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一目惚れ
しおりを挟むレティアナ様は『新しい物をお持ちします』と部屋を出ていった。
部屋に残された私とリーストファー様。
「他に何か聞きたい事はあるか?」
「では、本当に娼館へは一度も?」
「行った事なんて一度もない」
「ですが騎士はその、気が昂ると聞いた事があります」
「確かに娼館で発散する者達は辺境にも王宮軍にもいる。独身者には鎮める相手が必要だからな」
『貴方も独身者だったのでは?』と私はリーストファー様を見つめた。私の視線に気づいたリーストファー様。
「鎮め方は人それぞれだ。酒を飲んで鎮める者もいる。俺は剣を振り続ければ鎮まる。酒場に行く機会もそんなになかったからな。酒は陛下が度々振る舞ってくれたし、国境沿いに行く事も多かった。知らない土地の酒場は俺はちょっとな」
「でも手慣れていました」
「それは!…知識は一応な。本の知識とあれだ、男が集まればだ。本当だぞ?初めてミシェルに触れた時、こんなに女性は柔らかいのかと驚いた。だからたまに暴走するだろ?」
「確かに」
「他はないか?」
「では、エレンさんとは誰ですか?」
「ケニー小隊長の奥さんだ。前に話しただろ?子供の頃、寝込んだ時面倒をみてもらったと」
「はい、皆が母親のように慕っていた方ですね」
「小隊長の奥さんだけじゃない、騎士の妻は夫の帰りを家で待つ為に働きには出ない。いつ帰ってきても迎えれるようにな。急に夫が亡くなり働けと言われても、レティーみたいに若ければ働く場所はある。だが働く場所も限られる。だから俺は少しばかりだが金を送っていた。
俺はミシェルと夫婦になり、きちんと伝えるべきだった。レティーの事もそうだ。
すまないミシェル」
「今教えて頂きました。それで充分です。
レティアナ様に弔慰金は渡らなかったでしょうし、リーストファー様が生活費を送らなければレティアナ様もリースティン君も今どうなっていたか…。確かに自業自得なのかもしれませんが、あの日の出来事が無ければ家族3人で幸せに暮らせていたんです。綺麗な奥さんと結婚し可愛い子供が授かり幸せを掴めました。
貴方は全て一人で背負ってきたんですね。家族を、残された家族まで…」
王宮軍に勤める平民の騎士の妻は働きに出る人もいる。王都だから働く場所もある。
辺境には辺境の習わしがある。
私は知らなかった。きっと知らない人の方が多い。彼女達がもし一度も働いた事がなく結婚したのなら苦労が目に浮かぶ。
子供が独り立ちしているのなら弔慰金で暮らしていける。育ち盛りの子供がいたら働きに出ないといけなくなる。子供がまだ幼ければ誰かに預けて働きに出ないといけない。預ける人がいなかったら?
本当に償いが必要な人達は彼女達ではないの?
どうして私はそれに気が付かなかったのかしら。
「ミシェルどうした?」
「私はまだまだ足りない所だらけです」
私は自嘲気味に微笑んだ。
リーストファー様は彼女達の生活を支えてきた。遠く離れた王都から出来る事はお金を送るだけ、でもそれで助かった人は多い。
『俺は援助をしている』普通の男性なら自慢気に話すわ。でも貴方はそれが当たり前だと。本当に貴方は隠れてするのね。
「私の旦那様は本当に格好良いです。毎日惚れさせて私をどうしたいんです?」
「俺も毎日ミシェルに惚れてる。俺の奥さんは綺麗だ」
リーストファー様は私を見つめ、私の頬を優しく撫でた。
「それに、頬を染める所も可愛い」
リーストファー様の熱のこもった視線。
「芯が強い所も魅力的だ」
リーストファー様は私の手の甲に口付けをした。
「頑固な所も俺は好きだ」
私の額に口付けした。
「次は何をするのか、何を言い出すのか、それも俺は案外楽しんでる」
頬に口付けた。
「心配はするけどな」
リーストファー様は優しく微笑んだ。
「俺は幸せ者だ」
リーストファー様は私を抱きしめた。
「あの日の衝動が本能か導かれたものかは分からない。それでも、ひと目見た時『この女が欲しい』そう思った。褒美は何がいいか聞かれた時、思わず口に出ていた。後からこれは復讐の為だ、あいつの大事なものを奪っただけだ、そう何度も自分に言い聞かせた。あたかもそれが本心だったと、復讐を果たしただけだとな。そう思わなければ俺は正気が保てなかった。
あれが一目惚れだと今なら分かる。
だがあの頃はそれを認めたくないと、それを認めれば皆を裏切るように思えた。だから必死で虚勢を張った。ミシェルを睨み、素っ気ない態度を取り怒鳴り散らした。望んで婚姻する訳ではない、復讐の為に婚姻するんだとな」
「それでも、私達は愛し合いました」
「ああ、俺はミシェルを愛した」
私とリーストファー様は見つめ合った。
「テオンに報告しないとな。俺も綺麗な奥さんと結婚したぞって、子供はまだだが可愛い子供がいつか産まれる。俺は今幸せだと、ミシェルを見せびらかしたい。俺の奥さん綺麗だろって羨ましいだろってな。俺の手で幸せを掴んだと言えないかもしれないが、始まりは無理矢理俺の妻にしたしな、それでも幸せを掴んだと言いたい」
「始まりは何であれ、リーストファー様が私を妻にと所望したんですから、リーストファー様自身の手で幸せを掴んだんだと思いますよ?」
「そうだな」
リーストファー様は私をギュッと抱きしめた。
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