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氷姫救出編
奈落の森
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奈落の森。
蛇型の魔物が数多く存在する迷宮だ。
他には蛇と言われて想像するように毒を持つ魔物が多い。その為、解毒できる魔術師が重要になってくる。
迷宮というものは深くなればなるほど出現する魔物が強力になる。
S級迷宮の下層にはA級の魔物が出没する。その為、一階層に出現する魔物から迷宮の深度を判別できる。
迷宮の等級は暫定と確定で分けられる。
暫定は一階層に出現する魔物で判断した等級、確定は階層数で判断した等級だ。
暫定の場合は一階層に出現した魔物の一つ上の等級が付けられる。
確定の場合、五階層はE級。
十階層はD級。
二十階層はC級。
三十階層はB級。
四十階層はA級。
そして五十階層を超えるとS級に認定される。奈落の森は文句なしの確定S級だ。
現在、奈落の森の最終到達地点は七十六階層。
その上、この七十六階層という記録も最終到達地点であって最下層ではない。
今から約三年前。
奈落の森の踏破を目的とした攻略が行われた。
総勢百名を超えるパーティで挑んだが最下層までは辿り着けなかった。死者が出過ぎた為、断念されたのだ。
生還したのは僅か八名。それでこの奈落の森がどれだけ過酷な迷宮かがわかるだろう。
はたして奈落の森が何階層あるのか。それを知る者はいない。
確かなのはまだまだ下が存在する事だ。このパーティが断念する直前、降り階段を発見している。
階段を降り切ってまず感じたのは香りだ。
新鮮で澄んだ木々の香りが鼻腔をくすぐる。それから音。風に揺れた葉の騒めきが聞こえてくる。
奈落の森とはよく言ったものだ。視界いっぱいには正しく森が広がっていた。
頭上に視線を向ければ木々の隙間から太陽を模した球体が見える。それは燦々と輝きを放ち、木々の隙間から木漏れ日が差し込んでいる。
ここが地下にある空間だとはとても信じられない光景だ。
だが感心している場合では無い。
前方から地響きを立てて何かが近づいてくる。
「くるぞ!」
木々の間から姿を現したのは大蛇だ。
その名もブラックヴァイパー。
十メートルを優に超える大きさで体表は黒光りする強靭な鱗で覆われている。
俺が見た本によると、攻撃方法はその巨大な体躯を駆使した体当たりと、鋭い牙による噛みつき。それと一番厄介な毒だ。
この毒は噛みつかれるのはもちろんのこと飛ばしてきたり霧状に噴射してきたりとさまざまな攻撃方法がある。
ランクはA級。中でも上位に位置する魔物だ。
……だけどA級如き俺の敵ではない。
俺は刀を抜くことすらせずに前方に配置していた黒刀の二本を操り、切先をブラックヴァイパーへ向ける。そして照準を定める。
「サナ。真ん中の一匹は頼んだ」
「まっかせて!」
サナが腰を落とし、抜刀の構えを取る。
俺が黒刀を射出するのと、サナが距離を詰めるのは同時だった。
俺は目を見張った。
今のは縮地だ。俺が見た爺の縮地と同じく足元に魔力の残滓が残っている。サナが使ったのは俺の紛い物とは違い、本物だ。
聖刀が光の軌跡を残して一閃される。
それだけでブラックヴァイパーの強靭な鱗で覆われた首をバターを切るかのように切断した。
黒刀が残り二体の眉間に深々と突き刺さる。
襲いかかってきたブラックヴァイパーは三体とも血飛沫を上げながら崩れ落ちた。
サナが刀についた血を払い納刀して、こちらに振り返ってピースした。
「どんなもんよ!」
……これが勇者か。
まさかこれほどとは思っていなかった。成長速度が凄まじい。道場に通っていた時から剣の才能はあったが、勇者となってそれが飛躍的に向上している。
旅の途中に戦っているのは見たがあまり強くない相手ばかりでサナも本気を出していなかったのだろう。
「……サナ。お前いつの間に縮地なんて使えるようになったんだ?」
黒刀を元の配置に戻しながら言う。
「屋敷が襲われた時にレイが使ってたのを見ていけるかなーって」
「……おい。……いや俺も人の事言えないか」
こんなところで爺と同じ気持ちを味わうことになるとは思わなかった。
「縮地なんて使える魔術師は日本でも数人だぞ。レイとサナを見てると常識がガラガラと崩れてくな」
「そんな難しいのか?」
「当たり前だ。お前らは普通に使ってるけどな高等技術だぞ? それも超がつく程な。見様見真似で出来るわけがない」
その言葉には苦笑を浮かべるしかない。
「カナタは使えないの?」
