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第一章 別れの後に、出会いがある。
その男、恋敵につき。
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「……さて、と」
(悲しい願いと書いて)悲願達成し、ラブホを一人で抜け出したはいいものの、まだ外は真っ暗だった。
そりゃ、そーだ。
時計を見ると、まもなく午前3時を回ろうとしているところだ。
「……ふーう」
いや、いっそ清々しいほどのピンチじゃん。
始発まで、あとまだ1時間以上もある。俺はあと、1時間以上も女装したままで(なんで女の子の服ってこんなに薄いの!?)、クリスマスに、こんな姿で街中をうろついてないといけないのか……?
うっかりネットカフェでも入ったら、朝までぐうすか寝ちまいそうだし、ビジネスホテルは……いや、無理だな。変質者扱いで通報されかねねーし……。
ふと、こんなときに思い浮かぶのは、いつだって、「たろさん」のことだ。
たろさんは、俺が高校時代に山田と連れ立って、よく行ってた本屋のバイトの人なんだけど、なんと名前を山田太郎という。
山田とごっちゃになるから、「たろさん」と呼ばせてもらってるけど、たろさんは、その平凡すぎる名に相応しくないくらい、めちゃくちゃイケメンな人だ。
俺らは、ただの「本屋の店員と、客」っていう、薄い関係ではあるんだけど、でも俺たちには絶対的に分厚すぎる共通点があった。
俺と、たろさんとは、なんと恋敵なのだ。
初めて、そのことを知ったとき、めちゃくちゃ驚いたし、フツーに信じられなかった。だって、たろさんみたいなイケメンが、なんでわざわざ山田を好きになるんだよ、ジョーダンだろと、俺はちょっと詰め寄っちゃったかもしんない。(もち、山田もめちゃくちゃイケメンなんだけどな、ぐふふ)
……そのときに、俺は、たろさんにゲイであることを教えてもらったってわけ。
しかも聞いてみれば、たろさんが山田を好きになったの、まだ俺たちが高校生のときらしくて、ほぼ俺と片想い歴がおんなじだったから、マジでビビったんだけども。
まったく、山田も罪作りな男だよなあー。
――そもそも、たろさんに声をかけたのは、俺の方だった――
大学に入って、ほぼ山田と音信不通になっちゃった俺は、たまに暇なときなんかに気が向くと、駅前の本屋に立ち寄るようになっていた。
そこは、いわゆる高校時代に、よく山田と2人で通っていた本屋で……。まあ、正直、ワンチャン山田に会えるかもと期待していたわけだが、何度行っても全く会える気がしなかったから、思いきって店員さんに声をかけてみたのがきっかけ。
「……あのう」
「あ、大吉クンなら来てないよ、卒業してから一度も来てない(早口)」
「……えっと」
……ん?
俺まだ何も言ってねーよな……?
え?
なに、この人……えっ、コワイ……!
いや、まさか、たまたま話しかけた本屋のバイトが恋のライバルだなんてフツー思わないじゃん? しかも、たろさん、山田との恋に願掛けして、もうずっと、髪の毛切ってないらしくて、めっちゃロン毛なんだわ。
でもそれ、何のための努力? 本屋の店員だから、客に声かけることもできねーし、ましてやナンパするなんてぜってえー無理だし(そんなん俺が許さねえし)、ロン毛やって何か意味あんの?
だけど、そう言えば言うほど、全部がぜんぶブーメランで、自分にも跳ね返ってきちゃうわけで……。
山田に会えるわけでもないのに、何で本屋に通ってんの? 奇跡的な運命みたいにバッタリ会えるとでも思ってる? 月9じゃねえーんだからさ!
……そんで、俺たちは、なんかめちゃくちゃ仲良しになったんだよな。恋敵だってのにさ、ウケる。
でもさ……。
限りなく報われない恋敵同士ってところで、仲間意識が爆上がりしたんだわ。
それから、ちょっと寂しいときとか、心にすき間風が吹いたときみたいなさ……あと、単純に山田の件で愚痴りたいときなんかに、気づいたら本屋に行くようになってて、しばらくしてLINE交換してからは、お互いたまに電話もする仲なんだよな。
まあ、フツーなら恋敵と仲良くなるだなんて、あり得ないんだろうけどさ。
俺にしてみりゃ、山田の話を気兼ねなくできる相手なんて、初めてだったから。そっちの方が重要だったってワケ。だって、人間って、誰だって話したいし、話を聞いてほしくてたまらない生き物だろ?
