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第二章 勇者
2.19 鑑定所
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私は冒険者ギルドの向かいにある鑑定所を訪ねる。この鑑定所は雑貨屋を兼ねているらしく、ショルゼアのマジックアイテムが販売されていた。
目を引いたのは、色とりどりの美しいガラス細工。
形や色使い、特徴は、どことなく津軽ビイドロによく似ている。
伝統工芸品の美しさ、表情豊かな色ガラス。私はまだハンドメイド暦は浅い方だけど、この細工を作ったショルゼアの人がかなりの腕前である事はわかる。
このマジックアイテムがどんな効果があるのかっていうのも興味がないわけじゃないけど……一つ買って行こうかと思わせるくらい魅力的な作品だ。
「おや、そのマジックアイテムが気になるのかい?」
ふいにカウンター越しに声が掛かる。
穏やかな中年の男性の声。教頭先生の声と似ている。
「それはね、お嬢さんにはまだ早いかな――――、恋の薬だからね」
「恋の薬……」
わたしは美しいガラス細工をもう一度見た。
美しい色遣いは確かに大人が好む細工だ。恋の薬が入ってるって言われて納得してしまうような。
「私は店主のレンド。お嬢さんは冒険者かい? 今日は何を鑑定しようか。ギルド登録証はあるかな?」
レンドと名乗る教頭先生、もとい店主は、鑑定スペースへ誘導してくれる。
この店主なら安心して鑑定を任せられそうだ、と私は思う。
私は手に持っていたギルド登録証、スカートのポケットに入っていた魔獣の核を一つ一つゆっくりとカウンターに出していく。それが全部で五つ揃った時、店主は驚愕を隠さなかった――――
「推薦者のいるGランク冒険者が、パープルウルフの核を五つ……そのうち一つはキング……。幻……、か?」
レンドの顔にはあり得ない、と書いてあった。
何がどうなっているのかわからない。事情を知ってそうな店主に問い詰めたいが、店主はあらぬ方向に思考を巡らせており、いつ戻ってくるかわからない。
「あのう……やっぱり買い取りは難しいでしょうか? それなら諦め――――」
「いやいやいやいや! こんな一級品、滅っっ多にお目にかかれない。是非買い取らせて貰うよ!」
私の言葉を遮って、レンドは興奮気味に告げる。
そうしてレンドは、ベージュ色の革袋に銀貨十五枚を入れ、渡してくれた。
私はその袋の中の銀貨をじっと見つめる。
人生初の異世界貨幣。でもその価値が良くわからない……
「足りなかったかい……?」
店主は私の行動を別な意味にとったようだ。
足りないとか足りるとか、何を基準に決めたら良いのか私にわかるわけがない。
「あのう、私、駆け出しの冒険者で……、お金の価値がよくわからないんです……。銀貨十五枚って、その……、大金なんですか?」
私の言葉にレンドは絶句し、頭に手をやり、どうしたものかと悩み始める。
「これまでたくさんの冒険者を見てきたが、お嬢さんみたいな冒険者は初めてだよ。パープルウルフキングをも狩る冒険者がお金の価値を知らないなんて……」
「お願いします、今後のためにも教えて下さい!」
「そうだね、世の中には悪い人間もいる。騙されることもあるだろう。知る事は大切なことだ」
そうして店主レンドは、ショルゼア貨幣について教えてくれた。
簡潔に要点だけをまとめて伝えてくれる。
ショルゼアには、八つの国が存在する。
それぞれの国で取引きされる貨幣は違うけれど、貨幣価値は共通であり金貨、銀貨、銅貨、鉄貨が存在する。どれも表に聖竜の紋章、裏にその国の国王のレリーフが刻まれているのが特徴だ。
それぞれの価値は、鉄貨十枚で一銅貨。銅貨十枚で一銀貨。銀貨は、二十枚で一金貨。
大銅貨、大銀貨など、「大」がつけばその硬貨五枚分で、小鉄貨、小銅貨など「小」がつけば、その五分の一となる。ただ、実際に使われている小硬貨は小鉄貨だけだし、大銀貨以上が市場に出回ることはないという。
なるほどなぁと思う。
たとえば一枚の金貨が地球円でどれくらいなのかわかればもっと良いんだけど……。これはショルゼアの人には判断つかないことだし、私が経験して知るしかないのかもしれない。
「ありがとうございます! 早速服を……。装備品を買いたいんですが、近くにお店はありますか?」
「それなら、防具屋に行くといいだろう。この店の裏手にあるよ。だが今日はもう遅い、宿屋に泊まって明日買いに行くといいよ」
レンドが窓の外を見る。言われてみれば、外はすっかり暗くなっていた。
宿屋があるなら、是非泊りたい。もしかすると諦めていたお風呂に入れるかもしれない!