ニマニマとした笑みを浮かべながらサナが聞いた。カナタは盛大に顔を顰めていた。
「できると言えばできる」
「どういうこと?」
サナが小首を傾げる。俺も同じ思いだ。
とそんな時、また地響きがして魔物が近付いてくる気配を感じ取った。
「いい所に来たな。まあ見てろ」
カナタが前に出て刀を構える。先程のサナと同じように腰を落とした抜刀の構えだ。すると足元に魔力が集まっていくのを感じる。それがバチバチと音を立てて帯電していく。
木々の間から出てきたブラックヴァイパーは二体。巨大な身体をくねらせながら突撃してくる。
――ズドン。
カナタの姿が掻き消え、稲妻が落ちたような轟音が鳴り響いた。それもほとんど同時に二回。
一瞬にしてブラックヴァイパー二体の首が宙を舞う。
俺たちが倒した時とは違い血飛沫が出なかった。断面を見れば肉が焼け焦げていた。
第一封印しか解除していないとは言え、俺ですら目で追うのがやっとだった。おそらくブラックヴァイパーは死んだことにすら気づいていないだろう。それほどの速度だった。
何が起きたのかと言うと、カナタはまず一太刀で一体目を斬った。驚くべきはここからだ。カナタは空中で縮地らしき物を使ったのだ。
それにより強引に方向転換し、もう一体を斬った。
当然ながら俺とサナが使う縮地は空中では使う事などできない。地面に足が触れていることが条件なのだ。
「これが我流の縮地だ。俺は瞬雷って呼んでる」
「なるほど。だからできると言えばできるなのか」
「そう言う事だ」
「オレからしたら三人とも同じぐらい常識はずれだけどな。勇者クラスが三人ってもうわけわからん」
後ろで聞いていたウォーデンが乾いた笑いを漏らした。
「……ん。……わたしもそう思う」
「私もです」
カノンとアイリスも頷いた。
そこから先は順調そのものだった。
特に苦戦することも無く進んでいく。地図を見ているので道に迷うこともない。
最終到達地点である七十六階層までの地図は金を払えば簡単に入手できる。
俺たちも例には漏れずに購入済みだ。というかウォーデンがいつの間にか人数分を入手していた。
一階層ずつ最短距離で進んでいく。
出てくる魔物も種類は変われどA級ばかり。
ウォーデンによると五十階層を超えると文字通り次元が違うらしいので本番は明日だ。
そして五階層の半ばに差し掛かった時、ほんの僅かな異変が起きた。
蛇型の魔物が数多く存在する迷宮だ。
他には蛇と言われて想像するように毒を持つ魔物が多い。その為、解毒できる魔術師が重要になってくる。
迷宮というものは深くなればなるほど出現する魔物が強力になる。
S級迷宮の下層にはA級の魔物が出没する。その為、一階層に出現する魔物から迷宮の深度を判別できる。
迷宮の等級は暫定と確定で分けられる。
暫定は一階層に出現する魔物で判断した等級、確定は階層数で判断した等級だ。
暫定の場合は一階層に出現した魔物の一つ上の等級が付けられる。
確定の場合、五階層はE級。
十階層はD級。
二十階層はC級。
三十階層はB級。
四十階層はA級。
そして五十階層を超えるとS級に認定される。奈落の森は文句なしの確定S級だ。
現在、奈落の森の最終到達地点は七十六階層。
その上、この七十六階層という記録も最終到達地点であって最下層ではない。
今から約三年前。
奈落の森の踏破を目的とした攻略が行われた。
総勢百名を超えるパーティで挑んだが最下層までは辿り着けなかった。死者が出過ぎた為、断念されたのだ。
生還したのは僅か八名。それでこの奈落の森がどれだけ過酷な迷宮かがわかるだろう。
はたして奈落の森が何階層あるのか。それを知る者はいない。
確かなのはまだまだ下が存在する事だ。このパーティが断念する直前、降り階段を発見している。
階段を降り切ってまず感じたのは香りだ。
新鮮で澄んだ木々の香りが鼻腔をくすぐる。それから音。風に揺れた葉の騒めきが聞こえてくる。
奈落の森とはよく言ったものだ。視界いっぱいには正しく森が広がっていた。
頭上に視線を向ければ木々の隙間から太陽を模した球体が見える。それは燦々と輝きを放ち、木々の隙間から木漏れ日が差し込んでいる。
ここが地下にある空間だとはとても信じられない光景だ。
だが感心している場合では無い。
前方から地響きを立てて何かが近づいてくる。
「くるぞ!」
木々の間から姿を現したのは大蛇だ。
その名もブラックヴァイパー。
十メートルを優に超える大きさで体表は黒光りする強靭な鱗で覆われている。
俺が見た本によると、攻撃方法はその巨大な体躯を駆使した体当たりと、鋭い牙による噛みつき。それと一番厄介な毒だ。