そんなわけで、俺は、気づけばたろさんに電話を掛けていた。
大都会のクリスマス当日、深夜3時の女装姿で。
(悲しい願いと書いて)悲願達成し、ラブホを一人で抜け出したはいいものの、まだ外は真っ暗だった。
そりゃ、そーだ。
時計を見ると、まもなく午前3時を回ろうとしているところだ。
「……ふーう」
いや、いっそ清々しいほどのピンチじゃん。
始発まで、あとまだ1時間以上もある。俺はあと、1時間以上も女装したままで(なんで女の子の服ってこんなに薄いの!?)、クリスマスに、こんな姿で街中をうろついてないといけないのか……?
うっかりネットカフェでも入ったら、朝までぐうすか寝ちまいそうだし、ビジネスホテルは……いや、無理だな。変質者扱いで通報されかねねーし……。
ふと、こんなときに思い浮かぶのは、いつだって、「たろさん」のことだ。
たろさんは、俺が高校時代に山田と連れ立って、よく行ってた本屋のバイトの人なんだけど、なんと名前を山田太郎という。
山田とごっちゃになるから、「たろさん」と呼ばせてもらってるけど、たろさんは、その平凡すぎる名に相応しくないくらい、めちゃくちゃイケメンな人だ。
俺らは、ただの「本屋の店員と、客」っていう、薄い関係ではあるんだけど、でも俺たちには絶対的に分厚すぎる共通点があった。
俺と、たろさんとは、なんと恋敵なのだ。
初めて、そのことを知ったとき、めちゃくちゃ驚いたし、フツーに信じられなかった。だって、たろさんみたいなイケメンが、なんでわざわざ山田を好きになるんだよ、ジョーダンだろと、俺はちょっと詰め寄っちゃったかもしんない。(もち、山田もめちゃくちゃイケメンなんだけどな、ぐふふ)
……そのときに、俺は、たろさんにゲイであることを教えてもらったってわけ。
しかも聞いてみれば、たろさんが山田を好きになったの、まだ俺たちが高校生のときらしくて、ほぼ俺と片想い歴がおんなじだったから、マジでビビったんだけども。
まったく、山田も罪作りな男だよなあー。
――そもそも、たろさんに声をかけたのは、俺の方だった――
大学に入って、ほぼ山田と音信不通になっちゃった俺は、たまに暇なときなんかに気が向くと、駅前の本屋に立ち寄るようになっていた。
そこは、いわゆる高校時代に、よく山田と2人で通っていた本屋で……。まあ、正直、ワンチャン山田に会えるかもと期待していたわけだが、何度行っても全く会える気がしなかったから、思いきって店員さんに声をかけてみたのがきっかけ。
「……あのう」
「あ、大吉クンなら来てないよ、卒業してから一度も来てない(早口)」
「……えっと」
……ん?
俺まだ何も言ってねーよな……?
え?
なに、この人……えっ、コワイ……!
いや、まさか、たまたま話しかけた本屋のバイトが恋のライバルだなんてフツー思わないじゃん? しかも、たろさん、山田との恋に願掛けして、もうずっと、髪の毛切ってないらしくて、めっちゃロン毛なんだわ。
でもそれ、何のための努力? 本屋の店員だから、客に声かけることもできねーし、ましてやナンパするなんてぜってえー無理だし(そんなん俺が許さねえし)、ロン毛やって何か意味あんの?
だけど、そう言えば言うほど、全部がぜんぶブーメランで、自分にも跳ね返ってきちゃうわけで……。
山田に会えるわけでもないのに、何で本屋に通ってんの? 奇跡的な運命みたいにバッタリ会えるとでも思ってる? 月9じゃねえーんだからさ!
……そんで、俺たちは、なんかめちゃくちゃ仲良しになったんだよな。恋敵だってのにさ、ウケる。
でもさ……。
限りなく報われない恋敵同士ってところで、仲間意識が爆上がりしたんだわ。
それから、ちょっと寂しいときとか、心にすき間風が吹いたときみたいなさ……あと、単純に山田の件で愚痴りたいときなんかに、気づいたら本屋に行くようになってて、しばらくしてLINE交換してからは、お互いたまに電話もする仲なんだよな。
まあ、フツーなら恋敵と仲良くなるだなんて、あり得ないんだろうけどさ。
俺にしてみりゃ、山田の話を気兼ねなくできる相手なんて、初めてだったから。そっちの方が重要だったってワケ。だって、人間って、誰だって話したいし、話を聞いてほしくてたまらない生き物だろ?
そんなわけで、俺は、気づけばたろさんに電話を掛けていた。
大都会のクリスマス当日、深夜3時の女装姿で。
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