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危険なヒーロー①
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待ちに待った給料日。
ATMの前に立つと、あたしは予想以上の金額にビックリして目を丸くした。
「…!?」
数週間前の広喜くんとの一件があってから、広喜くんとは本当に連絡をとらなくなったし、気にすることも少なくなってきていた。
柳瀬さんは「鏡子に金返せ」とか言ってくれてたけど、広喜くんがそんな簡単に返してくれるはずがないって、思ってた。でも…
「…明細の金額より凄い多く入ってる…!?」
思わずATMの前で独りそう呟くと、その時たまたま隣のATMに居たらしい柳瀬さんが、あたしに言った。
「あ、それ、広喜くん?だっけ。彼からの返金のお金も入ってるから」
「え!あっ…」
そうなんだ!ってか柳瀬さんいつのまに。
「直接彼に貰うと、その時にまた何か起っちゃうかもしれないから、危険だなって思って。
すぐには全額返せないらしいから、給料日に少しずつ五十嵐さんの口座に普段の給料と一緒に振り込んでおくから」
「!」
「まぁ今はそれで、許してやって?一応反省はしてるみたいだし」
柳瀬さんはそう言うと、「じゃあね」とその場を後にしようとするから。
あたしも数万くらいお金を引き出すと、その後ろ姿を慌てて追いかけた。
「あのっ…柳瀬さん待って下さい!」
「!」
そう言って、銀行を出て柳瀬さんの服の裾を掴む。
だけどその裾をパッと離して、立ち止まった柳瀬さんにあたしは言った。
「すみません。本当は、あたしが向き合わなきゃいけないことなのに。柳瀬さんに任せてしまって」
そう言って、もう一度頭を下げようとしたら、その前に柳瀬さんがあたしの方を振り返って言った。
「それは違うよ」
「…え、」
「ほら、困ってる部下を助けるのも、上司の仕事じゃん。居酒屋であんな風に聞いたら、助けずにはいられないし」
「あ…」
「…あ、いや、それも違くて。ごめん」
「?」
しかし柳瀬さんはそれも否定すると、ふっとあたしから目を逸らす。
…どうしたんだろ?
そんな柳瀬さんにあたしが首をかしげていると、再び柳瀬さんが口を開いて、言った。
「まぁ俺のことは気にしないでよ。気にしないで、任せちゃって平気だから」
「でも、」
「俺は、素直に喜んで『ありがとう』って笑ってる五十嵐さんが見たいな…?」
「!」
柳瀬さんはそう言うと、うつむくあたしの顔を覗き込む。
あたしはその整った顔にまたドキドキしちゃって、上手く表情を作れない。
でも、柳瀬さんの言う通り、かも。
「すみません」って悲しい顔するより、「ありがとう」って笑う方が。可愛い…かも。
あたしはそう思うと、笑えているかわからない笑顔で、柳瀬さんに言った。
「あ…ありがとう、ございます」
「…」
「本当はすごくスッキリしてます。あたしが何か言っても、広喜くんに殴られちゃいそうだから。
だから本当に、本気で柳瀬さんがいてくれて良かったです」
「…五十嵐さん」
「ちょっとずつお金も返ってきたし……でも」
「…?」
そこまで言って、「また独りぼっちになっちゃいました」と言いかけて、でもその言葉を飲み込む。
そして「あ、でも本当に良かったです」と笑って誤魔化した。
だって、柳瀬さんは「俺がいる」みたいなこと言ってくれるけど、でもあたしは柳瀬さんのことまだよくわかってないし。それに、変に同情されたり、かわいそうな目で見られたりするのも、嫌だし。
だけど、「それでは」と仕事場に戻ろうとしたら、柳瀬さんにそれを止められた。
「五十嵐さん」
「…はい」
「今日…仕事終わったら時間ある?」
******
時刻は18時。
柳瀬さんと待ち合わせの居酒屋に行くと、既にそこには柳瀬さんが到着していた。
「すみません、お待たせしちゃって」
「いや全然。っつか会社じゃないんだしリラックスしていいよ。五十嵐さん何飲む?」
「…あたしは今日はお茶で」
「え、」
柳瀬さんがドリンクメニューを私に渡す前に、あたしはそう言った。
