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氷姫救出編
異変
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場所は五階層のちょうど中間あたり。鬱蒼と生い茂る木々を掻き分けながら進んでいた。すると突如として洞窟が現れた。
その洞窟は見上げる程に巨大だ。横幅も広く、十人は横に並んで歩ける位には大きい。
五階層は四階層までとは違い、森と洞窟の層だ。
森の中に隠されるようにして無数の洞窟が存在する。その中でも下層へと続く階段がある洞窟はたったの一つ。
無数にある洞窟の中から正解を引き当てなければならないのだ。
そして正解を引き当てられたとしても洞窟内は無数の分岐路があり迷宮の名に相応しい迷路になっている。
俺たちには地図があるからいいものの、これを攻略した先人達には頭が上がらない。
洞窟内に出現する魔物は主に三種類。
一階層でも出現するブラックヴァイパーに始まり、二つの首を持つツインヘッドスネーク。蝙蝠の羽を持つバットヴァイパーだ。
余談だが、奈落の森に出現する魔物は大抵ヴァイパーかスネークと名前が付いている。
付いていないのはそれ以上に強力な魔物だけだ。
簡単に分けるとヴァイパーが毒ありでスネークが毒なしだ。
「キィイイイイイ!!!」
甲高い鳴き声を上げながら天井から十体程のバットヴァイパーが襲いかかってくる。
それをウォーデンとカナタの魔術が容易く殲滅する。
俺とサナは正面から迫り来るツインヘッドスネークを相手取る。しかしどれもA級の魔物だ。やはり俺たちの脅威にはならず一撃で倒すことができた。
怪我なんてしない物だから、当然アイリスの出番も来ない。カノンですらここにくるまで一度も魔術を使っていない。
「私、いる意味ありますかね?」
「下層に行くまではないかもな」
「ですよね~。まあ怪我なんてしない方がいいですし!」
その後、大地を揺らしながら襲いかかってきたブラックヴァイパーを一刀の元に斬り伏せる。
……ん?
そこで俺は違和感に眉を顰めた。ほんの少しだけ手応えが違うような気がした。
「どうした?」
手の感触を確かめていると目敏く俺の様子に気が付いたカナタが声をかけてきた。
「……カナタは何か感じたか?」
「いや、俺は特に」
「オレも瞬殺のようにしか見えなったぞ」
話を聞いていたウォーデンも感じていないらしい。
S級冒険者が感じていないのなら思い過ごしかもしれない。
「なら……」
いい。と言いかけて口を噤んだ。
些細な違和感でも共有しておいた方が万が一を防げる。ここは戦場だという事を忘れてはならない。
「少し……。ほんの少しだけ魔物が強くなった気がする。正確には硬くなった……か?」
ブラックヴァイパーを斬った時に、前に倒した個体よりも僅かに硬かった気がした。
個体差と言われたらそれまでだが、ここに来るまでにブラックヴァイパーは山程斬ってきた。なのに違和感を覚えたのは初めてだ。
これは果たして偶然なのか。
「ちなみにサナは何か感じたか?」
「私もカナタと同じく何も」
同じ前衛であるサナが何も感じなかったというなら勘違いの可能性が高くなる。
「……気のせいか?」
「いや。例えそれが些細な事でも警戒はするべきだ。オレはそれを怠って死んだヤツを何人も見てる。冒険者は臆病なぐらいが丁度いいんだ」
ウォーデンの言葉には実感が籠っていた。
「だからここからは何か異常事態が起きていると仮定して進む。各自、何か気付いたことがあれば逐一報告してくれ」
全員が頷き、再び歩き出した。
残りの五階層と六階層は特に何事もなく抜けた。拍子抜けする程あっさりと。というのも六階層に出現する魔物はブラックヴァイパーだけで特に道が入り組んでいるわけでは無いのだ。
