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番外編
煌夜節に願うのは… (後編) *
しおりを挟む布団の中でじゃれ合うように肌を合わせていたはずなのに、いつしか布団は二人の足元でくちゃくちゃになっている。
レオンスは下肢をあらわにしているが、上半身は寝間着のシャツを着たままだった。シモンはまだ上も下も着たまま。暖炉の火が消えてから、しばらく経って、徐々に空気は冷えてきているのに、二人の肌はじっとりと汗ばんできていた。
「シモン、さ……っ、それ……もどか、し……」
シモンの手はレオンスの裾から中へと潜って、指先で乳首を弄んでいる。いつもは少なくともボタンを外して、舌先で転がしたり、口で舐め回してくるのに、指で捏ねるばかり。
それに臀部へ伸びるもう片手も、後孔の入り口をくるくると撫で回し、つつくだけで、その奥まで入れられることはない。
胸も後ろもやんわりとした刺激だけで、あとは唇が肌を伝い、深い口づけを交わすだけ。
そうすると、もっと強い刺激が欲しくなってくる。
「まだ……もう少し……」
いつもなら、ねだったら嬉しそうにしてレオンスの要望に応えてくれるのに、今日はまだシモンのいいようにするつもりらしい。
「ずる、い……俺も、っ……」
それならばと、レオンスはシモンの下肢に手を伸ばして、布越しに男の性器を撫でた。
「我慢比べ?」
「ふふっ……ん、勝負、する……?」
「負ける気がしないな」
そう言って笑うシモンに、今度はレオンスから唇を寄せた。
積極的に舌を伸ばして、男の熱い舌を追い回す。ねっとりと舐るようにすれば、シモンの体が僅かに跳ねた。
(シモンさんも、感じてる?)
口づけ一つで男の熱が昂る様子が嬉しくて、レオンスは舌を絡ませ続けながら、男の性器を撫で回した。
触れる前から猛り始めていたシモンの性器は、レオンスの手で甘く愛撫されて、さらに大きく熱くなっていく。
「上手いな」
「っ、ん……でしょ?」
「だが……」
「? あっ、待っ……ん、ぁっ!」
口づけの合間でシモンが感心したように言うので、レオンスが口角を上げる。と、シモンも悪辣めいた笑みを浮かべて胸元を弄っていた腕を下へ伸ばして、レオンスの性器を握った。
「前と、後ろ……一緒は、だめ……だっ、て……っ」
後孔の入り口を撫でられながら、性器も上下に触られて、体が跳ねる。
半勃ちになっていたレオンスの性器は恋人の愛撫で角度を変えていく。竿を指で少し強めに扱かれて、先端を指の腹で撫でられると、後孔がひくひくと求めるように蠢いた。
「もう欲しがってるな」
「あ、んっ……ま、だ……」
すぐに欲しがってしまったら、あっという間に勝負に負けてしまう。もどかしすぎて腹の奥がきゅうきゅうと蠕動して、入り口に掛かっている指を飲み込みたいと口を開く。けれど、自ら求めてしまってはシモンのなすがままだ。
「仕方ないな。それなら、もう少しこのまま楽しむとしよう」
今度はシモンから深い口づけをされる。
彼と唇を交わすのは、気持ちがいい。恋人という関係になるまで、体は何度か繋げたけれど、キスは一度しかしなかった。
長い眠りから目覚めたシモンに夢中で口づけをして、それから今の関係になってからは飽きるほどにキスをしてきた。それでもまだ求めていたい。体の奥深くまで繋がるのも嬉しいけれど、言葉を交わす唇で、相手と自分の想いを溶け合わせるのもたまらなく愛おしい。
もっとして、と言う時間さえ惜しくて、離れないようにと舌を伸ばした。
「は、っ……ん、ふ……んん」
深いキスを続けている間も、レオンスは必死に手を動かした。
むくむくと育ったシモンの性器に直接触れたくなって、ウエスト部分に手をかける。少しだけ布を下ろせば、勃ち上がった性器が零れ出た。
「っはは。まだ我慢させるんじゃなかったのか?」
「俺だ、け……ってのは、だめ……かな、って……あ、ぅっ」
