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【続編】
106:本気で怒らせると怖い
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その優雅さで知られるレオナルドが剣を手に持っている。
これにはマルクスと私が衝撃を受けた。
カロリーナは既に黒の塔に収監されると聞いた時から顔面蒼白になっており、レオナルドが剣を手にしたところで、もはや反応できない状態だった。
アズレークと戦闘経験もあるロレンソは、レオナルドが剣を手にしていても違和感はないようで、静かにこの状況を見守っている。
「では改めて問うこととします。カロリーナさま。僕の婚約者であるパトリシアの友人にかけたあなたの『呪い』、解いてくださりますか?」
レオナルドは見る者がうっとりするような雅な笑みを浮かべ、カロリーナを見た。
もしここで「ノー」と言えば死。
「イエス」であれば黒の塔に収監。
カロリーナの選択は……。
深々と頷いた。何度も、何度も。
「分かりました。『呪い』を解くのに協力いただけるのですね。ではスノーの部屋に案内します。どうやら声を出せないようですが。部屋についたら、それは僕の魔法でなんとかしましょう。ただ、声を出せるようになったからと言って、くれぐれも魔法や『呪い』を使わないでくださいね。もし使った場合どうなるのか……。僕は屋敷で血が流れるのも、部屋が吹き飛ぶのも、本意ではないですから。分かってくださりますか、カロリーナさま」
レオナルドはとても優雅に、ドキッとするような笑顔で、とんでもないことを言っている。この国一の魔術師相手に、しかも目の前で魔法や『呪い』を使えば、自分がどうなるのか。カロリーナもさすがによく分かったようだ。
もうガクガクと首を縦に何度も振っている。
これを見たマルクスは私に囁く。
「魔術師さまを本気で怒らせると怖いってよく分かった。……俺、絶対に魔術師さまが怒ることはしない」
一方のロレンソはこんな風にレオナルドのことを評している。
「魔術師レオナルド様は言葉が巧ですね。具体的に何をするは言っていません。でも屋敷で血が流れるとか、部屋が吹き飛ぶとか、相手の想像力を掻き立て、恐怖を植え付けています。実に見事な心理戦。いえ、心理戦になっていませんね。ドルレアンの魔女はすっかり押されていますから」
カロリーナはレオナルドに言われるまま席から立ち、部屋から出ようとしている。
既にレオナルドは剣を収めていた。間違いなく、魔法で隠している。白の軍服にアイスブルーのローブ姿だが、どこにも剣は見当たらない。つまり帯剣していないと思ったレオナルドが突然、剣を抜いたら、カロリーナではなくても驚くと思う。というか驚いた。剣なんて持たないイメージのレオナルドが剣を手にして、さらに優雅な動作と笑顔で恐ろしいことを口にしたのだ。すっかり毒気を抜かれたのだと思う。
「パトリシアさま、俺達もスノーの部屋に行くだろう?」
「勿論よ!」
マルクスと私、そしてロレンソも、前を行くレオナルドの後を追う。
こうして全員、スノーの部屋に到着した。
スノーの部屋にいた義母のロレナは、見違える姿になったカロリーナを見て「まあ」と驚いた声を出している。
部屋に全員が揃うと、レオナルドはカロリーナをスノーのベッドの傍に立たせた。カロリーナ以外は全員、少し離れた場所にいるレオナルドの背後に控えている。カロリーナの口を封じた魔法を解く直前、レオナルドはロレンソに目配せした。
これはカロリーナにかけた魔法を解除していいという合図だ。
カロリーナには、声が出るかの確認で、無意味な言葉を発するよう、レオナルドが指示を出す。ここでもし魔法を使ったり、『呪い』を発動したら……。間違いない。レオナルドだけではない。ロレンソも動くだろう。レオナルドはカロリーナを制圧し、ロレンソはここにいるマルクス、ロレナ、私を守る――。そう予想ができた。
