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氷姫救出編
白大蛇ホワイトガンド
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大きく開いた口が冒険者たちの遺体を呑み込んだ。
迷宮の地面がごっそりと消えて、白蛇の腹の中へと消えていく。
白蛇の名はホワイトガンド。
白く輝く鱗を持つ蛇だ。その姿は幻想的で神秘的。地球では白蛇の事を「神の使い」だなんて言うけれど、その言葉に違わず美しい。魔物だというのに神々しさすら感じる。
身体は凄まじく大きい。ブラックヴァイパーでさえ巨大だと思っていたが白大蛇と比べるとまるで赤子だ。
顔の大きさだけでも俺の身長の二倍はある。
白大蛇の事は奈落の森を攻略しようとする者ならば誰もが知っている程、有名だ。なにせ三年前、攻略パーティを壊滅させた直接的な原因がコイツだからな。
記録によると今のように天井や壁、地面からの奇襲で冒険者たちは次々と殺されていったらしい。
その上、冒険者たちの攻撃は白い鱗に阻まれて傷一つ負わせられない始末。結局、白大蛇を倒すことができなかったらしい。
よって付けられた等級は文句なしのS級。それも上位も上位。普通ならばS級冒険者が束になって相手をしなければならない魔物だ。
当然ながら下層に出現していい魔物では無い。少なくとも七十階層クラスだ。
「わかっていたのか?」
「流石にこんな大物が来るとは思わなかったけどな」
額から汗を垂らしたウォーデンが二槍を構えながら頷く。
俺たちが呑み込まれなかったのはウォーデンのおかげだ。あそこで立ち止まっていたら今頃、俺たちは白大蛇の腹の中だ。
ウォーデンが叫んでいなかったらと思うとゾッとする。
「動物型の魔物が多く生息する迷宮で死体が残る事なんてまずない。なにせ殺されたらもれなく全員腹の中だからな。だから死体が残っている場合はまず餌である事を疑う」
「なるほどな」
白大蛇が鎌首をもたげ、こちらを見た。血のように真っ赤な瞳が俺たちを貫いた。
……ん?
身体に違和感がする。原因はわからないが、今攻撃を受けているのは確かだ。白大蛇を倒そうと俺は前に出ようとした。
しかし身体が動かない。完全に硬直していた。
……魔眼か!
蛇型の魔物が持つ魔眼。蛇視とも呼ばれるそれは視界に収めた対象を硬直させる。
日本には「蛇に睨まれた蛙」ということわざがあるが、まさしくその状態にさせられる魔眼だ。
……白大蛇が魔眼を持ってるなんて記録に無かったぞ!
三年前に全滅した冒険者パーティの記録は全て頭に叩き込んでいる。
そこには白大蛇がどれだけ恐ろしい魔物かが事細かに記載されていた。無論、どんな攻撃をしてくるのかも。
白大蛇の攻撃方法は噛みつきや体当たりといった原始的なモノだ。
つまり、目の前にいる個体はなんらかの要因によって魔眼を獲得した変異種だ。
ともかく今のままではまずい。
「第四……封印」
硬直した喉を無理矢理動かして言葉を紡ぐ。
すると危険を察知したのか白大蛇が魔術式を記述した。
……魔術まで使うのか!
それも本来あり得ない事だ。白大蛇が魔術を使ったなんて記録はない。
だが、驚いている場合ではない。
「…………解除!!!」
なんとか封印を解除し胸から闇が溢れ出す。それと同時に白大蛇の魔術式が完成した。
――風属性攻撃魔術:風刃乱舞
放たれるは不可視の風刃。それが無数に襲いかかってくる。
俺は闇を壁のようにして広げる。防御という目的もあるが一番は視界を遮る事だ。それで蛇視の影響から逃れられる。
……まずは鬱陶しい眼から潰す!
