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第二章
37. 隔離 *
しおりを挟む九月もそろそろ終わりを迎えようとした頃。
体が熱っぽく、食欲も減退してきたため、レオンスは「そろそろ発情期だ」とジャンに申告して、用意された隔離場所へと向かった。
元よりレオンスにあてがわれていた個室ではなく、要塞の一番北にある分厚い鉄扉で閉ざされた部屋だ。
体調を鑑みるにおそらく、レオンスの発情期が始まるまで、あと二、三日。
しかし抑制剤の一切を絶っているレオンスが、ヒートを起こすギリギリまでアルファないしベータがいる場にいるわけにはいかない。発情期が始まってからの隔離では遅いのだ。
(いやだな……。正直、怖い……)
抑制剤の服用してない状態でのヒートなんて、今まで一度も経験がない。
第二の性は人によってまちまちではあるが、十三歳から二十歳頃までに覚醒する。このとき、突然ヒートを起こすことでオメガであると判明する人もいる。しかしレオンスの場合は、熱っぽさや倦怠感が前症状として出たところで病院に行き、そこでオメガだと診断を受け、第二の性が判明したのだ。
そのため、一番最初の発情期から抑制剤の処方を受けている。以来、一度も抑制剤を欠かしたことはない。
重い気持ちは体もずっしりと重くするようだ。さらに、鉄の扉が重々しさに拍車をかけてくる。
いつもより少しだけ熱い吐息をつきながら、レオンスは扉に手をかけた。ぐっと力を入れて開くと、自分に与えられていた個室の二倍ほどの広さの部屋が現れた。
レオンスなら窮屈に感じることはないであろうベッドに、サイドチェスト。それらは、個室にあったものよりも少しだけ質が良いもののようだ。それに加えて、部屋には物書き机と一脚の椅子もある。二つとも個室には無かったものだ。
ただ、この部屋に外が見られるほどの窓はない。天井付近にある小さな明かり取りと換気のための小窓はあるが、それを除けば鉄扉を閉めた部屋を照らす灯りは蝋燭とランタンだけだった。
それでも、レオンスは扉を閉めなければならない。
気鬱な心と共に、重い扉をしっかりと閉めた。
隔離部屋にこもってから二日目の朝、レオンスはベッドの上で一人、身悶えていた。
「……は……っ……」
レオンスの見立てでは今日か明日にはヒートが起こるだろうと思っていたが、ほぼ予想通りではあるものの半日から一日ほど前倒しで発情期が始まったのだ。
明け方頃、急に体の疼きが止まらなくなったレオンスは目を覚ました。慌てて薬を飲もうとしてベッドの周りをごそごそと漁ったが、そういえば抑制剤は禁止されているのだと思い出して絶望的な気持ちになった。
それから毛布に丸まるようにして、レオンスは身を小さくして数時間は経っただろうか。毛布やシーツに肌が擦れるだけでも体が快感を拾おうとして、動くことすらままならない。
「……ふ、ぅ……ぅ……」
前後不覚になる前に自分で処理をしなければ、と自身の性器に手を伸ばして触れたのは、唯一ある小窓から午前の陽が差し込んできたところだった。
体の左側を下にして、ベッドに横になっていたがもう限界だった。
「っ……はぁ、ぁ……」
意識が完全に本能へ傾くのを、レオンスは必死に食い止める。
抑制剤を飲んでいれば、情欲に掻き立てられはするが体と意識すべてが支配されるわけではない。けれど、今回は抑制剤を一切使っていないからだろうか……少しでも気を抜くと、オメガの性にすべてを乗っ取られてしまいそうだった。
自分は理性のある人間だ、動物ではないと言い聞かせながら、下着に手を潜りこませて陰茎を扱く。
とっくに先走りの蜜でぐちゃぐちゃになっているそこに指を這わせると、体がびくびくと跳ねた。鈴口をくるくると撫でれば、あっという間に吐精してしまった。
濡れた下着が気持ち悪く、レオンスは片手は性器に添えたまま、一気に脱ぎ捨てた。
「……くぅ、ん……ん……」
一度精を吐き出しただけで体が満足するわけもなく、レオンスはそのまま指を会陰の先へ滑らせて、後孔に潜り込ませた。