レンドは、口頭で宿屋の場所を伝えてくれた。
この店がある通りを右に進めばあるらしい。
私は丁寧にレンドにお礼を言い、ぺこりと頭を下げ店を後にした。
目を引いたのは、色とりどりの美しいガラス細工。
形や色使い、特徴は、どことなく津軽ビイドロによく似ている。
伝統工芸品の美しさ、表情豊かな色ガラス。私はまだハンドメイド暦は浅い方だけど、この細工を作ったショルゼアの人がかなりの腕前である事はわかる。
このマジックアイテムがどんな効果があるのかっていうのも興味がないわけじゃないけど……一つ買って行こうかと思わせるくらい魅力的な作品だ。
「おや、そのマジックアイテムが気になるのかい?」
ふいにカウンター越しに声が掛かる。
穏やかな中年の男性の声。教頭先生の声と似ている。
「それはね、お嬢さんにはまだ早いかな――――、恋の薬だからね」
「恋の薬……」
わたしは美しいガラス細工をもう一度見た。
美しい色遣いは確かに大人が好む細工だ。恋の薬が入ってるって言われて納得してしまうような。
「私は店主のレンド。お嬢さんは冒険者かい? 今日は何を鑑定しようか。ギルド登録証はあるかな?」
レンドと名乗る教頭先生、もとい店主は、鑑定スペースへ誘導してくれる。
この店主なら安心して鑑定を任せられそうだ、と私は思う。
私は手に持っていたギルド登録証、スカートのポケットに入っていた魔獣の核を一つ一つゆっくりとカウンターに出していく。それが全部で五つ揃った時、店主は驚愕を隠さなかった――――
「推薦者のいるGランク冒険者が、パープルウルフの核を五つ……そのうち一つはキング……。幻……、か?」
レンドの顔にはあり得ない、と書いてあった。
何がどうなっているのかわからない。事情を知ってそうな店主に問い詰めたいが、店主はあらぬ方向に思考を巡らせており、いつ戻ってくるかわからない。
「あのう……やっぱり買い取りは難しいでしょうか? それなら諦め――――」
「いやいやいやいや! こんな一級品、滅っっ多にお目にかかれない。是非買い取らせて貰うよ!」
私の言葉を遮って、レンドは興奮気味に告げる。
そうしてレンドは、ベージュ色の革袋に銀貨十五枚を入れ、渡してくれた。
私はその袋の中の銀貨をじっと見つめる。
人生初の異世界貨幣。でもその価値が良くわからない……
「足りなかったかい……?」
店主は私の行動を別な意味にとったようだ。
足りないとか足りるとか、何を基準に決めたら良いのか私にわかるわけがない。
「あのう、私、駆け出しの冒険者で……、お金の価値がよくわからないんです……。銀貨十五枚って、その……、大金なんですか?」
私の言葉にレンドは絶句し、頭に手をやり、どうしたものかと悩み始める。
「これまでたくさんの冒険者を見てきたが、お嬢さんみたいな冒険者は初めてだよ。パープルウルフキングをも狩る冒険者がお金の価値を知らないなんて……」
「お願いします、今後のためにも教えて下さい!」
「そうだね、世の中には悪い人間もいる。騙されることもあるだろう。知る事は大切なことだ」
そうして店主レンドは、ショルゼア貨幣について教えてくれた。
簡潔に要点だけをまとめて伝えてくれる。
ショルゼアには、八つの国が存在する。
それぞれの国で取引きされる貨幣は違うけれど、貨幣価値は共通であり金貨、銀貨、銅貨、鉄貨が存在する。どれも表に聖竜の紋章、裏にその国の国王のレリーフが刻まれているのが特徴だ。
それぞれの価値は、鉄貨十枚で一銅貨。銅貨十枚で一銀貨。銀貨は、二十枚で一金貨。
大銅貨、大銀貨など、「大」がつけばその硬貨五枚分で、小鉄貨、小銅貨など「小」がつけば、その五分の一となる。ただ、実際に使われている小硬貨は小鉄貨だけだし、大銀貨以上が市場に出回ることはないという。
なるほどなぁと思う。
たとえば一枚の金貨が地球円でどれくらいなのかわかればもっと良いんだけど……。これはショルゼアの人には判断つかないことだし、私が経験して知るしかないのかもしれない。
「ありがとうございます! 早速服を……。装備品を買いたいんですが、近くにお店はありますか?」
「それなら、防具屋に行くといいだろう。この店の裏手にあるよ。だが今日はもう遅い、宿屋に泊まって明日買いに行くといいよ」
レンドが窓の外を見る。言われてみれば、外はすっかり暗くなっていた。
宿屋があるなら、是非泊りたい。もしかすると諦めていたお風呂に入れるかもしれない!
レンドは、口頭で宿屋の場所を伝えてくれた。
この店がある通りを右に進めばあるらしい。
私は丁寧にレンドにお礼を言い、ぺこりと頭を下げ店を後にした。
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