上 下
219 / 251
【続編】

107:パトリシア!

しおりを挟む
スノーのために、沢山の料理が用意された。
義母のロレナが見守る中、スノーは旺盛な食欲を見せている。まるでこれまでスキップした食事を取り戻すかのように、出された料理を次々と口へ運んだ。

拘束されたカロリーナは、マルクスとレオナルドが部屋から連れ出した。ロレンソと私は彼らの後を追い、屋敷のエントランスまで向かった。

エントランスにはアルベルト、剣の騎士・ミゲル、弓の騎士・ルイス、彼らに加え、十人ほどの騎士もいる。ロレンソは初めて会うアルベルトと挨拶を交わしたのだが。その様子から察するに。既にアルベルトはロレンソの正体を知っているようだ。同じ王族という立場でありながら、他国で開業医をして街の人に尽くすロレンソに、アルベルトは心からの感謝を伝えている。

ロレンソとの挨拶を終えたアルベルトはレオナルドに向き合った。

「魔術師レオナルド。今回は我々の不手際で、国外追放したはずの罪人が、多大な迷惑をかけることになってしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

アルベルトが頭を下げ、三騎士、残りの騎士も一斉に頭を下げる。

「王太子さま。頭を上げてください。僕もまた王宮に仕える人間の一人。不手際があったというならば。それには僕も関わっていることになるのですから」

レオナルドの言葉にアルベルト他全員が頭を上げる。そしてアルベルトは「まさか魔術師レオナルドに不手際などあるわけがありません」と即否定する。さらに私に向き合うと。

「パトリシア。あなたが『呪い』にかからずに済んだこと、心から安堵しました。その一方で。心優しいあなたのことだ。スノーが『呪い』にかかったと知り、さぞかし辛い気持ちになったでしょう。本当に、あなたにはいつも苦しい思いをさせてしまい、申し訳ないです」

そう言ったアルベルトは。
自然な流れで私の手をとった。

「そんな、王太子さま。確かにスノーが『呪い』にかかったと知った時は悲しくなりました。でもそれも解くことができましたから。もうお気になさらず」

私の言葉を聞いたアルベルトはホッとした様子で微笑み、それを見て私も微笑んだのだが。

アルベルトと私は同時にハッとして、アルベルトは慌てて私の手を離し、私も慌てて手を引っ込めた。同時に二人でレオナルドを見る。レオナルドはニコニコとこちらを見ているが。間違いない。その胸のうちは……落ち着かないはずだ。

この様子を見ていたロレンソがクスクスと笑っている。

ミゲルとルイスは顔を見合わせ、マルクスは思うところがあるようでニヤニヤしていた。

アルベルトは咳ばらいをすると、レオナルドに向き直った。

「いずれにせよ、このようなことが二度とないよう、黒の塔でカロリーナ嬢のことはしっかり監視させてもらいます」

「ええ、ぜひそうしてください」

レオナルドが返事をすると、アルベルトはカロリーナに初めて視線を向けた。カロリーナはエントランスについてからずっと床を見て、アルベルトを直視できない。そんなカロリーナにアルベルトは凛とした声で告げる。

「カロリーナ嬢。あなたとは一時婚約もしていました。その婚約はうまくいかずに終わりましたが、わたしとしてはあなたに敬意を払い、極刑を免れるようにしたつもりです。でもあなたはわたしの恩情を裏切るような行為をされました。もう、あなたを庇うことはかないません。このような結果となり、残念です。せめてもの手向けとして、黒の塔にはわたしが連行させていただくことにしました」

そこで言葉を切ったアルベルトは、優しい声で尋ねた、

「カロリーナ嬢。わたしとあなた、そしてパトリシアは幼なじみでした。本当に子供だった頃は。三人で楽しく遊んでいましたよね? もうあなたはパトリシアに二度と会うことはないのです。最後に何も言わなくていいのですか? あなたに『呪い』をかけられそうだったのに。パトリシアは今日会ったあなたに何をしましたか? カロリーナ嬢、あなたは咎人です。それなのにどうしてそんなに身綺麗で、素敵な衣装を着て、空腹も満たされているのですか? みずぼらしく、お腹をすかせたあなたのままにすることもできたのに。そうしなかったのはなぜだか、カロリーナ嬢、あなたなら分かるのでは?」

アルベルトは手を伸ばすと、カロリーナの口の拘束を解いた。
レオナルドの頬がピクリと動き、ロレンソも肩眉をくいっとあげている。

カロリーナは唇を噛みしめ、床からゆっくり顔を上げた。
アルベルトとカロリーナは数秒視線を交わしたが。
カロリーナの瞳から涙がボタボタとこぼれ落ちる。
その姿には思わず私も胸が痛んでいた。

「パトリシア!」

突然怒鳴るように名前を呼ばれ、ビックリする私をカロリーナが睨んでいる。
その場にいた全員に緊張が走ったが……。

「私は……結局、真実の愛に出会えなかった。それを手に入れたあんたが羨ましく、憎たらしく感じた。でも……だからなのよね。だから私はひとりぼっちなの。こんな性格だから」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:31,098pt お気に入り:8,868

王子殿下に強引に婚約破棄されました。その理由がすごい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:411

わたくしは悪役令嬢ですので、どうぞお気になさらずに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:105

万年二番手令嬢の恋(完結)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:2,125

この想いを受け止めて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:14

処理中です...