ついにカロリーナが声を出す。
だが魔法を唱えることも、『呪い』をかけることもない。
声が出ると確認できると、レオナルドはスノーの『呪い』を解くよう促す。カロリーナは頷いた。
そして。
スノーにかけられた『呪い』は解かれた。
マルクス、ロレナ、私はスノーのベッドに駆け寄り、レオナルドはすぐにカロリーナを拘束した。
「ふぁ~っ、あれぇ? どうしたのですか? マルクス兄、お義母さま、パトリシアさま?」
目覚めたスノーはキョトンとしている。
「スノー、お前、心配させやがって」
「スノーちゃん、良かったわ」
「スノー、どこか体におかしいところはない?」
矢継ぎ早に声をかけられ、スノーは「えええ」と驚いている。
私はスノーの頬や手に触れ、体温がじわじわと温かくなっていることを確認した。
「スノーちゃん、あなた『呪い』にかかって、すっかり体が冷たくなって、寝ていたのよ」
ロレナにそう言われたスノーは「そ、そうなのですか!?」と心底ビックリしたという顔になる。
「本当よ、スノー。その『呪い』は私がかかるはずだったの。スノーが食べた林檎、あれに『呪い』が掛けられていたのよ。私の代わりに『呪い』がかかることになって、本当にごめんなさい、スノー」
そう言ってスノーをぎゅっと抱きしめると。スノーも私をぎゅっと抱きしめた。
「パトリシアさまに何もなくてよかったです。スノーはこの通り、元気……」
そこで言葉を切ったので、マルクスの顔が青ざめ、金色の瞳はカロリーナを鋭く睨んだ。ロレンソが素早くスノーに駆け寄り、状態を確認する。カロリーナは「自分は何もしていない」とばかりに首を振っていた。
「脈も正常ですし、体温ももう戻っています。元気がないとしたら……」
スノーの手を持ったまま、ロレンソが美しい笑顔を見せる。
「お腹が空いているのでしょうね。昨日から今の今まで、何も食べていないので」
ロレンソの指摘にスノー自身も「!!」となり、ロレナが「すぐにお食事を用意させるわ、スノーちゃん」と笑顔で告げた。
これにはマルクスと私が衝撃を受けた。
カロリーナは既に黒の塔に収監されると聞いた時から顔面蒼白になっており、レオナルドが剣を手にしたところで、もはや反応できない状態だった。
アズレークと戦闘経験もあるロレンソは、レオナルドが剣を手にしていても違和感はないようで、静かにこの状況を見守っている。
「では改めて問うこととします。カロリーナさま。僕の婚約者であるパトリシアの友人にかけたあなたの『呪い』、解いてくださりますか?」
レオナルドは見る者がうっとりするような雅な笑みを浮かべ、カロリーナを見た。
もしここで「ノー」と言えば死。
「イエス」であれば黒の塔に収監。
カロリーナの選択は……。
深々と頷いた。何度も、何度も。
「分かりました。『呪い』を解くのに協力いただけるのですね。ではスノーの部屋に案内します。どうやら声を出せないようですが。部屋についたら、それは僕の魔法でなんとかしましょう。ただ、声を出せるようになったからと言って、くれぐれも魔法や『呪い』を使わないでくださいね。もし使った場合どうなるのか……。僕は屋敷で血が流れるのも、部屋が吹き飛ぶのも、本意ではないですから。分かってくださりますか、カロリーナさま」
レオナルドはとても優雅に、ドキッとするような笑顔で、とんでもないことを言っている。この国一の魔術師相手に、しかも目の前で魔法や『呪い』を使えば、自分がどうなるのか。カロリーナもさすがによく分かったようだ。
もうガクガクと首を縦に何度も振っている。
これを見たマルクスは私に囁く。
「魔術師さまを本気で怒らせると怖いってよく分かった。……俺、絶対に魔術師さまが怒ることはしない」
一方のロレンソはこんな風にレオナルドのことを評している。