シモンの性器へ直に手をかけると同時に、彼の手でレオンスの性器もきゅっと強く掴まれる。彼の動きを倣うように手を動かせば、はぁっと熱い吐息が聞こえた。シモンも快感を拾ってくれているのだとわかると、より良いところを探ろうと指を這わせた。
「いいな……。レオンスも、気持ちいいか?」
「気持ち、いい……けど、それ……は、あっ」
レオンスがシモンの性器を愛撫すればするほどに——いや、それ以上にシモンはレオンスの性器と後孔を愛撫する。けれど、どちらも決定的な快楽までは遠い、ゆるいものばかり。レオンスの腰は物欲しげに揺れ続けた。
「こちらもまた、可愛がってやろうな」
一瞬、性器と後孔から手が離れたと思えば、ぷちぷちと首元から腹部までのボタンが外される。
裾から二つ分のボタンだけは外されなかったシャツの襟元をはだけさせられると、シモンが顔を寄せて胸の突起を吸う。
「あっ! だめ……ずる、いって……!」
「レオンスも好きにしたらいい」
「ひゃ、ぁっ」
じゅるっと乳輪ごとしゃぶられ、再びもとに位置へと戻ったシモンの手によって性器と後孔が甘やかされていく。
竿を擦られ、鈴口を弄ばれる。はくはくと開閉を繰り返す後孔の入り口を撫でられる間、乳首を舌で転がされる。ちゅぷちゅぷと鳴る濡れた音にあわせて、レオンスもシモンの性器を手で擦った。
けれどレオンスの愛撫は徐々にたどたどしいものへと変わっていく。シモンからあちこち舐められ、撫でられ、扱かれて、息はどんどん上がっていった。
「ふ……ん、ぁ……ああ、ぅ、ん……」
胸も性器も後孔も、半端な快感ばかりを与えられていく。
体の奥の熱が渦巻いて、吐き出し場所を求めている。レオンスはシモンの性器に伸ばしている手とは反対の左手を、恋人の肩口に縋りつくように添えていた。シャツを強く握り締めてしまっていて、そこに皴が寄った。
「ゆるゆる、するの……ひど、い……です……っ」
「君も、似たようなものだろう」
レオンスがゆるい快感に煽られているうちに、いつの間にかシモンの指先は潤滑油で濡れていた。そして、ほんの浅いところだけを引っ掛けるようにしてレオンスの後孔を弄んでいく。
けれど、指のたった一本すらもまともに入れてもらえない。その状況に、レオンスはいよいよ我慢の限界を迎えていた。
「はぁ……は、ぁ……。んん……も……むり、ぃ……」
「降参か?」
「ん……、だって……」
びくびくと腰が揺れて、シモンの劣情を誘う。
そのシモンの性器もレオンスの手の中で熱く跳ねていた。口では余裕ぶっていても、恋人の熱もそろそろ限界を迎えそうなことにレオンスは気づいていた。
繋がりたいと、より強く思っているのはどちらだろう。
「やっぱり……シモンさん、のこと……もっと、深く、感じたい……から」
言葉にしたのはレオンスだから、やはり自分のほうが早く繋がりたいと思っているのかもしれない。
どうやら我慢比べはレオンスの負けだ。でも、それでいい。シモンもレオンスも、今まで我慢した時間を考えるとどちらもそれなりだ。
レオンスが自分に素直になるまでの時間と、シモンが目を覚ますまでの時間と。それぞれ叫び出したいほどに相手を渇望しながらも、我慢して、耐えた先に今がある。
「私も欲しい」
色気を帯びた深緑色の瞳がレオンスを捉えて、唇を重ねられる。
と、片足を持ち上げられると同時に、つぷりと指を埋め込まれた。レオンスの手が、シモンの性器から離れる。
「ああっ、や……はぁ、ぁっ」
「嫌じゃないだろう」
一本の指がレオンスの中をゆるゆると暴いていく。
待っていた刺激に体は震えるが、発情期でない体は繋がるまでに準備を要する。それがまたもどかしくて、レオンスは急くようにシモンの性器を撫で回す。
「まだ待って」
「や……待て、ない……」
「我慢比べするまでもなかったな」
そう言いながらも、シモンはレオンスの中を暴く指を増やした。