周囲に配置していた黒刀の一本を手に取る。そして闇の壁に小さな穴を開ける。
その瞬間、白大蛇と目が合った。身体が硬直する。だが第四封印まで解除した俺の前では少し動きが阻害される程度でしかない。
偽剣を放つ障害にはならない。
「第五偽剣、葬刀」
虚空を斬った斬撃が白大蛇の右眼を正確に潰す。
「キィィィィィイイイ!!!」
甲高い悲鳴をあげて白大蛇が仰反る。視線が外れ完全に硬直が解ける。
俺は配置していたもう一本の黒刀を引き寄せ、縮地で突っ込んだ。闇の壁を越え、その先へ。
目指すは白大蛇の頭上。迫り来る不可視の刃は二刀で全て斬り伏せる。
空中で二刀を大太刀に変え、大上段に構える。全ての闇が刀身に収束していく。
「第三偽剣、断黒」
斬撃が黒の軌跡を描いて放たれる。それはまるで断頭台から落とされる刃のよう。
硬い鱗に守られた白大蛇の首をいとも簡単に切断した。
大地に轟音を響かせながら首が落ちる。
切断面から血飛沫があがり、土煙を上げて白大蛇が崩れ落ちた。
俺は返り血を浴びないように地面に着地すると縮地を使い、 みんなの元へ戻った。
「さて。明らかに異常事態だが、ウォーデン。どうする?」
呆然としていたウォーデンが俺の声を聞いて我に返る。
「あ、ああ。撤退だ。この異常事態を報告しなきゃいけない。先頭はサナ。殿はレイ。たの――」
ウォーデンの言葉を遮るように洞窟全体が揺れた。
その揺れはあまりに大きく、立っていられない程だ。異常事態は終わっていない。
「なんだ!?」
壁を突き破り、次々に姿を表したのは三体の白大蛇。
一体であれば先程のように難なく倒せるが三体ともなれば話は変わる。
白大蛇たちがこちらを一斉に視た。身体が硬直する。
……こいつら三体とも魔眼持ちか!
第四封印を解除しているとはいえ三重になった蛇視は強力だ。身体が言うことを聞かない。
だがそこで静かな声が響いた。
「……そなえていれば問題ない」
フッと身体が軽くなり、硬直が解けた。かわりに白大蛇たちが硬直している。
「……呪詛返し」
「助かる!」
闇で鞘を作り、大太刀を納刀。縮地を使い、三体の白大蛇の中心に突っ込む。
「……第一偽剣、刀界・絶刀無双」
無数の斬撃が、白大蛇を細切れにした。
だが、息をつく暇はない。
今度は洞窟の奥から地響きが聞こえてきた。目を凝らすと、魔物の大群が押し寄せてくる。
その全てが下層にいてはならないS級の魔物だった。即座に撤退しなくては魔物の濁流に呑み込まれる。
「カナタ! カノンを頼む! ……アイリスちょっと失礼!」
「え? えぇぇぇえええ!?」
俺はアイリスを抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというヤツだ。
ラナを想っている身であまりやりたくはなかったが、意地を張って彼女の妹に怪我をさせる方が問題だ。きっとその方がラナは怒る。
それに今はいち早く撤退しなければならない。だから後衛の速度に合わせるわけにはいかないのだ。
「嫌だと思うけど我慢してくれ」
アイリスは手で顔を覆うと、か細い声で呟いた。
「……別に嫌ではありませんが……。ごめんなさいお姉様」
「ラナはこのぐらいじゃ怒らないよ」
カナタも俺の意図を汲んで、カノンを抱きかかえている。しかしこちらは肩に担ぎ上げる形だった。
カノンは無表情ながらも少し不満そうだ。
「……女の子に対してこの持ち方はどうかと思う」
「そんなの気にしてる場合じゃねぇだろ! 後ろに魔術をぶっ放せ!」
「……仕方ない」
カナタの肩に担ぎ上げられたカノンは必然的に後ろを向いている。まるで固定砲台だ。
カノンは指で輪っかを作り、その中に魔術式を記述した。
同じくカノンの頭上に移動した鴉も「カァ!」と鳴き、口の中に魔術式を記述する。