「魔術師レオナルド様は言葉が巧ですね。具体的に何をするは言っていません。でも屋敷で血が流れるとか、部屋が吹き飛ぶとか、相手の想像力を掻き立て、恐怖を植え付けています。実に見事な心理戦。いえ、心理戦になっていませんね。ドルレアンの魔女はすっかり押されていますから」
カロリーナはレオナルドに言われるまま席から立ち、部屋から出ようとしている。
既にレオナルドは剣を収めていた。間違いなく、魔法で隠している。白の軍服にアイスブルーのローブ姿だが、どこにも剣は見当たらない。つまり帯剣していないと思ったレオナルドが突然、剣を抜いたら、カロリーナではなくても驚くと思う。というか驚いた。剣なんて持たないイメージのレオナルドが剣を手にして、さらに優雅な動作と笑顔で恐ろしいことを口にしたのだ。すっかり毒気を抜かれたのだと思う。
「パトリシアさま、俺達もスノーの部屋に行くだろう?」
「勿論よ!」
マルクスと私、そしてロレンソも、前を行くレオナルドの後を追う。
こうして全員、スノーの部屋に到着した。
スノーの部屋にいた義母のロレナは、見違える姿になったカロリーナを見て「まあ」と驚いた声を出している。
部屋に全員が揃うと、レオナルドはカロリーナをスノーのベッドの傍に立たせた。カロリーナ以外は全員、少し離れた場所にいるレオナルドの背後に控えている。カロリーナの口を封じた魔法を解く直前、レオナルドはロレンソに目配せした。
これはカロリーナにかけた魔法を解除していいという合図だ。
カロリーナには、声が出るかの確認で、無意味な言葉を発するよう、レオナルドが指示を出す。ここでもし魔法を使ったり、『呪い』を発動したら……。間違いない。レオナルドだけではない。ロレンソも動くだろう。レオナルドはカロリーナを制圧し、ロレンソはここにいるマルクス、ロレナ、私を守る――。そう予想ができた。
ついにカロリーナが声を出す。
だが魔法を唱えることも、『呪い』をかけることもない。
声が出ると確認できると、レオナルドはスノーの『呪い』を解くよう促す。カロリーナは頷いた。
そして。
スノーにかけられた『呪い』は解かれた。
マルクス、ロレナ、私はスノーのベッドに駆け寄り、レオナルドはすぐにカロリーナを拘束した。
「ふぁ~っ、あれぇ? どうしたのですか? マルクス兄、お義母さま、パトリシアさま?」
目覚めたスノーはキョトンとしている。
「スノー、お前、心配させやがって」
「スノーちゃん、良かったわ」
「スノー、どこか体におかしいところはない?」
矢継ぎ早に声をかけられ、スノーは「えええ」と驚いている。
私はスノーの頬や手に触れ、体温がじわじわと温かくなっていることを確認した。
「スノーちゃん、あなた『呪い』にかかって、すっかり体が冷たくなって、寝ていたのよ」
ロレナにそう言われたスノーは「そ、そうなのですか!?」と心底ビックリしたという顔になる。
「本当よ、スノー。その『呪い』は私がかかるはずだったの。スノーが食べた林檎、あれに『呪い』が掛けられていたのよ。私の代わりに『呪い』がかかることになって、本当にごめんなさい、スノー」
そう言ってスノーをぎゅっと抱きしめると。スノーも私をぎゅっと抱きしめた。
「パトリシアさまに何もなくてよかったです。スノーはこの通り、元気……」
そこで言葉を切ったので、マルクスの顔が青ざめ、金色の瞳はカロリーナを鋭く睨んだ。ロレンソが素早くスノーに駆け寄り、状態を確認する。カロリーナは「自分は何もしていない」とばかりに首を振っていた。
「脈も正常ですし、体温ももう戻っています。元気がないとしたら……」
スノーの手を持ったまま、ロレンソが美しい笑顔を見せる。
「お腹が空いているのでしょうね。昨日から今の今まで、何も食べていないので」
ロレンソの指摘にスノー自身も「!!」となり、ロレナが「すぐにお食事を用意させるわ、スノーちゃん」と笑顔で告げた。
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