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会いたい出張最終日

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北海道に出張に行ってから、やっと一週間が経過した。
今日は出張最終日で、ほぼ移動の日だ。

結局ずっと観光の時間はとれなくて、お土産を買えるのは今日だけになった。
でも今日はこのまま店に寄ることもなく直帰の日だし、夕方にはマンションに到着する。
鏡子の今日のシフトも早番だし、今日はやっと鏡子に会えるんだ。
そう思って無事にお土産を買った後、離陸時間までスマホゲームで時間を潰していたら、売り場から電話がかかってきた。
一瞬、鏡子かな?と思ったけど、違った。

「…どした?」

鏡子のつもりで電話にでたら、エリナちゃんの声が聞こえてきた。

『あ、柳瀬さん今大丈夫ですか?』
「…その声はエリナちゃん?どしたの」
『すみません。さっき本店から電話があって、柳瀬さんの今日の予定を聞かれたんですけどあたしよくわからなくって』
「あ、じゃあ俺から直接電話しとくよ。誰?」

…俺はそう聞きながら、相手の名前と番号をメモろうとして、だけどスマホに元々登録してある番号だからメモするのをやめた。

「ん、了解。ありがと」

しかし、俺がそう言って電話を切ろうとすると、エリナちゃんがそれを止めるように言う。

『あ、柳瀬さんちょっと待って下さい!』
「…なに?」
『もういっこ相談なんですけど、鏡子が、あの…』
「?」

しかし。エリナちゃんの言葉に耳を傾けていると、その時タイミング悪く電話にキャッチが入ってしまった。
げ、鏡子の話だから聞きたかったのにタイミング悪過ぎだろ。
だけどきっと売り場にもかかってきたらしい俺の今日の予定の確認電話だろうから、無視するわけにいかなくて、エリナちゃんに言った。

「ごめん、キャッチ入った」
『えっ』
「切るわ。まじごめん」

俺はそう言うと、電話の向こうで少し慌てるエリナちゃんをよそに、電話を切った。
そしてすぐにまた仕事の電話を繰り返すうちに、エリナちゃんからの鏡子の話が俺の中から抜けてしまった…。


******


それから飛行機に乗って、しばらくすると飛行機は自宅付近の空港に着陸した。
ただ今の時刻は夕方の16時半。
鏡子はまだ仕事中だから、誰も迎えとかは来ていない。
荷物は大事なものとお土産以外は全部マンションに送って貰ってるからバスで帰ろうかと思ったけど、一週間の出張で疲れが溜まってるからタクシーで帰ることにした。
疲れた…でも明日はシフト上休みだ。一日完全にゆっくり休める。
水曜日は毎週定休日だけど出張中は休めなかったし、前回の休みから数えたら何日ぶりの休みなんだろ。
…まぁいいか。今はそんなこと考える気力もない。

そんなことを思いながら空港前でタクシーを捕まえて、運転手に目的地を伝える。
ここからマンションまでだいたい1時間といったところだろうか。
飛行機の中でも寝たけどタクシーでも睡魔に襲われて、俺は1時間だけ眠りについた。

…………

熟睡中の1時間なんてあっという間で、俺は運転手の声に起こされて起きた。
…その声に窓の外を見ると、目の前には引っ越してきたばかりのマンションが建っている。

「料金は8500円です」
「…すんません、1万円で。あ、領収書下さい」

そしてそんなやりとりをしておつりを財布の中に入れていると、目の前のマンションを見た運転手が言った。

「お客さん、ここに住んでるの?立派なマンションだね、羨ましい」
「はい。まぁ最近引っ越したばっかなんですけど」
「いやそれが羨ましいよ。ここ、部屋から見る夜景が絶景だってよく聞くし」

運転手さんの話によると、やっぱりこのマンションは外観と内観もお洒落で、周りに薬局やスーパー、コンビニなどがそろっていて場所的にも評価が高いらしい。
俺は少しだけ運転手と話をしたあと、やがてタクシーを降りた。
…時刻は17時半をとっくに過ぎている。
鏡子は早番だし帰ってきてるかな。
そう思いながら、部屋がある階までエレベーターを使って上がる。
エレベーター内は俺一人だから、思わずあくびが出てまた睡魔に襲われた。
やべ…帰ったらすぐ寝よ。鏡子には申し訳ないけど。

目的の階に到着すると、エレベーターを出て通路を歩こうとする。
しかし歩き出した瞬間に、向こうから帽子を目深にかぶった男?が急いでいる様子でこっちに向かって歩いてくる姿が視界に入って、俺は慌てて退こうとしたけど間に合わず、肩だけがぶつかってしまう。
思わず「すみません」と声をかけたけど向こうの謝罪は無く、顔も全く見えなかったそいつに俺は首を傾げながら、「まあいいか」と再び部屋に向かって歩き出した。
そしてやがて部屋の前まで来ると、一気に安心感がこみ上げてきて、俺は通勤カバンのポケットからカードキーを取り出した。
しかし開けようとしたはずが逆に閉まってしまって、もう一回試すと鍵はやっと開いた。
…やっぱ鏡子帰って来てんのかな?
そう思って、

「鏡子ー?ただいまー」

と、声をかけながら靴を脱ぐ。
ふいに足元を見ると、鏡子がいつも出勤時に履いている靴が目に留まって、だけどそれは珍しく脱ぎ散らかすような乱雑な形になっていた。

「…?」

変だな…いつもなら揃えておいてあるのに。
…まさか…!
俺は不意に「嫌な予感」が過って、すぐにリビングに駆け込んだ。

「鏡子っ…!?」

…だけどそこには。

「あ、おかえりなさい修史さん」
「!」
「どうしたの?そんなに慌てて」
「…?」

いつもと同じように、キッチンに立っている鏡子の姿があるだけだった。





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