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第6章
第93話 第十王子シン・フェイの視点16
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「セイエンが!?」
「第七王子が……ソフィを」
「はい。少なくとも、あの男なら自分すら手駒にして計画を立てるでしょう。怪しまれず、容疑者から除外されるのも含めて」
同じ女に恋焦がれているからこそ、あの男が本気だとわかった。
婚約者が隣にいるにもかかわらず、星焔はソフィに婚約破棄と代案を提案したのだ。あれはソフィの気持ちを確かめるものではなく、私への宣戦布告。
ソフィが私を想っていれば想っているほど、私からの婚約破棄は彼女の心を砕くと考えたのだろう。
「しかし、そうなると『原初の魔女』と、ソウエンとの目的が一致しない気がするのですが……」
「星焔と『原初の魔女』が繋がっていても、目的そのものを互いに開示せず、利用しているだけの可能性もある」
「そうだね。とりあえず今はソフィの救出が先かな~」
妖精王オーレ・ルゲイエは、私に視線を向けた。
「ソフィの元に行けるのはこの場にたった一人だけ、彼女と深い繋がりのある君だけだだ」
「……私が?」
家族よりも私が選ばれたことに驚いたものの、国王や王妃の顔を見るとどこか納得したような顔をしていた。ジェラルドは少し複雑そうというか、思い切り睨んでいたが。
『フェイ様』
幻聴だったのかもしれない。けれど腕輪に熱を帯びた感覚があった。
ソフィとの思い出。
彼女の想いがこもった贈物。残っている彼女との繋がり。
(ソフィ……!)
「ソフィとの強い繋がりのある腕輪を媒体にして、道を開くのさ~。ただ人一人分の道を作るは難しいので一時的に獣の姿になってもらう必要があるかな。また辿り着けたとしても──人の姿に戻るのは難しい」
「獣の姿を解くには?」
「ダイヤ王国の私の元に戻れば、解除できるよ~。つまり獣の姿で君はソフィと接触し、彼女自身が『外に出たい』と思わせなければならない」
魔法、魔導具の条件として空間魔法の場合は『許可』と『同意』が必須となる。たとえ裏口からの介入でも、すでに中にいる人物は『出たい』と思わなければ、無理やり出すことは出来ない。
「それならソフィは、自分から入ったということになるのか?」
「それもまた清星焔暗殺の件で上手く仕向けたのだろう。あの日、ソフィの部屋に襲撃者がいたのは、事実だ。それらから守るため、星焔はソフィに『安全な場所だ』と言って空間魔法に避難するよう誘導した」
「ああ」
「なるほど」
あの男ならそれぐらいのことは、やってのけるだろう。
欲しいものを手にするためなら、どんな手段でも用いる。今はソフィに対して紳士的な態度を取っているかもしれないが、それがいつまでかは不明だ。
「それで、どうする? ソフィの婚約者殿」
「行きます。ソフィを絶対に連れて帰る」
即答だった。迷いも逡巡もない。
この場にいる全員の視線が突き刺さる中、それでも私は自分の言葉を曲げる気はなかった。
「下手を打てば、死ぬかもしれないよ~」
「死んだらソフィが悲しむので全力で避ける。それだけだ。それでソフィに手が届くのなら、迎えに行く。絶対にだ」
そう決意し、宣言しても家族である彼らが私を認めてくれるかどうかは別問題だ。
静寂。
ただそれは重々しかった空気とはやや異なり、和むとまではいかないが空気が変わった。
「わかった。ジョシュアたちもそれで異論ないね~」
「不満はあるが、異論ない」
「私もないわ。フェイが獣になって話せないのなら、手紙を書くのはどうかしら」
「それと、フェイに妖精か精霊の加護を付けておこう。じゃないと魔法戦になった時、瞬殺されるな」
「ふむ、では精霊の加護を付けなければな。まずは相性のよい精霊判断をするか」
(受け入れるのが、早すぎないか……)
あっさりと──まるで次の日の予定を決めるような感覚で、とんとん拍子に話を進めていく。
これにはさすがに面食らった。
「あの……そんな簡単に、私を信じていいのか」
信頼してくれるのは嬉しいが、あまりにもアッサリとした立ち回りをしているので聞かずにはいられなかった。重要事項を決めるのに軽く感じたからかもしれない。
「ん? 何をいまさら。我々が今まで貴公を見ていなかったとでも?」
質問を質問で返され、言葉が詰まる。
普段、ソフィがいる時の国王と王妃の可愛がりぶりはすさまじい。
私は基本的に日常会話をする程度で、あとは貿易関係の会議の場などでしか接点がないが、それだけで信じられるものなのか。
(あ、いや。ソフィがどれだけ可愛いか、に関しての話なら良くしていたか……)
全ては、ソフィありきで会話が成立していたところがある。だから改めて個人で話すとなるとなんとも身構えてしまう。彼女の父親なのだが、自分の生みの親よりも親近感はあるのだから不思議なものだ。
「もっとも私は君ではなくソフィが信じた男だから、信じているだけだ」
「アナタ、意地悪なこと言わなくてもとっくに認めているでしょうに」
(ああ、そうだ。この国の人たちはそう──お人よしというか、いい人ばかりだった)
スペード夜王国に戻って数日だったが、改めて彼らの度量の広さと心根が優しいことを実感した。この国の人たちは、本当に気持ちがいい人たちばかりだ。
あの時、私と婚約破棄を目的のために呟いた『留学』の言葉。そのおかげで私は今の私になれた。彼女が何度も奪われそうになるのなら、それを止めるのが私の役割だ。
(ソフィ……。すぐに迎えに行く)
「第七王子が……ソフィを」
「はい。少なくとも、あの男なら自分すら手駒にして計画を立てるでしょう。怪しまれず、容疑者から除外されるのも含めて」
同じ女に恋焦がれているからこそ、あの男が本気だとわかった。
婚約者が隣にいるにもかかわらず、星焔はソフィに婚約破棄と代案を提案したのだ。あれはソフィの気持ちを確かめるものではなく、私への宣戦布告。
ソフィが私を想っていれば想っているほど、私からの婚約破棄は彼女の心を砕くと考えたのだろう。
「しかし、そうなると『原初の魔女』と、ソウエンとの目的が一致しない気がするのですが……」
「星焔と『原初の魔女』が繋がっていても、目的そのものを互いに開示せず、利用しているだけの可能性もある」
「そうだね。とりあえず今はソフィの救出が先かな~」
妖精王オーレ・ルゲイエは、私に視線を向けた。
「ソフィの元に行けるのはこの場にたった一人だけ、彼女と深い繋がりのある君だけだだ」
「……私が?」
家族よりも私が選ばれたことに驚いたものの、国王や王妃の顔を見るとどこか納得したような顔をしていた。ジェラルドは少し複雑そうというか、思い切り睨んでいたが。
『フェイ様』
幻聴だったのかもしれない。けれど腕輪に熱を帯びた感覚があった。
ソフィとの思い出。
彼女の想いがこもった贈物。残っている彼女との繋がり。
(ソフィ……!)
