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十五章因縁の対決

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「これでよし……と」

 俺は深い息を吐いて脱力した。辺りはすっかり夕暮れだ。あれから悲鳴と暴れまわる先生を押さえつけるのに苦労して、なかなかうまい具合に手術が進まなかった。

 なんせ麻酔なしの摘出手術。激痛どころではなく、下手をすれば死んでしまうほどの体力と気力勝負だったよ。先生も銃弾を摘出した直後にそのまま気を失ってしまった。そりゃあそうなるわな。

「マジ疲れた……」

 銃弾は丁度太ももの中心に貫通していて、しかも結構でかい。こりゃあ痛かっただろうよ。

 俺も慣れない行為をしたために簡単な手当てを終えた後はもうクタクタ。先生の太ももは俺の服を破いて結んで固定してあるので、あとはプロの先生に診てもらおう。とりあえず止血したしな。

 母ちゃんか誠一郎さんが来るのを待つだけだが、そろそろ来てもいいんだけど早く来ないかな。

「かさたに……」
「先生、目ぇ覚めたか。足、平気か」
「大丈夫。さっきより全然楽になった。ほんと、あんたのおかげだよ……ありがとう」
「困ったときはお互い様だろ。これからまた先生に世話になると思うし」

 主に勉強面でな。と答えると、先生は呆れた顔だ。また留年しないようお願いします。特にこの後ある期末試験と進級試験でね。
 
「さて、とりあえずここを離れないとな。警察共が先ほどの爆発の調査にこの辺りをうろついているようだし。歩けるか?」
「大丈夫。そんな長い距離は走れないけど……」
「じゃあ、俺が抱えていくけど。肩に担ぐのとおんぶと横抱きどれがいい?」
「っ、横抱きって……どれも結構だっ」

 先生らしくもなく頬が赤く染まっていた。ふむ、照れなくてもいいのに。そう考えていると、ヘリの音が聞こえてきた。暗い中で灯りが見えて思わず助けが来たかと身を乗り出そうとしたら、乗っている奴らは全員


「敵だ!」

 俺が先生の腕を引き寄せて一緒に岩場に隠れる。奴らは俺達の影を見つけた途端にヘリから機関銃を派手に連射してきやがった。身を低くして、先生を抱き込む形で頭を下げる。まだ俺達がここにいると思ってお掃除しに引き返してきたんだろう。

 くそったれめ。よほど矢崎正之は俺に殺意を持っているようだ。殺意が奴の部下を通して滲み出ているよ。しかも、機関銃じゃ埒が明かないと思ったのか今度はミサイルまで打ち込んできやがった。俺は先生の手を引いてその場を颯爽と飛び出す。隠れていた場所が盛大に爆発を起こした。

「うわああっ!」
「きゃああ!!」

 二人して爆風に吹き飛ぶが、すぐに受け身を取って体勢を立て直しながら先生を抱え上げる。このままじゃ二人して木っ端微塵になりそうだったので、俺のスピードで逃げるしかない。

「きゃ、きゃああぁああ!!ちょ、ちょっとこの抱き方はやめなさいよぉッ!!」
「だぁーうるせえ!振り落とされたくなきゃアンタは黙ってろッ!!」

 先生が顔を真っ赤にしながら文句を言っているが、それどころではない。今あのバカヘリの奴らの攻撃を避けまくってんだから暴れるなと怒鳴ると、先生は口をもごもごしているが何も言わなくなった。

 あの大爆発は一種の攻撃だったんだろう。俺を殺すことに執念を燃やし始めていたので、キメラ化してカッと血が上った状態で殺せるなら義理の息子だろうがなんだろうがお構いなしって事か。見境がなくなったもんだ。

「売られた喧嘩は返してやる」

 奴らの猛攻撃が一時的に止まった瞬間、先生を抱えながら俺はヘリに向かって殺威圧を放つ。ヘリに乗っていた奴らは俺の殺気に固まって動けなくなった。肺すらも殺気によってビビらせて凍らせる技で、普通の人間相手には使えない。だから、人間を捨てた連中相手にはどんどん使用してやる。

「そんでもってくらえ……俺の剛速球を」

 掌サイズの石を持ち、それを勢いよくヘリめがけて投げつけた。俺の全力で投げた剛速球はヘリの中枢を貫通し、ヘリは操縦不能となってくるくるそこらを旋回。そのまま地面に墜落と同時に大爆発を起こした。

「俺を怒らせたらこうなるって事を今に思い知らせてやる!悪い野郎共は俺が全部倒す!!」




 *


 一方その頃―……


「すん……パパ、大丈夫?」
「父様ぁ……ひっく……よかったぁ」

 うっすら目を開けると、泣いている真白と甲夜が視界に映った。周りも薄暗くて肌寒い。無機質な檻が目に入る。どうやら気を失っている間に親子そろって牢屋に入れられたようだ。

「甲夜……真白……お前達が無事でよかった」

 二人の頭を撫でながらゆっくり起き上がろうとすると、全身がズキズキと痛みが走って重苦しい。特に背中がヒリヒリして火傷を負ったように熱い。

「パパ、すごい怪我、だよ。背中……裂傷と火傷で、血がいっぱい」
「爆発の衝撃から守るように、爆風や飛んでくる岩などからかばってくれたんでしょ?」

 たしかにその通り。背中には裂傷やら火傷やらがひどいようでヒリヒリする。が、娘を守れたならどうってことはない。歩けないわけでもないし、骨が折れているわけでもないならまだ平気だ。

 オレにしては娘を抱えたままあの爆発でよく生き延びれたと思う。これも混血になって人間離れした身体能力と生命力を手に入れたおかげだろう。

 霊薬の血という忌々しい肩書きは大嫌いだったが、そのおかげで得られた恩恵に今だけは感謝したい。もし混血でなければ死んでいたほどの怪我なのだから。これで生きていられる自分のタフさは前世の生命力を遙かに超えていると思う。

「怪我より、お前達が無事でホッとしているんだ」

 ぎゅっと娘達二人を両腕で抱きしめる。娘達も抱きしめ返してくれて大声で泣いている。さっきの衝撃はさすがのオレも肝が冷えたし、娘達もさぞや怖かっただろう。あんな大爆発などテレビか映画くらいしかお目にかかれない威力だったのだから。

「怖い思いをさせてごめんな、二人とも」
「父様……ううん。今は怖くないよ」
「パパ、そばにいてくれる。だけど……パパの怪我、心配」
「パパは混血になってから回復力が異常に早い事は知っているだろう?しばらく休めば自然治癒も可能なんだ」

 混血になってから回復の異常な速さも霊薬の血の恩恵だ。こうして休んでいる今も体力と傷が回復している。なんとか少しでも回復を待てば、この場所から逃げ出せるのだが、それまで何事もないとも言い切れない。 

「ママ……大丈夫、かな」

 甲斐の方は心配だが、きっと生きてる。あの大爆発でこうしてオレが生き残っているのだ。甲斐だけくたばるなんて事があるはずがない。

「大丈夫だよ。そう信じるんだ。オレと同じで何かと頑丈だから」
「……うん。ママもパパと同じくらい、強いもんね」
「ねえ父様。夫婦げんかしたら、どっちが強いのでしょう?」
「んー……そりゃあ……いつも母さんを泣かしてるのはオレだから……」

 オレだろう。と、言おうとしたら、向こうから誰かが近寄って来る気配を察知した。娘達二人はびくりとしてオレにしがみついた。
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