実は、あたしは今日は絶対に飲まないって決めてある。
だってこの前と同じ失態、もう二度と繰り返したくない。だってまた、明日も定休日で休みだし。
…泥酔して知り合ったばっかの男の家に自分から上がり込んで挙句の果てにはベッドで嘔吐して服を全部脱がされたなんて、まじ女として終わってる。ってかもう思い出したくない。
だけどそんなあたしに柳瀬さんが言った。
「飲まないの?今日。何っ…あ、もしかしてこの前のこと引きずってる?それなら全然平気なのに」
「それはもう言わないで下さい。あたしの中で1位2位を争う黒歴史です」
「いや俺は嬉しかったよ。普段だったら絶対見れない五十嵐さんのこと見れたからね」
「…」
「…あっ、いや!裸のことじゃなくってね!っつか何言ってんだ俺。ごめん今の忘れて」
…やっぱり全部、見たんだ…。
柳瀬さんの言葉に、また、私は顔を赤くする。
柳瀬さんは柳瀬さんで少し気まずそうになって、あたしの方から視線を逸らしてるし。
だけど少し慌てた姿も何だか可愛く感じて、あたしは吹き出しそうになるのを抑えて、言った。
「柳瀬さんは飲むんですか?今日」
「俺?俺は飲むよ」
「へぇ。前回はあんまり飲まなかったですもんね。今日はあたしに気を遣わないでじゃんじゃん飲んじゃってくださいよ」
「ん、じゃあそうしよっかな~」
柳瀬さんはそう言うと、じゃあとりあえず生にしようかな、と言ったから、あたしは店員さんを呼んだ。
あと、前回奢れなかったぶん、今日はあたしが奢ろう。
その後、柳瀬さんが店員さんにドリンクを注文している間、あたしは静かにそう決めていた…。
…でもそうだな。酔っぱらったらその人の素性が現れるって言うし、謎の多い柳瀬さんのこと、もっと知りたいな。
なんとなくそう思ったあたしは、今日はあたしが柳瀬さんにお酒を勧めてみることにした。
柳瀬さんが思うあたしのこと、もっと知りたい。
そしてそれから数分後、店員さんによってドリンクはすぐに運ばれてきた。
「カンパーイ!」と二人でグラスを当てて始まった、二回目の飲み会。
だけど…あたしは知らなかった。
「っあー、ビールうま!」
そう言ってごくごく飲む柳瀬さんのビールが、実はノンアルコールだったということを…。
ATMの前に立つと、あたしは予想以上の金額にビックリして目を丸くした。
「…!?」
数週間前の広喜くんとの一件があってから、広喜くんとは本当に連絡をとらなくなったし、気にすることも少なくなってきていた。
柳瀬さんは「鏡子に金返せ」とか言ってくれてたけど、広喜くんがそんな簡単に返してくれるはずがないって、思ってた。でも…
「…明細の金額より凄い多く入ってる…!?」
思わずATMの前で独りそう呟くと、その時たまたま隣のATMに居たらしい柳瀬さんが、あたしに言った。
「あ、それ、広喜くん?だっけ。彼からの返金のお金も入ってるから」
「え!あっ…」
そうなんだ!ってか柳瀬さんいつのまに。
「直接彼に貰うと、その時にまた何か起っちゃうかもしれないから、危険だなって思って。
すぐには全額返せないらしいから、給料日に少しずつ五十嵐さんの口座に普段の給料と一緒に振り込んでおくから」
「!」
「まぁ今はそれで、許してやって?一応反省はしてるみたいだし」
柳瀬さんはそう言うと、「じゃあね」とその場を後にしようとするから。
あたしも数万くらいお金を引き出すと、その後ろ姿を慌てて追いかけた。
「あのっ…柳瀬さん待って下さい!」
「!」
そう言って、銀行を出て柳瀬さんの服の裾を掴む。
だけどその裾をパッと離して、立ち止まった柳瀬さんにあたしは言った。
「すみません。本当は、あたしが向き合わなきゃいけないことなのに。柳瀬さんに任せてしまって」
そう言って、もう一度頭を下げようとしたら、その前に柳瀬さんがあたしの方を振り返って言った。
「それは違うよ」
「…え、」
「ほら、困ってる部下を助けるのも、上司の仕事じゃん。居酒屋であんな風に聞いたら、助けずにはいられないし」
「あ…」
「…あ、いや、それも違くて。ごめん」
「?」
しかし柳瀬さんはそれも否定すると、ふっとあたしから目を逸らす。
…どうしたんだろ?
