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第6章

第94話 そして私たちは再び出会う

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『ソフィ』

 そう呼ばれた気がして、私は夜中に目を覚ました。
 耳元で囁かれた声は情熱的で、愛おしさがこもっており、思わずドキドキしてしまうほどに色っぽい声でもあった。

(つ、ついにフェイ様の幻聴を聞くなんて……)
「なぁー」
「ん?」

 か細い声に、私は小首を傾げた。
 この空間内に動物は存在しない。声がした方に視線を向けると──ベッドに蹲る猫の姿があった。黒い猫は力なく蹲っているではないか。

「まあ、あなたどこから入ってきたの? 寒いの?」

 抱き上げて触れてみるが、怪我はないようだ。ドライアードアーちゃんがいれば治癒も出来るのだが、この世界に呼ぶことは難しい。
 両腕で抱っこできるぐらいの大人の猫だ。黒い毛がもふもふして触り心地は最高にいい。頭を撫でると、心地よさそうに身じろぎしている。気のせいか少し元気になった気がした。

(可愛い。……ふぁあ。安心したらまた眠くなってきたわ)

 ベッドに横になると、眠る猫を見つめながら瞼を閉じた。
 近くに自分以外の温もりを感じたからか体の緊張が緩み──夢に思いを馳せる。

「フェイ様……」
「なぁー」

 黒猫が返事をしたかのように見えて、私は小さく笑みがこぼれた。
 この数日、心から笑ったことなんて殆どなかったのに。

「ねえ、黒猫さん。あなた、どこから来たの? 私もここから出られるかしら」

 黒猫は薄っすらと目を開く。
 アメジスト色の綺麗な瞳を見て、また笑みがこぼれた。

「なぁ」
「あなた、私の好きな人と同じ瞳をしているのね」
「なぅあー」

 黒猫は私の腕の中に納まると、尻尾を腕に巻きつけた。私が抱きしめているのに、なんだか抱きしめられているような錯覚してしまう。

「ふふっ、人見知りしない猫さんなのね。なんだか励まされているみたい」
「なあ」

 そうだよ、というように黒猫は答えた。この子は私の言葉がわかるのかもしれない。嬉しくて、小さな温もりが心地よくて、瞼を閉じる。
 寂しさが砂糖菓子のように溶けていく。ずっと繰り返していた平凡な日常を変える存在に、私は少しだけ胸が躍った。明日が楽しいと思い眠りにつく。
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