先程の違和感など無かったかのように俺たちは七階層へと辿り着いた。
七階層は階段を降りるなり洞窟だった。この層は全体が洞窟となっている。
森の要素もしっかりとある。奇妙なことに天井から逆さまに木が生えているのだ。
「迷宮ってのはなんでもありなのか?」
「基本的になんでもありだな。オレが見た中で一番おどろいたのは時間で重力が反転する迷宮だ」
「なんだそれ……。聞くだけでめんどくさそうだな……」
「反転する時間も層によって違ってな。天井が高い所に行って運悪く反転したら大怪我だ。下手したら死ぬ。戦闘中もお構いなしなもんだから熟練者が体勢を崩して致命傷を負ったなんて事もザラにある。そんなのと比べればここはまだまだ良心的だな」
「たしかに警戒するのは魔物だけでいいもんな」
「その魔物がひたすらに強いのが難点だがな」
そんな軽口を叩きながら七階層を進む。しばらく進むとウォーデンが地図を確認しながら言った。
「この先はしばらく一本道だ。スリーカウントで走り抜けるぞ」
迷宮で一本道というのは危険度が跳ね上がる。何せ逃げ場がない。前方の魔物との戦闘に時間をかけ過ぎると後ろから来た魔物に囲まれてしまう。
だから冒険者はこういう一本道では素早く駆け抜ける。
「三、二、一。ゴー!」
ウォーデンのカウントに合わせ、全員で走り出す。
既に何度か同じ事をしているので遅れる者はいない。後衛のアイリスとカノンも全く遅れていない。
走る事およそ一分。一本道も中盤に差し掛かったあたりで前方に影が見えた。
足は止めない。俺は刀を抜き放つといつでも攻撃できるように構える。
そしてソレがはっきりと見えた。
冒険者の遺体だ。
それも五人。男が三人と女が二人だ。
遠目から見ても遺体の損傷が酷い。事切れているのは一目瞭然だった。腹は抉られ、腕は無くなっている。どの遺体も五体満足では無かった。
衝撃的な光景にサナの足が止まりかける。だがすぐにウォーデンが叫んだ。
「足を止めるな!!!」
いつもとは違う真剣な声にサナは驚きながらもすぐに従った。
その一瞬後、洞窟の天井を突き破り、巨大な白蛇が姿を現した。
その洞窟は見上げる程に巨大だ。横幅も広く、十人は横に並んで歩ける位には大きい。
五階層は四階層までとは違い、森と洞窟の層だ。
森の中に隠されるようにして無数の洞窟が存在する。その中でも下層へと続く階段がある洞窟はたったの一つ。
無数にある洞窟の中から正解を引き当てなければならないのだ。
そして正解を引き当てられたとしても洞窟内は無数の分岐路があり迷宮の名に相応しい迷路になっている。
俺たちには地図があるからいいものの、これを攻略した先人達には頭が上がらない。
洞窟内に出現する魔物は主に三種類。
一階層でも出現するブラックヴァイパーに始まり、二つの首を持つツインヘッドスネーク。蝙蝠の羽を持つバットヴァイパーだ。
余談だが、奈落の森に出現する魔物は大抵ヴァイパーかスネークと名前が付いている。
付いていないのはそれ以上に強力な魔物だけだ。
簡単に分けるとヴァイパーが毒ありでスネークが毒なしだ。
「キィイイイイイ!!!」
甲高い鳴き声を上げながら天井から十体程のバットヴァイパーが襲いかかってくる。
それをウォーデンとカナタの魔術が容易く殲滅する。
俺とサナは正面から迫り来るツインヘッドスネークを相手取る。しかしどれもA級の魔物だ。やはり俺たちの脅威にはならず一撃で倒すことができた。
怪我なんてしない物だから、当然アイリスの出番も来ない。カノンですらここにくるまで一度も魔術を使っていない。
「私、いる意味ありますかね?」
「下層に行くまではないかもな」
「ですよね~。まあ怪我なんてしない方がいいですし!」
その後、大地を揺らしながら襲いかかってきたブラックヴァイパーを一刀の元に斬り伏せる。
……ん?
