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十五章因縁の対決

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 いてて……まさか奴が大爆発するなんて思わなかった。自爆攻撃かありゃあ。

 俺は痛む全身に鞭打ってゆっくり起き上がる。頭の額の部分は岩などが当たって流血しているが、手足はただの打撲だけで済んだようだ。少し肋骨辺りが痛いのでヒビが入っているかもしれない。それでもこの程度ならじいちゃんの修行に比べたら全然大したことない。
 
 辺りは見渡す限り先ほどの大爆発の影響で瓦礫の山と化している。そんな俺はガードレールを越えて浜辺まで吹き飛ばされてしまったようだ。近くの草木がクッションになったおかげで軽傷で済んだ。

 みんなはどこだろう。無事だろうか。娘達はもちろんの事、直や先生達は――っ。


 大丈夫だ。娘達は直もついていた。あいつは娘命だし。先生達も見かけより頑丈だ。だから絶対大丈夫。そうひたすら自分に言い聞かせて、痛む体を引きずって辺りを探索する。気配探知を最大まで研ぎ澄ませて人の気配を探ると、かすかに知っている気配を感じた。

「南先生!」

 瓦礫に隠れるようにうめき声をあげている彼女を見つけた。運よく瓦礫の下敷きになっていなかったようでほっとする。

「大丈夫かよ先生」

 まわりの邪魔な瓦礫をどかして南先生を抱きかかえ上げる。俺以上に傷だらけで重傷なので、近くの平坦な岩の上に静かに寝かせた。

「っ……かさ、たに……ごめん」

 先生は汗びっしょりの顔色悪い顔で謝罪を口にする。

「娘ちゃん達は奴らに……連れて行かれた、わ……。相沢先生と……直様は……娘ちゃん達を守るために……一緒に……はあはあ……」
「っ、そっか。みんな、連れて行かれちまったか……」
「わたし、たちは……運よく、瓦礫で見つからなかったから……でも、何もできなくて、ごめん」
「いいんだよ。そんな怪我じゃ結局何もできなかっただろうし、仕方のない状況だったんだから。でも今はそれより……」

 呼吸が荒い。先生は先ほど銃弾の攻撃を足に受けた事を思い出す。

「先生、まずは足の銃弾を摘出しないと命があぶねえよ」
 
 人間を捨てた奴の銃弾は普通の銃弾とは違い、長時間体内にそのままにしておくと危険な気がする。なんとか摘出しないと先生の命が危ない。

「くそ……何もねえなこの辺りは」

 誰か助けを呼ぼうにもこの辺りは全く車が来ない様子だ。サツも追いかけて来ていた割には先ほどの大爆発でビビったのか姿を見せなくなる始末。おまけにスマホは運悪く先ほどの爆発で壊れてしまい、連絡手段が絶たれてしまった。直も娘達も相沢先生も人質か知らんが連れて行かれちまったし、焦燥感に駆られていく。

 母ちゃん達も帰りが遅い俺達を心配してそのうち来てくれるだろうが、このまま待っていたら確実に先生が死んでしまうよ。

「先生、すっげえ痛いかもしれないが我慢できるか」
「……かさ、たに……?」
「手術なんてした事ないけど、とにかくその足に受けた弾くらいは取らないと」

 俺は普段から持ち歩いているサバイバルナイフを腰ホルダーから取り出した。普段は戦闘には使わないし、制服などで見えないが、もしもの時にナイフがあれば便利だと思って常に腰に携帯している。バレたら銃刀法違反だがな。

「……できるの、か?」
「じいちゃんの修行の時、応急処置のやり方はひたすら叩き込まれた。人形相手にな。でも、人間相手にやるのはこれが初めてだ。俺は医者じゃないからうまくいかないかもしれない。あんたの体に傷をつけちまうかもしれない。だから、足が使い物にならなくなったら許してくれ」
「っ……いいんだ。あたしの命なんて気にするな。あたしは……元々、殺し屋だったから。いつ死んでも構いやしないと思ってる……むしろ、ここで死んだ方が……」
「ドアホ」

 俺は低く唸った。俺の周りは自殺願望者が多いらしい。まったく……どいつもこいつも。

「命なんてとか、いつ死んでも構いやしないとか、そんな事軽々しく言うもんじゃねえよ。精一杯今を生きてもないくせに甘ったれるな。殺し屋だろうがなんだろうが、アンタは自分からその道を選んだわけじゃないんだろ。本当は殺しなんてしたくないって少しでも思ってるんだろうがっ!」
「そう、だけど」
「なら、あんたは真っ当だ。あんただって生きていいんだよ」
「架谷……でも、あたしは……何人も人を殺してるんだよ……」
「その殺した相手は、罪のない善良な人間てわけじゃあないんだろ。何かと理由があってその世界に自ら進んでやってきた者なら、そこまで罪の意識なんて感じなくていいと思うんだ。そのアングラな世界に身を置いている以上、みんな殺し、殺される覚悟を持っていた。ただ、忘れなければいいだけ。殺した奴の分まで、人生を背負って生きていかなければならない事には変わりないが、あんただってこの先ちゃんと幸せになっていいんだ」
「っ……!」

 先生は俺の言葉に衝撃を受けたのか目を見開いている。

「罪の意識を感じているのはなにもアンタだけじゃない。俺の周りには何かと闇を抱えている奴が多いから、あんたの事を殺し屋だなんて目で見てくる奴なんていなかっただろ?それでも納得がいかないなら、俺が赦してやる。世界中があんたを悪く言う奴がいるなら、俺だけが味方でいてやるよ」
「っ……どうして、そこまで言えるのよ……。あたしとあんたは……そこまで関りがなかったでしょ……」
「関りがない?んなこたぁない。先生にはいろいろ世話になってるからな。俺が赤点とった時、万里ちゃん先生と一緒に数学教えてくれた時とか、ほとんどサボりも同然なのに毎回保健室で休ませてくれたりとかさ。あんたには世話になってる。先生のおかげで留年しなくて済んでるし」
「っ、なにそれ……あたしの今までの罪の意識はあんたの留年を助けるのとどっこいどっこいって事かっ」
「えーだめかよ」
「……だめ、じゃないわ。ただ、あんたがつくづくお人好しな奴だって思っただけ」
「はは、どうせ俺はお人好しだよ。別にいいだろ今更なんだし。ま……おしゃべりはここまでにして」
 
 俺がサバイバルナイフの刃の部分を出し、刃の部分に海水をたっぷりかけて殺菌させる。そして、真剣な表情で先生に向き直る。

「弾の摘出手術をしてやる」

 ごくりと先生が息をのむ。麻酔なしの手術は相当痛いだろう。先生の体力が持つか、俺が失敗しないかのどちらかに一つ。悲鳴を上げたくなるほどの痛みだろうから、ハンカチを銜えてろと一言指示し、俺は先生の銃弾を受けた太ももに刃を向けた。

 

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