上 下
157 / 196
本編

130

しおりを挟む
カボチャを幾つか買って、また辺りを見渡す。
本当に色んな野菜があった。
中にはドライフルーツフルーツを扱ってるお店まである。

「やばい、ここは天国か?
一日中でも居れそう……。」

心の声がついつい漏れていたらしく

「いや、一日中は流石に居れないからな?
定期的に連れてきてやるから我慢しろよ?」
なんて、ラインハルトに言われてしまった……。

でも、せっかく来れたんだから日持ちするドライフルーツは多めに買って行こう…。

「わぁ!凄い、杏や桃、レーズンまである!」
ドライフルーツのお店には沢山の種類が置いてあった。

「なんだ、これ?」
ラインハルトとカイルくんが興味深そうに品物を見ていた。

「果物を天日干しにして日持ちを良くさせた物だよ!」

「あぁ、そうか!果物ってあんまり日持ちしないもんな?
でもどうやって使うんだ?」

乾いてカチカチになったドライフルーツをつまみ上げてラインハルトが首を捻る。

「そのまま食べるんですよ!
お兄さん、よかったらそれ食べてみてください!」
こちらに気づいた店員のお姉さんが勧めてくれた。

お姉さんは、イケメンのラインハルトにうっとりしている様だ。

「お、いいのか?じゃあ、有難く貰うよ。」
ラインハルトは、お姉さんに言われるままにドライフルーツを口に入れる。

お姉さんは、俺たちにも「好きなのを味見してください!」と勧めてくれた。

ラインハルトが食べていたのはレーズンかな?
じゃあ、俺は、桃を食べてみよう。

カイルくんは、りんご、リオルくんは、オレンジを選んでいた。

口に含むと、中でふやけてじんわりと桃の甘みと香りが広がっていく。

「うん、美味しい…。」
乾燥させたからならではの凝縮された甘みが広がる。 

ラインハルト達も美味しそう頬を緩めていた。

俺の言葉に店員のお姉さんは、嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!
実は、遠い国で食べた味が忘れられなくて試行錯誤して作って見たんですけどあんまり評判良くなくて……。」

「え?こんなに美味しいのに?」

俺の言葉にお姉さんが頷く。

「この国だと、普通に生の果物が手に入るのでわざわざ乾燥させたのを買う意味が無いって見向きもされないんです……。」

そう言うとお姉さんは少し俯いてしまった。

あぁ、確かに周りには果物が沢山売られているし……。

「勿体ないなぁ…。乾燥には乾燥にしか出来ない使い道が沢山あるのに…。」

俺の呟きに、皆から視線が集まる。

「あ、あの、お客さん、乾燥した果物にしか出来ない使い道ってなんですか?」

お姉さんが聞いてくる。

リオルくんも新しい食材の使い道に興味津々だ。

「え?例えばそのまま果物も運ぶよりも軽いし日持ちするから非常食にもってこいだし、紅茶に入れたらフルーツティーにも出来る…。」

「あぁ、確かに、お茶に入れたら美味しそうだな!
ヴェインに買っていくか!」
ラインハルトがその考えが無かったと
早速ヴェインさんが好きそうな果物を選び始めた。

「お茶に……確かに考えたことも無かったです…。
早速帰ったら試してみますね!」
お姉さんも嬉しそうに笑ってくれた。

「ほかには無いんですか?」

リオルくんが聞いてくる。

「あるよ?むしろこっちの方がよく使うんだけど、お酒に漬けてお菓子に入れたり、パンに入れたり…。
あとは、料理にも使うかな。」

「料理にですか?」
お姉さんが目を丸くしている。

「よかったら簡単なレシピ教えようか?」
お姉さんに言うと彼女は嬉しそうに頷き、頭を下げた。

「是非お願いします!」

何にしようかな?
簡単な物だとラムレーズンが手頃かな?

この前、厨房でラム酒を見つけたし…。

「ラム酒を火にかけてアルコールを飛ばしてから、蜂蜜を加えて乾燥葡萄を2~3日漬けたら、刻んでバターと混ぜたら完成かな?」

お姉さんは、真剣にメモを取っていた。

「え?それだけですか?」

「うん、それをパンに塗ったら葡萄酒によく合うおつまみになるんだ。
他にも、砂糖を加えてクッキーで挟んだら美味しいお菓子になるよ?」

「ありがとうございます!
早速家に帰って試してみます!
あ、私、リリアンっていいます。
もし宜しければ、またレシピ教えてくれて貰えませんか?」

「もちろん!
俺、トオルはです。
騎士団の厨房で働いてるから何かあったら聞きに来て貰えれば!」

一応、ラインハルトに確認を取って自己紹介をした。

「本当にありがとうございます!
よかったらうちの商品持っていって貰えませんか?
お代は今教えて頂いたレシピで大丈夫ですから!」

リリアンさんは、譲らないと言った感じていろいろな種類のドライフルーツを詰めてくれた。

「いや、流石にそれは悪いよ!」

「いえ、そんなこと言わずに。
なら、代わりにこの商品で新しいレシピを思いついたらまた教えてください!
私、この近くに住んでるんです!」

そう言って彼女は、自分の家を教えてくれて、ドライフルーツの入った包みを押し付けてきた。

困った顔をしながらラインハルトを見る。

「まぁ、貰っておけよ?
代わりに厨房に呼んでレシピを教えてあげればいいんじゃないか?
それにそのうち、騎士団から正式に大量の注文があると思うぞ?」

彼は、笑いながらそんなことを言う。

「え?なんで?」

「さっき自分で言ってたじゃないか?
軽くて日持ちするから運ぶのにいいって?
遠征に行く時にピッタリだ。
それに、お前だっていろいろ使いたいんだろ?
なら、仲良くしといた方が得じゃないか?」


