上 下
85 / 196
本編

62

しおりを挟む


「トオル、本当に自分の意思であの傷を治したんだな?」
ヴェインさんに聞かれる。

「う、うん。痛々しくて見てられなくて…。
ヴェイン、約束破ってごめん。」
約束を破って魔法を使った事を謝る。

「いや、いいんだ。
魔力の測定なんていつでも出来る。
それよりも、アレンの傷を治してくれて本当にありがとう。
あの傷がどんなものだったかわかるか?」

「え?引っ掻いたような、切ったような傷かな?」
思い出しながら答える。
たしかあの時は必死だったが後から考えるとなんであの傷だけを治したんだろうか?
他にもアレンの身体には傷が沢山あるのに……。
確かに1番大きく目立つ傷だった。

あの傷を見て痛々しくて、なんか、嫌な感じがしてアレンの身体から無くなって欲しかった。

あれ?でも、俺、コア様のところに行く前にアレンの身体を見たときにはそんなこと思わなかったような……。


「あの傷はな、ドラゴンが死に際にアレンに付けた傷だ。
怨念というか、負の力でつけられ傷だったんだ。
だから、長い時間をかけないと癒えないし、癒えても完全に無くなることは無いと思ってた。」

怨念……?呪いってことかな?

「え?でも、昨日、すごい速さで治っていったよ?」

「あぁ、だから正直信じられない。
出来るとしたらそれこそ御伽噺の白魔法のよりもさらに強いだけだ。」

白魔法……。
じゃあ、やっぱり俺は白魔法を使えるのか…。

ん?浄化?
「え?俺、浄化の魔法つかえるの!?」

「ん?浄化か?普通に使えるだろうがなんで嬉しそうなんだ?
というか、なんで浄化なんて知ってるんだ?」
ヴェインさんが困惑しながら聞いてくる。


「浄化って綺麗にする魔法なんでしょ?
昨日アレンが身体を綺麗にするのに使ってくれてさ、便利だから覚えたかったんだよ。
だって皿洗いとか楽に出来るじゃん!」

そういうとラインハルトが爆笑する。
アレンは何故か気まずそうに目を逸らす。

ヴェインさんは、アレンを睨んでいた。

え!?なに?この空気?

「クスクス………トオル、どこから突っ込んでいいかわからないけど、とりあえず、浄化の魔法は、本来そうやって使うもんじゃない。」
笑いながら、ラインハルトが教えてくれた。

「え?だって綺麗にする魔法なんでしょ?」

「まぁ、そうだな。
本来は、邪を払う神聖な魔法だ。
副産物で汚れを綺麗にするけどな。
普通の人間は、使ったら魔力がすっからかんになるし、汚れを落とすなら水魔法の初歩の初歩、洗浄でいい。」

邪を払う?
お祓いみたいなこと?

「え?じゃあ、なんでアレンは………?」


「トオル、アレンは水魔法が苦手で初歩の初歩すら使えないんだよ。」

あ、炎の魔力が強すぎるんだっけ?

「で、もう1つ突っ込んでいいか?」
ラインハルトがニヤニヤしながら聞いてくる。
あれ?なんか凄く嫌な予感がする。

「え?なに?」

「普通に風呂に入るかシャワーを浴びればいいのに、何故か魔法で身体の汚れを落とさなきゃいけないことをしたんだなぁと。」

「!?」

俺、今2人の前で凄いこと暴露したのか…!!

全身が熱くなっていくのがわかった。
俺は無言で立ち上がり窓に向かおうとする。

アレンに抱きしめられて阻止されてしまう。


「トオル、何処に行くんだ?」

「ア、アレン離して。
俺は今から飛び降りて死ぬ……。
じゃないとこの羞恥に耐えられない……。」
目元に涙を溜めながらもがく。


「せっかく恋人になったのに俺を1人にするのか?
それは困るから片時も離れないことにしよう。」


アレンは笑いながら俺を抱き上げてソファーに座る。
もちろん俺は膝の上だ。


2人に顔を見られたくなくてアレンに向かい合うようにして座り胸に顔を埋める。


もういっそ殺してくれ………。



「おい、アレン。
浄化なんて馬鹿みたいに魔力を使う魔法を簡単に使うな!
トオルが真似するだろ?」
ヴェインさんがアレンを叱っていた。

「トオル、魔法なら俺が教えるよ。
アレンもヴェインも魔力が高すぎるからゴリ押しなとこがあるんだ。
俺はちょっと高いくらいだから効率よく使うことを重点に置いてる。」
ラインハルトが申し出てくれた。

「本当に!?俺、ラインハルトに魔法教えてもらいたい!」


「おい、ラインハルト!
アレンはともかく俺まで同じ扱いは酷くないか?」
ヴェインさんがラインハルトに言われた言葉に抗議する。

「演習とかのときはちゃんと精密な魔力操作してんのに誰もいない自主練は無詠唱の魔力ゴリ押ししてんの知ってんだからな?
どうせ、魔力を切らしたらもっと魔力増えるとかだろうけど。
それこそ、トオルが真似したらどうすんだよ?」

ヴェインさんが何も言い返せずに黙り込む。

お?珍しくヴェインさんが負けた。
「ってな訳で俺がトオルに魔法教えるわ。
いやー2人が居ないとき暇で辛かったから助かる。」

「ラインハルト、よろしくね!」



「あ、そう言えば、トオル。
お前の部屋の件だが……。」
ヴェインさんが突然いいだした。

「部屋?あ、変わるかもって言ってたよね?」

「あぁ、それがな…。」
ヴェインさんの言葉を遮ってアレンが言い出す。
「トオル、俺の部屋にこい!
一緒に寝ればいいだろ?」

アレンと一緒の部屋?
毎日アレンと寝食を共にするのは普通に嬉しい……。
けど流石に同じ部屋は俺の心臓が持たないよ…。


「だから、ダメに決まってんだろ?
結婚してからならいいがまだダメだ!」
ヴェインさんにそんなことを言われる。

け、結婚……。
アレンと結婚出来たら幸せだろうな…。
でも、流石にまだ早すぎるよ……。


「俺も一応部屋は欲しいかな…。
出来ればアレンの部屋の近くに…。」
俺がそう言うとアレンは少しだけ不満そうに納得してくれた。

まぁ、アレンの部屋に泊まりに行くんだろうけど……。

そんな訳でアレンの部屋に近い部屋をもらった。
広くて、小さめだけどお風呂もトイレも付い
ている。

「風呂付きの部屋なんていいの?
大浴場いくよ?」って皆に言ったら
「「「ダメに決まってるだろ!」」」って声を揃えて怒られた。


………解せぬ。

ちなみに右隣はラインハルトの部屋らしい。
そう、遂にラインハルトが騎士団の宿舎に住むことが決まった!
これでヴェインさんとの仲が進展するといいね……。

左隣はヴェインさんの部屋だって。

それを聞いたアレンは、凄く凄く不満そうだった……。


♦♦♦♦♦

いつも応援ありがとうございます。

お気に入り4300突破しました!

今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m

本日は、16時、0時の更新となります。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

行き場を失った恋の終わらせ方

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:641

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:89

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1

「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

BL / 連載中 24h.ポイント:4,681pt お気に入り:706

転生皇子の新生活

BL / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:659

復讐溺愛 ~御曹司の罠~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:520

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,031pt お気に入り:5,995

月夜の小鳥は哀切な嘘をつく

BL / 連載中 24h.ポイント:1,570pt お気に入り:48

召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,403

処理中です...