「ソフィとの強い繋がりのある腕輪を媒体にして、道を開くのさ~。ただ人一人分の道を作るは難しいので一時的に獣の姿になってもらう必要があるかな。また辿り着けたとしても──人の姿に戻るのは難しい」
「獣の姿を解くには?」
「ダイヤ王国の私の元に戻れば、解除できるよ~。つまり獣の姿で君はソフィと接触し、彼女自身が『外に出たい』と思わせなければならない」
魔法、魔導具の条件として空間魔法の場合は『許可』と『同意』が必須となる。たとえ裏口からの介入でも、すでに中にいる人物は『出たい』と思わなければ、無理やり出すことは出来ない。
「それならソフィは、自分から入ったということになるのか?」
「それもまた清星焔暗殺の件で上手く仕向けたのだろう。あの日、ソフィの部屋に襲撃者がいたのは、事実だ。それらから守るため、星焔はソフィに『安全な場所だ』と言って空間魔法に避難するよう誘導した」
「ああ」
「なるほど」
あの男ならそれぐらいのことは、やってのけるだろう。
欲しいものを手にするためなら、どんな手段でも用いる。今はソフィに対して紳士的な態度を取っているかもしれないが、それがいつまでかは不明だ。
「それで、どうする? ソフィの婚約者殿」
「行きます。ソフィを絶対に連れて帰る」
即答だった。迷いも逡巡もない。
この場にいる全員の視線が突き刺さる中、それでも私は自分の言葉を曲げる気はなかった。
「下手を打てば、死ぬかもしれないよ~」
「死んだらソフィが悲しむので全力で避ける。それだけだ。それでソフィに手が届くのなら、迎えに行く。絶対にだ」
そう決意し、宣言しても家族である彼らが私を認めてくれるかどうかは別問題だ。
静寂。
ただそれは重々しかった空気とはやや異なり、和むとまではいかないが空気が変わった。
「わかった。ジョシュアたちもそれで異論ないね~」
「不満はあるが、異論ない」
「私もないわ。フェイが獣になって話せないのなら、手紙を書くのはどうかしら」
「それと、フェイに妖精か精霊の加護を付けておこう。じゃないと魔法戦になった時、瞬殺されるな」
「ふむ、では精霊の加護を付けなければな。まずは相性のよい精霊判断をするか」
(受け入れるのが、早すぎないか……)
あっさりと──まるで次の日の予定を決めるような感覚で、とんとん拍子に話を進めていく。
これにはさすがに面食らった。
「あの……そんな簡単に、私を信じていいのか」
信頼してくれるのは嬉しいが、あまりにもアッサリとした立ち回りをしているので聞かずにはいられなかった。重要事項を決めるのに軽く感じたからかもしれない。
「ん? 何をいまさら。我々が今まで貴公を見ていなかったとでも?」
質問を質問で返され、言葉が詰まる。
普段、ソフィがいる時の国王と王妃の可愛がりぶりはすさまじい。
私は基本的に日常会話をする程度で、あとは貿易関係の会議の場などでしか接点がないが、それだけで信じられるものなのか。
(あ、いや。ソフィがどれだけ可愛いか、に関しての話なら良くしていたか……)
全ては、ソフィありきで会話が成立していたところがある。だから改めて個人で話すとなるとなんとも身構えてしまう。彼女の父親なのだが、自分の生みの親よりも親近感はあるのだから不思議なものだ。
「もっとも私は君ではなくソフィが信じた男だから、信じているだけだ」
「アナタ、意地悪なこと言わなくてもとっくに認めているでしょうに」
(ああ、そうだ。この国の人たちはそう──お人よしというか、いい人ばかりだった)
スペード夜王国に戻って数日だったが、改めて彼らの度量の広さと心根が優しいことを実感した。この国の人たちは、本当に気持ちがいい人たちばかりだ。
あの時、私と婚約破棄を目的のために呟いた『留学』の言葉。そのおかげで私は今の私になれた。彼女が何度も奪われそうになるのなら、それを止めるのが私の役割だ。
(ソフィ……。すぐに迎えに行く)
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