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第4章

第46話 1505年運命の年

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 あれから六年があっという間に過ぎていった。

 1505年4月。
 私がダイヤ王国の女王として即位し、そののちシン様に婚約破棄を言い渡され、四か国同盟が白紙に戻る年であり、そして1506年10月にダイヤ王国は滅亡する。
 即位は7月に行われ、各国首脳会議は12月と時間はあるようでない。
 アルギュロス宮殿は他国との外交を行う上で頻繁に利用されるようになっており、かくいう私も王都から、たびたびこちらの宮殿を訪れることが増えた。もっとも十三回目の今回だけだが。
 アルギュロス宮殿には他国からの手紙やら書簡が王都よりも早く届く。これも国境が近いからだろう。

(即位式が近づくにつれて手紙が増える一方だわ……)

 女王即位式は私が十八歳の生まれた日に行われる。
 今回の時間跳躍タイムリープでも、その流れは変わらないだろう。しかし今回は祝いの手紙や贈り物が以前よりも多い気がする。八歳から恩を売りまくった効果だろうか。だとしたら嬉しい。
 ふと執務を行う机の上に、小包と手紙が一通あった。
 妖精が置いて行ってくれたのかもしれない。

(シン様からのお手紙だわ)

 封を切って手紙を開いた。
 研究の成果か、それとも次の会う日だろうか。
 このところお互いに忙しくて三カ月ほど顔を見ていない。今までは頻繁に会っていたのだが、シン様が会いに来ることが減り、現在では皆無に等しい。

(仕事も忙しいから、しょうがない──わよね)

 気にしないように心がけても胸がズキズキと痛む。
 私から手紙を送ったし、会う算段を付けようとしたが、のらりくらりと躱されている。そのたびに婚約者としての自信が削がれていく。それでも今回は違うと、自分を鼓舞してこの三カ月頑張ってきたのだ。

(元からこの半年は忙しいと言っていたもの)

 不安にならないようにとその一カ月前に、シン様とは甘い蜜月の日々を過ごしていた。彼と過ごした六年間と、確かな絆があったので以前ほど絶望を抱いていない。
 けれど寂しい気持ちは日に日に膨らんでしまうのだから、なんとも図々しいものだ。

 今回の手紙が吉報だと期待しつつ手紙に目を通す。「本日には帰る」と記載がありそれだけでも驚いたのだが、スペード夜王国とハート皇国の訪問、つまりは新婚旅行ならぬ婚約旅行の提案が記されていた。

(出発は二週間後!?)

 初耳な上に急な予定に私は何度も読み返す。
 想定外の連絡に困惑した。

(え、待って!? こんな展開はなかったわ。それに私は他国に出たことも無いのに……)

 嬉しい気持ちと戸惑い困惑してしまい思考がまとまらない。
 シン様に直接話が聞きたかった。いつも相談をして決めてくれるのに、今回はかなり強引な気がする。いくら婚約者でも一言話してくれれば──その想いが、感情が止まらない。
 それに一足早い誕生日と言って置かれていた小包は結婚指輪が入っており、いつものシン様らしくない行動が気になった。

(シン様はこういう時、直接渡しに来て私の反応を楽しむはずなのだけれど……。なんだか時間跳躍タイムリープの時のシン様のよう)

 嬉しい気持ちもあるものの、やはり寂しかった。ただ婚約者としての義務を果たしているような味気なさがある。今まで贈り物には必ず一言メッセージが手書きで書かれていたのだ。それが嬉しくて今もずっと大事にしまっている。けれど今回の贈り物には何もない。

(忙しかっただけ……。手紙も届いているし、今回は書きそびれたとか……考えすぎよね)

 寂しいと感じる理由は他にもあった。
 ジェラルド兄様も執務が忙しいようで、父様も母様も同じく会う機会が減っていた。それに気のせいか妙によそよそしい。何かを隠している。
 疎外感ともいうのだろうか。それとも1505年の運命の年だからとピリピリしているからなのかもしれない。

『今日なら、婚約者に会えるよ♪』

 ふと脳裏に声が届いた。

「え?」

 ノイズが入ったような、妙な声。

『今も部屋に居るはずだよ☆せっかくだから会いに行ったら?』
『きっと喜んでくれるわ♪』

 妖精に似ているが、なにか違う。けれども胸にポッカリと大きな穴が開いた喪失感と、寂しくてつらい記憶が私を突き動かした。

(そうよ。手紙にも今日帰るって言っていたもの! ちょっとぐらいシン様を驚かせたい。お仕事中かもしれないけれど、ちょっとだけ、ちょっとだけなら……!)

 いつもなら先触れでシン様の元に行くことを伝えていたが、そんな心の余裕などなかった。
 私が部屋を出る時、──きっと気のせいだろう。


 ソフィーリアは気付かない。この部屋が少し黒く淀んでいたことを。
 そしてアルギュロス宮殿の庭園に薔薇が溢れんばかりに咲き乱れた理由も、まだ理解していなかった。
 ソフィーリアに魔の手が迫る。
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