料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

閑話9 騎士団長の旅路

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「日が落ちてきたな……。
今日はここまでか……。」

森の中の比較的安全そうな場所に馬をとめ、野営を張った。

俺の体力は問題ないが、馬はそういう訳にも行かない。

彼の身体を労るように撫でながらこれまでのことを振り返る。

トオル達に見送られてサザンカンフォードに旅立ってから早3日が経った。

コアが国境付近まで送ってくれたお陰で予定よりも早く隣国を抜けることが出来そうだ。

馬には、かなりの無理をさせてしまっているが、ヴェインが用意してくれた魔法薬のお陰で常に全力で頑張ってくれている。

正直、サザンカンフォードのとブラン・イェーガーの間に位置するこの国は、酷い有様だった。

そこまで強くはないが魔物の数が多い。

ラインハルトがくれた情報の通り、周辺の住民は、砦に避難したそうで人的被害はあまりなかった。
しかし、田畑は荒れており、街は半壊状態の所を幾つか通った。

トオルが大量に食料を持たせてくれたお陰で、飢える事も無く無事に旅を進めることが出来ていた。

「はぁ……トオルに逢いたい……。」

俺の言葉を理解しているのか、馬がまるで「俺では不満か!」と非難するように嘶く。

「すまん、すまん。」
ご機嫌を取るように苦笑いしながら、彼の好物の果実を口元に差し出してやる。

果実を食べると機嫌が治ったのか、座り込み毛繕いを始めた。

「俺も飯にするか。」

ラインハルトが貸してくれたマジックバックから食料を出した。

本当に不思議なそのマジックバックからは、まるで出来たてそのままの状態でトオルの料理がでてくるのだ。

「本当にこりゃ、どういう原理だ?」

マジックバックに刻まれた魔法陣を見ながら1人呟く。

容量がほぼ無限な事に関しては、まぁ、珍しい物ではあるがないことはない。

しかし、出来たてそのままとは……。

考えられる答えは1つ。

「ラインハルトが隠してる固有魔法か?」

あいつが何か能力を隠してるのは、本能的に感じていた。

正直、あいつと本気でやり合ったらお互い無事では済まないだろう。

「……時を操る魔法か?」

時を操れるなんて神にも等しい力だ。
もし仮に当たっているならラインハルトが隠してるのも頷けた。

教会に悟られでもしたらあいつ自身の身が危ない。

いや、あいつは平気でも、あいつの周りの人間に危険が及ぶだろう……。


そんな秘密の力を使ってまで手助けしてくれた悪友には感謝しか無かった。

「帰ったら礼でもするか……。」

それに、帰ったら真っ先にトオルを抱きしめよう。

約束はもぎ取ったからトオルとしばらくの休暇を満喫しよう……。

ハンバーガーと言っていた包みを広げかぶりつく。
ふわふわのパンケーキに肉と野菜が挟まれていて片手でも食べやすい。

噛みちぎると中から肉汁が溢れだしてくる。

「うまい……。」
ついつい、頬が緩んでしまう。

お湯を出し、粉を入れたカップに注ぐといい香りのスープが出来た。

「本当に、野営とは思えないほどの贅沢な食事だな…。」

冷えた身体でスープを飲むと身体の芯からポカポカしてきた。

トオルの作った料理を食べると、不思議と元気が湧いてくる。
疲れなんて全く感じない。
それに、常に彼が笑いかけてくれているようで逢えない寂しさが少し和らいだ。

彼の魔力を少しだけ感じることが出来て心が安らぐ。

「トオルは、今、何をしてるだろうか……。」

昨日を境にラインハルトとも連絡が取れなくなった。

向こうの様子もわからず、こちらの様子を知らせることが出来ない。

「ヒューガの紙切れでも借りれればよかったが……。」

遠征に出ているヴェインの副官を思い浮かべる。

元々、東の島国の出身の傭兵だった彼は、不思議な魔法を使う。

俺は、魔法は詳しくないからわからないが、ヴェイン曰く「この国の魔法形態とは全く違うもの。」らしい。

式神とヒューガは言っていたが、紙切れに魔力を込めて放つことで動物を召喚して操ることが出来る。

厳密には違うらしいがよく分からん。

その動物に意識を同調させることも出来るらしく声の魔法が届かない範囲でも情報を伝えることが出来るのだ。


もちろん、式神だけではなく、全属性の魔法を放つことが出来るなど、彼は能力的に見たらかなりの強さだ。

まぁ、だからこそ、ヴェインと一緒に騎士団に引き抜いた訳ではあるが……。


夕食を終えて、夜明けまで休憩をとる。

「トオルの夢でも見られるといいが……。」








次の日、夜明け前には起きて、出立の準備をした。


今日中にはサザンカンフォードに入るはずだ。
進むに連れて魔物の強さが増していることを考えると、少し厄介かもしれない。

気を引き締めて進むとしよう……。




数時間ほど馬を走らせていると、ついにサザンカンフォードへの国境が見えた。

予想とは裏腹にそこまで強い魔物の気配は感じていなかった。

「まさか、トオルの料理、魔物避けの効果もあるのか?」
誰に言うでもなく1人呟く。

まさか、さすがに、そんなことある訳ないか……。


国境を越えると一気に気温が下がり、雪も降ってきた。

魔法を使い、馬と自分の周囲の温度を上げながら進む。

村を見つけたが、予想通り荒れ果てていた。

幾つもの死体が転がっており、見るに堪えない有り様だ。

「くっ……。」
何故か頭がズキンと痛む。

「お、俺は、この光景を何処かで見たことがある?」

あれはまだ子供の頃のことだろうか?

考えようとすると、何かがそれを止めさようとしてるのか如く、頭痛が酷くなった。

「とりあえず、王都を目指すか……。」


何処かで生きている人にでも逢えれば、何か情報が得られるかもしれん…。


村から出ようとするが、この村をこのままにするのはあまりにも不憫に感じた。

このままでは、この村はアンデッドになるだろう。

全身に炎の魔力を練り上げ詠唱する。

〖安寧と浄化の聖なる炎よ。
この地に眠りし哀れなる魂に浄化を。
束縛の鎖から解き放たち、永遠の眠りを。イグニス・レクイエム〗


詠唱を終えると村全てをアレンの深紅の炎が包み込む。

炎が全てを焼き払ったころ、アレンしか居ないその場で確かに幾つもの「ありがとう……。」と言う言葉が響いた。


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