぶん泣いてたみたいだね?」
「!」
その声に、ピタリと足を止めて、「まさか」と声がした方を振り返る。
…いや、まさか…だってあの人は…とっくの前に仕事に行ったはず。
だけど、マンションの入り口付近には…
「しゅ、修史、さん…」
何故か、壁を背に寄りかかる修史さんが立っていた…。
仕事を辞めてから、数日後。
今日はサンドイッチのお弁当を作った。
修史さん、食べてくれるかな。
でもちょっと作りすぎちゃって、朝ごはん用のサンドイッチもテーブルの上に並んでいる。
修史さんのお弁当を包んでいたら、そのうち修史さんが起きてきた。
「おはよ」
「おはよう。サンドイッチ作ったから、食べて」
「ありがと」
そう言って、これ、お弁当ね、と。
ついでに修史さんに今日のお弁当も渡す。
「ごめんね。お弁当もサンドイッチになっちゃったけど」
「ううん、平気」
修史さんの今日のシフトはオール勤務らしい。
毎日仕事が大変だけど、あたしが作ったお弁当をいつも完食してくれるんだ。
あたしがそう思っていたら、ふいに修史さんが何かに気が付いて言った。
「…鏡子もどこか行くの?今日」
「!!…え、」
そう言って、不思議そうな顔をしてあたしを見るから。
キッチンに置いてある、あたしの分のお弁当に気づかれてしまった。
気づかれてしまったけど、平然を装って言った。
「あ、ああこれ?こういうのも、たまにはいいかなぁって」
「ふーん?」
修史さんには気づかれちゃいけない。
今日のあたしの予定を。
あたしは今日…このマンションを離れるから。
修史さんからも、離れるから。
修史さんはそれ以上は何も聞いてこなくて、やがて時間が経つともう仕事に行ってしまう時間になった。
「行ってらっしゃい」
「ん、行ってくんね」
出来るだけいつも通りを装って、気づかれないように笑顔で。
「…今日会議の後売り場変更しなきゃいけないから、多分ちょっと遅くなる」
「ん、わかった」
「…」
気を付けてね。と、そう言って手を振ろうとしたら…修史さんがまた口を開いて言った。
「でもできるだけ早く帰るから、待ってて」
「うん」
「…帰ったら話があるから」
…その言葉に、「そういえば出張の時も言われてたな」と思い出す。
気になってたけど聞けなかった。なんとなく、聞くのが怖くて。
修史さんが言う「話」の内容が気になりつつ、あたしは「わかった。待ってる」と見送る。
するとやがて修史さんは行ってしまって、玄関にぽつん、とあたしだけが残った。
「…修史さん」
修史さんがいなくなった途端に、こらえきれなくて涙が出てきた。
もう会えない。でもごめんなさい、もう決めたから。
もう離れるって、決めたから。
『待ってて』
修史さんが帰ってきた頃には、もうあたしはここにはいない。
「ごめん、ごめんなさいっ…」
あたしは独りぼっちの玄関で、独り泣き崩れた…。
…………
玄関で散々泣いて、リビングに戻ってきた頃にはもう9時を過ぎていた。
バスの時間は朝の10時頃。バス停までここから歩いて20分くらい。
…あたしも早く用意しなきゃ。
そう思って、散々泣いた後の酷い顔にメイクをし直す。
すると、メイクをしている最中、ふいにある人物から連絡が入って、バスの到着時刻を聞かれた。
「…うん。それくらいかな。待っててね、祐くん」
あたしは電話相手の祐くんにそう言うと、そのあと電話を切った。
…そういえば、バスのチケット買ったのどこにしまったかな。
そう思って突如不安になって、財布の中を見てみるけど、バスのチケットが見当たらない。
…あれ?ない…あ、スマホの手帳のポケットとか…。
そう思って探してみても、そこにもバスのチケットはどこにもなかった。
あれ、カバンにしまったのかな…。
だけどメイク途中の顔でカバンの中を漁ってみるけれど、そこにもバスのチケットは見当たらない。
…嘘でしょ。あたし、どこにしまったんだろ…。
でも考えてみても思い出せなくて、とりあえず先にメイクだけ済ませて、チケットは後で探すことにした。
…………
「…ない」
その後、メイクを済ませてチケットをよく探してみたけれど、結局どこにも見当たらなかった。
探しているうちにバスの発車時間が近づいてきて、もうそろそろ出なきゃいけない。
…仕方ない。駅で当日券買うか、無理なら電車を乗り継ぐかなんかしよう。
そう思って、クローゼットに隠しておいたスーツケースを取り出して、部屋を出る。
部屋を出たら何だかまた泣きそうになって、あたしは涙をこらえながらエレベーターに乗った。
…ほんと、綺麗で立派なマンション。
少しの間住めただけでも幸せだったな。
きっと、修史さんと付き合ってなきゃ住めなかったかもしれないマンションだし。
…修史さん、帰ってきてあたしがいなかったら…どうするかな。
探して、くれるかな…。
そう考えているうちにエレベーターは1階に到着して、あたしは涙を拭うと最後のそのマンションを出た。
出て、数歩歩くと、ふいにすぐ近くで聞きなれた声が聞こえた。
「ずいぶん泣いてたみたいだね?」
「!」
その声に、ピタリと足を止めて、「まさか」と声がした方を振り返る。
…いや、まさか…だってあの人は…とっくの前に仕事に行ったはず。
だけど、マンションの入り口付近には…
「しゅ、修史、さん…」
何故か、壁を背に寄りかかる修史さんが立っていた…。
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