発情期を迎えているレオンスの後孔はぐぷっと音を立てて、あっさりと指を飲み込む。最初から二本もの指を突き入れたのに、痛みはまったくなく、内襞はレオンスの指を待ってましたと言わんばかりに絡みついてきた。それに促されるがまま、二本の指をぐぷぐぷと抜き差しする。
性器を扱くだけでは得られなかった快感が背を駆けていく。レオンスは声を殺しながら、自分の中をどんどん暴いていった。
「んっ……ん、んぅっ……」
この部屋は、鉄扉と分厚い石壁に囲まれているため、多少大きな声を上げたところで周囲に漏れる心配はない。
事前に伝え聞いていたとおりならば、常に見守りが扉の外にいるわけではなく、十メートルほどの廊下の先にオメガの誰かが交代でついてくれているはずだ。
大きな声を上げても、そこへ声は届かない。それでも、レオンスは声を必死に殺した。
そうでもしないと、あられもない声で喘いでしまいそうだった。そして、声を上げたら最後。本能にすべてを支配されてしまうのではと怖かったのだ。
「……あ、んんっ……ふぅ、っ……!」
元より十分に解れていた後孔は、性急に指を突き入れ、動かしたことでどろどろに溶け切っている。
そこへレオンスは、迷うことなくベッド脇に置いておいた張形を入れた。抑制剤を使っていないからか、いつもの発情期よりも濡れ切った後孔は、張形をわざわざ濡らさなくても難なく内へと飲み込まれていった。そして、咥えたものを放すまいと、きゅうきゅうと締め付けていく。
あさましいと思いながらも、張形を動かす手を止められなかった。
うつ伏せになって、足を少し開いて、腰を高く上げる。伸ばした手で張形を何度も自分の中へと突き入れた。いつもはやらないくらい乱暴に。強引に。
後孔から零れた粘液が太腿を伝う感覚にすら、体を震わせ、さらに刺激が欲しいと内襞が波打つ。快楽を拾うたびに体を捩ると、脱ぐ暇を惜しんだシャツが胸の突起を擦り、それがさらに快楽となって再び体を捩る。ベッドに体を押し付けて、もっと胸への快楽を与えると腰がビクビクと痺れて、張形をぎゅうっと締め付ける。
それを何度も繰り返して、呼吸が困難になりそうなほどに自分を追い詰めた。
そうして、レオンスは何度となく張形で自分を刺激し、幾度となく吐精を続けた。
それなのに——。
枯れるのではと思うほどに吐き出しても、レオンスの熱は冷めるどころか、本能がどんどん暴れそうになっていた。
ベッドは、精液と粘液と汗でぐちゃぐちゃだ。
こんなに吐き出せたのかというほどに濡れ切っているのに、後孔はまだ欲しいと張形を放さない。いや、もうこれでは満足できないと言っている。
陰茎もずっと勃起しっぱなしだ。出しても出しても、少し触れれば勃ち上がってしまう。
(……誰か……誰でもいい、から……。いや、違う……いいわけない……。ダメだ……外に出るなんて、ありえない……)
——でも、もう……おかしくなりそうだ……。
明かり取りの小窓から差し込む陽は、はじめに性器へ手を伸ばしたときから違う方向へと影を伸ばしていた。
もう何時間、一人で慰め続けたかわからない。それでも熱は冷めないし、一向に体が満足しない。
そう、満足していない。
(欲しい……もっと……もっと、強い快楽が……っ。いや、ダメだ……やめろ……欲しい。やだ……っ)
レオンスの理性は、もう髪の毛一本ほどが僅かに残る程度だった。その理性ではダメだと自分を必死に止めようとしているのに、オメガの本能が体中を覆いつくし始めていて、ギリギリの線を飛び越えようとしていた。
心では全力で拒否をしているのに、体が勝手に動いてしまう。
よろりと体を起こせば、ぬるぬるの後孔から張形がごとりと落ちる。
それを手で止めることもなく、レオンスはベッドから足を下ろした。ひんやりとした床が裸足に触れ、それですら「はぁっ……」となまめかしい声が漏れる。ひたひたと床を進み、十歩にも満たない距離をよろけながら歩いた。
そして、レオンスは——鉄扉の錠に手をかけてしまった。
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