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イチャイチャ?いいえ私は必死

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長い夜が明け、朝食が終わり子供達を辺境のメイド達に預けた。子供達は食堂に集められ今日はメイド達とお菓子作りをすると言っていた。

あれからベーン副隊長とカイン小隊長とルイス様は食堂と調理場を隅から隅まで調べたらしい。朝食の時、ルイス様は眠たそうな顔をしていた。

外に出るとリーストファー様とリックは馬を連れている。


「馬で移動ですか?」

「この方が動きやすい。ミシェルは俺な。ニーナはリックでいいか?」


シャルクは今日辺境の街へ行き、ダグラスさんの所にも行ってもらう。住み込みで子供達のお世話をしてくれる女性がいないかダグラスさんに頼むつもり。

『シャルクも留守にするのにニーナだけここに置いては行けない』とリーストファー様が言った。辺境のメイドは武術も長けているとリーストファー様は言った。騎士が近くにいなくても相手は子供、子供には負けないと。でもニーナは武術に長けていない。多少嗜む程度。それなら自分達の側に居た方が安全だと。

確かにリーストファー様とリックが居るならこちらの方が安全だと思う。だからニーナを連れて行くのは反対しない。

でも、馬?

馬車ではなくて?


「さあ行こうか」


リーストファー様は馬に跨り、リックは私を支えようと隣に立っている。

私はリックを見た。


「姫さん一言いいか?ぼうっと突っ立ってても馬には乗れない」

「そんな事分かってるわよ」

「抱っこしてやろうか?」

「結構よ」


それでも足は動かない。馬に乗るのが苦手なのはリックも知っている。何だったら今まで避けてきた。

不安定な馬上で何を持てと言うの?手綱なんて紐じゃない。どうしても想像してしまうの。もし馬が暴れて落とされそうになった時、あの紐だけで私は落とされずにすむの?って。あの紐だけを頼りにするのは怖い。何かもっと安心できるものはないのかって。

だから私は馬車がいい。


「ミシェル」


リーストファー様は私に手を差し出している。

でも今はその手を取りたくない。

リーストファー様を見つめ、馬を見つめ、リックを見つめる。さっきから私が繰り返ししている事。


「きゃあ」


突然私の体が宙に浮いた。リックが私の両足を抱き持ち上げたから。あっと言う間に私はリーストファー様の前に座っている。

リックを睨むも素知らぬ顔でニーナを乗せて自分も馬に跨った。


「ミシェル怖いなら俺にもたれてろ」


ワンピースを着ている私は跨る事ができず横向きに座っている。私はリーストファー様を死んでも離さないとしがみついた。


「ミシェル、ちょ、ちょっと苦しい」


リーストファー様の声を無視して私はぎゅっとしがみついた。


「仕方がない、このまま行くか」


馬が動き出し私の力も入る。リックは涼しい顔で隣を歩く。ニーナも慣れた顔。ニーナとシャルクは休みの時二人で出掛けていた。今は夫婦だけど恋人だったんだから二人で出掛けるのは当たり前。その時二人で馬に乗り出掛けていた。リックが知らない男性ならニーナも安心して乗ってはいない。

馬の軽快な足音のように私の鼓動も強く打っている。時折リーストファー様は『ミシェル大丈夫か』と声をかけてくれる。大丈夫かと聞かれ私は心の中で『大丈夫じゃないです。今すぐ止まって下さい』そう何度も答えた。それでも止まることはなかった。だからその度にぎゅっとしがみついた。

リーストファー様は時々私を安心させようと私の背中を撫でる。『私の背中なんて撫でなくていいから両手できちんと手綱を持って!』と私の心の叫びはリーストファー様には伝わらない。

早く着いてと願うばかり。

私の鼓動とは裏腹に馬はゆっくりと歩いている。


「着いたぞ」


そう言われても私の体はまだ動いているよう。


「こんな涙目で、そんなに怖いのか?」


リーストファー様はしがみついている私の両頬を両手で包み顔を上にあげた。

リーストファー様は私を抱きしめ、私はリーストファー様の胸の中。


「ミシェルには可哀想だがこれからも移動は馬だ。でもこんなに可愛いミシェルが見られるならこれはやめられないな」


『ククッ』と笑っているリーストファー様に軽く殺意が湧いたのは仕方がない。こっちは必死なのに。

それよりも早く下ろしてほしい。

早くあの大地を踏みしめたい。目線の先には地面が見えている。

早く、早く下ろして。

リーストファー様が馬から下りようとしているのは分かっている。

でも動かないで!

私は必死にリーストファー様に抱きついた。


「ミシェル、離してくれないと下りられないだろ」


私は勢いよく顔を横に振った。


「ならミシェルから先に下りるか?」


馬上からどうやって下りろと?もしかしてここから飛べと言うの?すぐそこに地面はあるわ。『では先に下りますね』と飛んで下りられる距離じゃない。

えぇえぇ確かにリーストファー様とリックなら下りられますとも。二人なら余裕ですとも。


「何ならこのままここにいるか?」


それがいいかも。

私がそう思っている横でリーストファー様は笑うのをこらえている。『クッ』と聞こえたからこらえてはいないわ。

リーストファー様はなんだかんだと器用にこなすけど、人には苦手な事はあるんですよ?知ってます?

私がリーストファー様を睨むのも仕方がないわよね。例え『睨む顔も可愛いな』と言われても私は必死なの。



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