――呪属性攻撃魔術:呪死妖霧
カノンが指で作った輪に息を吹きかける。すると紫色の霧が噴き出て洞窟を満たしていく。鴉の口からも同じ霧が噴き出している。
「……この霧、吸い込んだら呼吸できなくなるから気をつけて」
「なら早くずらからないとな! サナ! 前方から魔物が来たら道を切り拓いてくれ! ウォーデンはサナの援護を!」
「まかせて!」
「了解!」
そして俺は叫ぶ。
「行くぞ!」
こうして撤退劇が始まった。
迷宮の地面がごっそりと消えて、白蛇の腹の中へと消えていく。
白蛇の名はホワイトガンド。
白く輝く鱗を持つ蛇だ。その姿は幻想的で神秘的。地球では白蛇の事を「神の使い」だなんて言うけれど、その言葉に違わず美しい。魔物だというのに神々しさすら感じる。
身体は凄まじく大きい。ブラックヴァイパーでさえ巨大だと思っていたが白大蛇と比べるとまるで赤子だ。
顔の大きさだけでも俺の身長の二倍はある。
白大蛇の事は奈落の森を攻略しようとする者ならば誰もが知っている程、有名だ。なにせ三年前、攻略パーティを壊滅させた直接的な原因がコイツだからな。
記録によると今のように天井や壁、地面からの奇襲で冒険者たちは次々と殺されていったらしい。
その上、冒険者たちの攻撃は白い鱗に阻まれて傷一つ負わせられない始末。結局、白大蛇を倒すことができなかったらしい。
よって付けられた等級は文句なしのS級。それも上位も上位。普通ならばS級冒険者が束になって相手をしなければならない魔物だ。
当然ながら下層に出現していい魔物では無い。少なくとも七十階層クラスだ。
「わかっていたのか?」
「流石にこんな大物が来るとは思わなかったけどな」
額から汗を垂らしたウォーデンが二槍を構えながら頷く。
俺たちが呑み込まれなかったのはウォーデンのおかげだ。あそこで立ち止まっていたら今頃、俺たちは白大蛇の腹の中だ。
ウォーデンが叫んでいなかったらと思うとゾッとする。
「動物型の魔物が多く生息する迷宮で死体が残る事なんてまずない。なにせ殺されたらもれなく全員腹の中だからな。だから死体が残っている場合はまず餌である事を疑う」
「なるほどな」
白大蛇が鎌首をもたげ、こちらを見た。血のように真っ赤な瞳が俺たちを貫いた。
……ん?
身体に違和感がする。原因はわからないが、今攻撃を受けているのは確かだ。白大蛇を倒そうと俺は前に出ようとした。
しかし身体が動かない。完全に硬直していた。
……魔眼か!
蛇型の魔物が持つ魔眼。蛇視とも呼ばれるそれは視界に収めた対象を硬直させる。
日本には「蛇に睨まれた蛙」ということわざがあるが、まさしくその状態にさせられる魔眼だ。
……白大蛇が魔眼を持ってるなんて記録に無かったぞ!
三年前に全滅した冒険者パーティの記録は全て頭に叩き込んでいる。
そこには白大蛇がどれだけ恐ろしい魔物かが事細かに記載されていた。無論、どんな攻撃をしてくるのかも。
白大蛇の攻撃方法は噛みつきや体当たりといった原始的なモノだ。
つまり、目の前にいる個体はなんらかの要因によって魔眼を獲得した変異種だ。
ともかく今のままではまずい。
「第四……封印」
硬直した喉を無理矢理動かして言葉を紡ぐ。
すると危険を察知したのか白大蛇が魔術式を記述した。
……魔術まで使うのか!
それも本来あり得ない事だ。白大蛇が魔術を使ったなんて記録はない。
だが、驚いている場合ではない。
「…………解除!!!」
なんとか封印を解除し胸から闇が溢れ出す。それと同時に白大蛇の魔術式が完成した。
――風属性攻撃魔術:風刃乱舞
放たれるは不可視の風刃。それが無数に襲いかかってくる。
俺は闇を壁のようにして広げる。防御という目的もあるが一番は視界を遮る事だ。それで蛇視の影響から逃れられる。
……まずは鬱陶しい眼から潰す!