早く繋がりたいと言われているようで嬉しくて、彼の指をきゅうきゅうと締めつけてしまう。
悦いところを指の腹で押されて、二本の指で中を押し開くように掻き回されると、レオンスの甘い啼き声が増えていった。
「シモンさ、ん……もう、いい、からっ。あ、んっ……はや、く、挿れて」
「まだキツそうだが」
「いい……っ。だいじょ、ぶ……あ、ふ、ぅっ」
シモンの指をわざと締めつけ、言葉で誘えば、シモンはうっとりとした表情でレオンスを見つめた。
潤滑油が絡みついた指をレオンスの中から抜き取ったところで、レオンスは仰向けになって、自らの足を抱えて持ち上げる。はしたなくても、強くシモンを求めたかった。
「いい眺めだな」
「ばか……あっ! そん、なっ、一気に、は……ああぁっ!」
後孔に熱い猛りがあてがわれたと思ったら、一気に貫かれる。
解しきれていない後孔は、それでも何度も飲み込んだ男の形を覚えていて、キツいながらもすべてを平然と受け入れてしまった。入り口が裂けることなく男の劣情を受け入れたレオンスは、僅かに顔を顰めたものの、それもすぐに蕩けた表情へと変わっていく。
「レオンス、力を抜け。これだと、動けない」
「あ、はっ……まだ、待っ……て。なじむ、まで……んぅ、ぅ」
はぁ、はぁと浅い呼吸とともに、レオンスの薄い胸が上下する。
レオンスが落ち着くのを十分に待つ間、シモンはレオンスの足や手にキスを降らせ、大きな手で頬を撫でる。あたたかくて、心地よくて、大好きな手。
その手に安堵して、強張っていた体から力が抜けていく。
すると、その様子を見逃さなかったシモンがずんっと腰を動かし始めた。
「あっ! ひ、ぁ……っ。も、動く、の……っ?」
「もう待っただろう」
ふっと笑う瞳が熱を孕みながら、揺らめく。
熱く猛った雄がレオンスの中を突いて、抉って、食らい尽くすように暴れ始めると、声も渇きも抑えることなどできなかった。
「あ……んっ、あぁ、奥……きて、ほしっ」
「っ、そう煽るな」
「ああっ、そこ! ひゃ、あっ……いいっ、はぁっ」
より奥に捩じりこませるように腰を激しく突かれると、レオンスの背中がしなる。
「も……イきそ、っ」
「我慢しなくていい。ほら……っ」
「イく……あっ、ああぁっ! ん、ああっ!」
待っていた快感に瞬くうちに翻弄されて、腰を打ちつけられてしばらくしないうちに、レオンスは精を吐き出した。それはシモンも同じで、レオンスの腹の奥に熱い飛沫がぶちまけられる。どくどくと注がれる欲望を、レオンスは体を震わせながら感じていた。
「はぁ……はぁ……ん、は……ぁ……」
「大丈夫か?」
「……ん。へーき」
シモンは気遣う言葉をかけ、汗で額にへばりつくレオンスの前髪を指先で避けながら、そこにキスを一つ落とした。近づく逞しい体——その背中に両腕を回して、レオンスはシモンの肩口に頬を寄せた。
「シモンさん、まだ抜かないで……。このまま、ぎゅっと抱き締めていて」
「寒くないか?」
「全然。こうしてると、あったかい」
しっとりと汗ばみ、寝間着もシーツもぐちゃぐちゃだけれど、抱き合えば布越しに熱を十分に感じられた。
来年も再来年も、こうして寒い夜に熱を分かち合いながら愛しい人を感じていたい。
そう願うのは、きっとレオンスだけではないはずだ。
「好きです、シモンさん」
「私も愛しているよ」
伸び上がって顔を寄せれば、唇を重ねられた。
真冬の寝室はしんとしていて、冷たい空気が肌に触れる。とくとくと少し速い二人の鼓動と、ちゅっと甘いキスの音が響くと、体温がまたぐっと上がる気がした。
まだまだ熱は交わしたりない。
どちらともなく上衣を脱がせ始めたので、レオンスとシモンは心と体が渇望するがままに、次の熱を探ることにした。
—— END ——
応援ありがとうございます!
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