そこで俺は違和感に眉を顰めた。ほんの少しだけ手応えが違うような気がした。
「どうした?」
手の感触を確かめていると目敏く俺の様子に気が付いたカナタが声をかけてきた。
「……カナタは何か感じたか?」
「いや、俺は特に」
「オレも瞬殺のようにしか見えなったぞ」
話を聞いていたウォーデンも感じていないらしい。
S級冒険者が感じていないのなら思い過ごしかもしれない。
「なら……」
いい。と言いかけて口を噤んだ。
些細な違和感でも共有しておいた方が万が一を防げる。ここは戦場だという事を忘れてはならない。
「少し……。ほんの少しだけ魔物が強くなった気がする。正確には硬くなった……か?」
ブラックヴァイパーを斬った時に、前に倒した個体よりも僅かに硬かった気がした。
個体差と言われたらそれまでだが、ここに来るまでにブラックヴァイパーは山程斬ってきた。なのに違和感を覚えたのは初めてだ。
これは果たして偶然なのか。
「ちなみにサナは何か感じたか?」
「私もカナタと同じく何も」
同じ前衛であるサナが何も感じなかったというなら勘違いの可能性が高くなる。
「……気のせいか?」
「いや。例えそれが些細な事でも警戒はするべきだ。オレはそれを怠って死んだヤツを何人も見てる。冒険者は臆病なぐらいが丁度いいんだ」
ウォーデンの言葉には実感が籠っていた。
「だからここからは何か異常事態が起きていると仮定して進む。各自、何か気付いたことがあれば逐一報告してくれ」
全員が頷き、再び歩き出した。
残りの五階層と六階層は特に何事もなく抜けた。拍子抜けする程あっさりと。というのも六階層に出現する魔物はブラックヴァイパーだけで特に道が入り組んでいるわけでは無いのだ。
先程の違和感など無かったかのように俺たちは七階層へと辿り着いた。
七階層は階段を降りるなり洞窟だった。この層は全体が洞窟となっている。
森の要素もしっかりとある。奇妙なことに天井から逆さまに木が生えているのだ。
「迷宮ってのはなんでもありなのか?」
「基本的になんでもありだな。オレが見た中で一番おどろいたのは時間で重力が反転する迷宮だ」
「なんだそれ……。聞くだけでめんどくさそうだな……」
「反転する時間も層によって違ってな。天井が高い所に行って運悪く反転したら大怪我だ。下手したら死ぬ。戦闘中もお構いなしなもんだから熟練者が体勢を崩して致命傷を負ったなんて事もザラにある。そんなのと比べればここはまだまだ良心的だな」
「たしかに警戒するのは魔物だけでいいもんな」
「その魔物がひたすらに強いのが難点だがな」
そんな軽口を叩きながら七階層を進む。しばらく進むとウォーデンが地図を確認しながら言った。
「この先はしばらく一本道だ。スリーカウントで走り抜けるぞ」
迷宮で一本道というのは危険度が跳ね上がる。何せ逃げ場がない。前方の魔物との戦闘に時間をかけ過ぎると後ろから来た魔物に囲まれてしまう。
だから冒険者はこういう一本道では素早く駆け抜ける。
「三、二、一。ゴー!」
ウォーデンのカウントに合わせ、全員で走り出す。
既に何度か同じ事をしているので遅れる者はいない。後衛のアイリスとカノンも全く遅れていない。
走る事およそ一分。一本道も中盤に差し掛かったあたりで前方に影が見えた。
足は止めない。俺は刀を抜き放つといつでも攻撃できるように構える。
そしてソレがはっきりと見えた。
冒険者の遺体だ。
それも五人。男が三人と女が二人だ。
遠目から見ても遺体の損傷が酷い。事切れているのは一目瞭然だった。腹は抉られ、腕は無くなっている。どの遺体も五体満足では無かった。
衝撃的な光景にサナの足が止まりかける。だがすぐにウォーデンが叫んだ。
「足を止めるな!!!」
いつもとは違う真剣な声にサナは驚きながらもすぐに従った。
その一瞬後、洞窟の天井を突き破り、巨大な白蛇が姿を現した。
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