周囲に配置していた黒刀の一本を手に取る。そして闇の壁に小さな穴を開ける。
その瞬間、白大蛇と目が合った。身体が硬直する。だが第四封印まで解除した俺の前では少し動きが阻害される程度でしかない。
偽剣を放つ障害にはならない。
「第五偽剣、葬刀」
虚空を斬った斬撃が白大蛇の右眼を正確に潰す。
「キィィィィィイイイ!!!」
甲高い悲鳴をあげて白大蛇が仰反る。視線が外れ完全に硬直が解ける。
俺は配置していたもう一本の黒刀を引き寄せ、縮地で突っ込んだ。闇の壁を越え、その先へ。
目指すは白大蛇の頭上。迫り来る不可視の刃は二刀で全て斬り伏せる。
空中で二刀を大太刀に変え、大上段に構える。全ての闇が刀身に収束していく。
「第三偽剣、断黒」
斬撃が黒の軌跡を描いて放たれる。それはまるで断頭台から落とされる刃のよう。
硬い鱗に守られた白大蛇の首をいとも簡単に切断した。
大地に轟音を響かせながら首が落ちる。
切断面から血飛沫があがり、土煙を上げて白大蛇が崩れ落ちた。
俺は返り血を浴びないように地面に着地すると縮地を使い、 みんなの元へ戻った。
「さて。明らかに異常事態だが、ウォーデン。どうする?」
呆然としていたウォーデンが俺の声を聞いて我に返る。
「あ、ああ。撤退だ。この異常事態を報告しなきゃいけない。先頭はサナ。殿はレイ。たの――」
ウォーデンの言葉を遮るように洞窟全体が揺れた。
その揺れはあまりに大きく、立っていられない程だ。異常事態は終わっていない。
「なんだ!?」
壁を突き破り、次々に姿を表したのは三体の白大蛇。
一体であれば先程のように難なく倒せるが三体ともなれば話は変わる。
白大蛇たちがこちらを一斉に視た。身体が硬直する。
……こいつら三体とも魔眼持ちか!
第四封印を解除しているとはいえ三重になった蛇視は強力だ。身体が言うことを聞かない。
だがそこで静かな声が響いた。
「……そなえていれば問題ない」
フッと身体が軽くなり、硬直が解けた。かわりに白大蛇たちが硬直している。
「……呪詛返し」
「助かる!」
闇で鞘を作り、大太刀を納刀。縮地を使い、三体の白大蛇の中心に突っ込む。
「……第一偽剣、刀界・絶刀無双」
無数の斬撃が、白大蛇を細切れにした。
だが、息をつく暇はない。
今度は洞窟の奥から地響きが聞こえてきた。目を凝らすと、魔物の大群が押し寄せてくる。
その全てが下層にいてはならないS級の魔物だった。即座に撤退しなくては魔物の濁流に呑み込まれる。
「カナタ! カノンを頼む! ……アイリスちょっと失礼!」
「え? えぇぇぇえええ!?」
俺はアイリスを抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというヤツだ。
ラナを想っている身であまりやりたくはなかったが、意地を張って彼女の妹に怪我をさせる方が問題だ。きっとその方がラナは怒る。
それに今はいち早く撤退しなければならない。だから後衛の速度に合わせるわけにはいかないのだ。
「嫌だと思うけど我慢してくれ」
アイリスは手で顔を覆うと、か細い声で呟いた。
「……別に嫌ではありませんが……。ごめんなさいお姉様」
「ラナはこのぐらいじゃ怒らないよ」
カナタも俺の意図を汲んで、カノンを抱きかかえている。しかしこちらは肩に担ぎ上げる形だった。
カノンは無表情ながらも少し不満そうだ。
「……女の子に対してこの持ち方はどうかと思う」
「そんなの気にしてる場合じゃねぇだろ! 後ろに魔術をぶっ放せ!」
「……仕方ない」
カナタの肩に担ぎ上げられたカノンは必然的に後ろを向いている。まるで固定砲台だ。
カノンは指で輪っかを作り、その中に魔術式を記述した。
同じくカノンの頭上に移動した鴉も「カァ!」と鳴き、口の中に魔術式を記述する。
――呪属性攻撃魔術:呪死妖霧
カノンが指で作った輪に息を吹きかける。すると紫色の霧が噴き出て洞窟を満たしていく。鴉の口からも同じ霧が噴き出している。
「……この霧、吸い込んだら呼吸できなくなるから気をつけて」
「なら早くずらからないとな! サナ! 前方から魔物が来たら道を切り拓いてくれ! ウォーデンはサナの援護を!」
「まかせて!」
「了解!」
そして俺は叫ぶ。
「行くぞ!」
こうして撤退劇が始まった。
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