あ、確かに、非常食にピッタリだ。
栄養もあるから遠征に行く時に重宝するだろうし、お茶が好きなヴェインさんなら間違いなく気に入る気がする。


「じゃあ、リリアンさん、遠慮なく貰うよ!
レシピが出来たら連絡するから騎士団の厨房で一緒に作ろう!」

リリアンさんは俺の言葉を聞いて、嬉しそうに頷く。

「はい!トオルさんよろしくお願いします!
じゃあ、私は、今日は店終いして早速試作してみます!」

そう言うと、リリアンさんは売り物を片付け始めた。

「あ、ちょっと待ってくれ。
こっちとこっちの奴くれ!」
ラインハルトが慌ててリリアンさんを止めて林檎と桃のドライフルーツを詰めてもらう。

「ありがとうございます!」

「こっちは、俺個人で使うからちゃんと代金は払わせてもらうぞ。」

そう言うと金貨を1枚渡す。

「こんなに頂けませんよ!」
リリアンさんが驚いた顔しながら返そうとするが、ラインハルトが避けてしまう。

「すまない、今、手持ちがこれしか無いんだ。取っておいてくれ!
よし、トオル行くぞ!」

そう言ってラインハルトは俺を引っ張りながらお店を後にした。

金貨1枚ってたしか、10万くらいだっけ?
普通は、平民が住む所だとお釣りが出せないからってヴェインさんが細かくしてくれた気がする…。

これがよく漫画やドラマで見た、「釣りは要らないぜ!」ってやつか?

さりげなくやる辺りがラインハルトがタラシたるゆえんなんだろうか?

俺、あんなに自然に出来る気がしないよ……。





その後は、また露店を見て周り気になった食材をいろいろ買っていく。

冬なのに、とうもろこしや、ルバーブなんて向こうの世界では夏に採れる野菜まで見つけた。

この世界特有の知らない野菜もあってリオルくんに聞きながら買ってみた。

更に、魚を取り扱ってるお店まで見つけた!

この国には海がないから川魚が主だけど、中には海のある国から魔法で氷漬けにして運んで来たらしい物もある。

「あ!海老だ!イカもある!美味しそう!」

海老は車海老に似ているが、向こうの世界のものよりも厳つく怖い見た目だった。
イカは、俺くらいの大きさがある。

「これですか?あぁ、ガンベロとカトルの事ですね?ガンベロは食べる様じゃないんですよ!
カトルは食べれますけど。

ガンベロの殻は硬いので武具屋が買って行って防具に使うんです。」

店員のおじさんが苦笑いしながら教えてくれた。

「え?防具?」

「はい!ある程度技術がないと殻を外せないので仕方なく殻ごと氷漬けにしてるんです…。」

海老の殻が防具になる?
確かに、海老の殻で手を怪我したことはあるけど……。

店員さんが試しにと、海老の殻で出来たという盾を見してくれた。

「硬っ!?」

触って見るとまるで金属のように硬い。

「殻が金属を含んでいるので、溶かして他の金属と合わせるとこんなに硬くなるんです。」

やっと海老を見つけられたのに食用じゃないなんて…。

殻でアメリケーヌソースとか取ったら美味しいだろうに……。

いや、殻がダメなだけで身は食べれるかもしれない?

いや、まてよ?
向こうの世界の海老の殻にもカルシウムとかマグネシウムが含まれているじゃないか!
あれだって化学的には金属じゃない?
なら行けないこともないんじゃ?


「おじさん、海老とイカください!
あ、ガンベロ?とカトル?か…。」

「いいですけど、カトルだけじゃなくてガンベロも買うんですか?」

おじさんは、心配そうに見てくる。


「はい!両方ください!ついでにこっちの魚も!」

おじさんは、俺が諦めないと分かると渋々海老改めてガンベロを売ってくれた。

ついでに、鮭に似た魚と、鮎に似た魚も買う。

「わかりました。どうしますか?
今、持っていきます?場所を教えてくれれば後で届けますよ?」

「じゃあ、騎士団の厨房までお願いします!」

流石にマジックバックに氷の塊を入れるのは……。
ラインハルトが作った時間停止マジックバックならいいかもしれないけど…。

有難くおじさんの申し出を受けさせて貰おう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

リーマンと高校生

BL / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:272

愚かこそが罪《完結》

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:79

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:340pt お気に入り:309

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:32,219pt お気に入り:8,860

あい らぶ? こめ。

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:530

運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

BL / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:1,426

旦那様! 愛し合いましょう!

I.Y
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,771pt お気に入り:523

黄金の鳥が羽ばたくとき

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:316

処理中です...