そんな柳瀬さんにあたしが首をかしげていると、再び柳瀬さんが口を開いて、言った。
「まぁ俺のことは気にしないでよ。気にしないで、任せちゃって平気だから」
「でも、」
「俺は、素直に喜んで『ありがとう』って笑ってる五十嵐さんが見たいな…?」
「!」
柳瀬さんはそう言うと、うつむくあたしの顔を覗き込む。
あたしはその整った顔にまたドキドキしちゃって、上手く表情を作れない。
でも、柳瀬さんの言う通り、かも。
「すみません」って悲しい顔するより、「ありがとう」って笑う方が。可愛い…かも。
あたしはそう思うと、笑えているかわからない笑顔で、柳瀬さんに言った。
「あ…ありがとう、ございます」
「…」
「本当はすごくスッキリしてます。あたしが何か言っても、広喜くんに殴られちゃいそうだから。
だから本当に、本気で柳瀬さんがいてくれて良かったです」
「…五十嵐さん」
「ちょっとずつお金も返ってきたし……でも」
「…?」
そこまで言って、「また独りぼっちになっちゃいました」と言いかけて、でもその言葉を飲み込む。
そして「あ、でも本当に良かったです」と笑って誤魔化した。
だって、柳瀬さんは「俺がいる」みたいなこと言ってくれるけど、でもあたしは柳瀬さんのことまだよくわかってないし。それに、変に同情されたり、かわいそうな目で見られたりするのも、嫌だし。
だけど、「それでは」と仕事場に戻ろうとしたら、柳瀬さんにそれを止められた。
「五十嵐さん」
「…はい」
「今日…仕事終わったら時間ある?」
******
時刻は18時。
柳瀬さんと待ち合わせの居酒屋に行くと、既にそこには柳瀬さんが到着していた。
「すみません、お待たせしちゃって」
「いや全然。っつか会社じゃないんだしリラックスしていいよ。五十嵐さん何飲む?」
「…あたしは今日はお茶で」
「え、」
柳瀬さんがドリンクメニューを私に渡す前に、あたしはそう言った。
実は、あたしは今日は絶対に飲まないって決めてある。
だってこの前と同じ失態、もう二度と繰り返したくない。だってまた、明日も定休日で休みだし。
…泥酔して知り合ったばっかの男の家に自分から上がり込んで挙句の果てにはベッドで嘔吐して服を全部脱がされたなんて、まじ女として終わってる。ってかもう思い出したくない。
だけどそんなあたしに柳瀬さんが言った。
「飲まないの?今日。何っ…あ、もしかしてこの前のこと引きずってる?それなら全然平気なのに」
「それはもう言わないで下さい。あたしの中で1位2位を争う黒歴史です」
「いや俺は嬉しかったよ。普段だったら絶対見れない五十嵐さんのこと見れたからね」
「…」
「…あっ、いや!裸のことじゃなくってね!っつか何言ってんだ俺。ごめん今の忘れて」
…やっぱり全部、見たんだ…。
柳瀬さんの言葉に、また、私は顔を赤くする。
柳瀬さんは柳瀬さんで少し気まずそうになって、あたしの方から視線を逸らしてるし。
だけど少し慌てた姿も何だか可愛く感じて、あたしは吹き出しそうになるのを抑えて、言った。
「柳瀬さんは飲むんですか?今日」
「俺?俺は飲むよ」
「へぇ。前回はあんまり飲まなかったですもんね。今日はあたしに気を遣わないでじゃんじゃん飲んじゃってくださいよ」
「ん、じゃあそうしよっかな~」
柳瀬さんはそう言うと、じゃあとりあえず生にしようかな、と言ったから、あたしは店員さんを呼んだ。
あと、前回奢れなかったぶん、今日はあたしが奢ろう。
その後、柳瀬さんが店員さんにドリンクを注文している間、あたしは静かにそう決めていた…。
…でもそうだな。酔っぱらったらその人の素性が現れるって言うし、謎の多い柳瀬さんのこと、もっと知りたいな。
なんとなくそう思ったあたしは、今日はあたしが柳瀬さんにお酒を勧めてみることにした。
柳瀬さんが思うあたしのこと、もっと知りたい。
そしてそれから数分後、店員さんによってドリンクはすぐに運ばれてきた。
「カンパーイ!」と二人でグラスを当てて始まった、二回目の飲み会。
だけど…あたしは知らなかった。
「っあー、ビールうま!」
そう言ってごくごく飲む柳瀬さんのビールが、実はノンアルコールだったということを…。
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