この毒は噛みつかれるのはもちろんのこと飛ばしてきたり霧状に噴射してきたりとさまざまな攻撃方法がある。
ランクはA級。中でも上位に位置する魔物だ。
……だけどA級如き俺の敵ではない。
俺は刀を抜くことすらせずに前方に配置していた黒刀の二本を操り、切先をブラックヴァイパーへ向ける。そして照準を定める。
「サナ。真ん中の一匹は頼んだ」
「まっかせて!」
サナが腰を落とし、抜刀の構えを取る。
俺が黒刀を射出するのと、サナが距離を詰めるのは同時だった。
俺は目を見張った。
今のは縮地だ。俺が見た爺の縮地と同じく足元に魔力の残滓が残っている。サナが使ったのは俺の紛い物とは違い、本物だ。
聖刀が光の軌跡を残して一閃される。
それだけでブラックヴァイパーの強靭な鱗で覆われた首をバターを切るかのように切断した。
黒刀が残り二体の眉間に深々と突き刺さる。
襲いかかってきたブラックヴァイパーは三体とも血飛沫を上げながら崩れ落ちた。
サナが刀についた血を払い納刀して、こちらに振り返ってピースした。
「どんなもんよ!」
……これが勇者か。
まさかこれほどとは思っていなかった。成長速度が凄まじい。道場に通っていた時から剣の才能はあったが、勇者となってそれが飛躍的に向上している。
旅の途中に戦っているのは見たがあまり強くない相手ばかりでサナも本気を出していなかったのだろう。
「……サナ。お前いつの間に縮地なんて使えるようになったんだ?」
黒刀を元の配置に戻しながら言う。
「屋敷が襲われた時にレイが使ってたのを見ていけるかなーって」
「……おい。……いや俺も人の事言えないか」
こんなところで爺と同じ気持ちを味わうことになるとは思わなかった。
「縮地なんて使える魔術師は日本でも数人だぞ。レイとサナを見てると常識がガラガラと崩れてくな」
「そんな難しいのか?」
「当たり前だ。お前らは普通に使ってるけどな高等技術だぞ? それも超がつく程な。見様見真似で出来るわけがない」
その言葉には苦笑を浮かべるしかない。
「カナタは使えないの?」
ニマニマとした笑みを浮かべながらサナが聞いた。カナタは盛大に顔を顰めていた。
「できると言えばできる」
「どういうこと?」
サナが小首を傾げる。俺も同じ思いだ。
とそんな時、また地響きがして魔物が近付いてくる気配を感じ取った。
「いい所に来たな。まあ見てろ」
カナタが前に出て刀を構える。先程のサナと同じように腰を落とした抜刀の構えだ。すると足元に魔力が集まっていくのを感じる。それがバチバチと音を立てて帯電していく。
木々の間から出てきたブラックヴァイパーは二体。巨大な身体をくねらせながら突撃してくる。
――ズドン。
カナタの姿が掻き消え、稲妻が落ちたような轟音が鳴り響いた。それもほとんど同時に二回。
一瞬にしてブラックヴァイパー二体の首が宙を舞う。
俺たちが倒した時とは違い血飛沫が出なかった。断面を見れば肉が焼け焦げていた。
第一封印しか解除していないとは言え、俺ですら目で追うのがやっとだった。おそらくブラックヴァイパーは死んだことにすら気づいていないだろう。それほどの速度だった。
何が起きたのかと言うと、カナタはまず一太刀で一体目を斬った。驚くべきはここからだ。カナタは空中で縮地らしき物を使ったのだ。
それにより強引に方向転換し、もう一体を斬った。
当然ながら俺とサナが使う縮地は空中では使う事などできない。地面に足が触れていることが条件なのだ。
「これが我流の縮地だ。俺は瞬雷って呼んでる」
「なるほど。だからできると言えばできるなのか」
「そう言う事だ」
「オレからしたら三人とも同じぐらい常識はずれだけどな。勇者クラスが三人ってもうわけわからん」
後ろで聞いていたウォーデンが乾いた笑いを漏らした。
「……ん。……わたしもそう思う」
「私もです」
カノンとアイリスも頷いた。
そこから先は順調そのものだった。
特に苦戦することも無く進んでいく。地図を見ているので道に迷うこともない。
最終到達地点である七十六階層までの地図は金を払えば簡単に入手できる。
俺たちも例には漏れずに購入済みだ。というかウォーデンがいつの間にか人数分を入手していた。
一階層ずつ最短距離で進んでいく。
出てくる魔物も種類は変われどA級ばかり。
ウォーデンによると五十階層を超えると文字通り次元が違うらしいので本番は明日だ。
そして五階層の半ばに差し掛かった時、ほんの僅かな異変が起きた。
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