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【続編】

104:未来の分かれ目

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カロリーナの着替えのためにワンピースを用意することにしたのだが……。

これには骨が折れた。
スノーの『呪い』を解いてもらった後は、王宮へ引き渡すことになる。だから華美なワンピースを着せるわけにはいかない。かといって地味なワンピースを用意すれば。あのカロリーナことだ。文句を言うだろう……いや、ロレンソにより言葉を封じられているから、床にワンピースを投げつけかねない。

悩みに悩んで用意したのは……。

カロリーナが好む色が使われた濃紺×赤×白のチェック柄のワンピースだ。白い丸襟に白い袖、白のフリルがスカートの裾についている。全体的な印象は濃紺なので、派手ではないが、チェック柄でオシャレだと思う。体型としては私もカロリーナも似たようなものなので着ることはできると判断し、バスルームでカロリーナの入力を手伝っているメイドに手渡す。

「! ちょ、どうしたのその傷は!?」

メイドの手首には引っ搔き傷がある。
困り顔のメイドは小さく囁く。

「カロリーナ様が暴れるので……」

なるほど。
水を嫌う猫を入浴させているわけではないのに。
しかもあの匂いから解放されるのだから、大人しく入浴すればいいのに。

ひとまずメイドの引っ搔き傷は治癒の魔法で癒し、ワンピースを渡した。

「パトリシアさま。どうした、そんなため息をついて」

マルクスがソファから立ち上がった。
私は「大丈夫よ」と制し、ソファに腰を下ろした。
それを見たマルクスも浮かしかけた腰を落ち着ける。

「カロリーナさまは。なんであんな風になってしまったのかな。アルベルト王太子の婚約者の座をパトリシアさまと競っていた時は。ここまで悪女ではなかったはずだぞ」

それは……。私も同感だった。
ただ、思い当たることがあるとすれば……。

「ドルレアン公爵の……お父君の影響も大きい気がします。カロリーナさまが王太子さまの婚約者となったことで、ドルレアン公爵は勢いづいたわよね。一方のカロリーナさまは王太子さまとの間に愛を感じられなくて悩んでいた。そこにドルレアン公爵がいろいろ吹聴したのではないかしら。カロリーナさまはご両親の言うことをすぐに信じるタイプ。まんまと親の口車に乗せられた気もします」

私の言葉を聞いたマルクスは「これだからパトリシアさまは」と呆れつつも笑顔を見せた。

「パトリシアさまは本当に昔とは別人で。そしてお人好しというか、優しいというのか。恐ろしい『呪い』をかけられそうになったというのに。カロリーナさまのことを悪くは言わないのだな。確かにカロリーナさまは親の影響を受けたかもしれない。だがな、善悪の判断ができない年齢ではない。そのまま鵜呑みにして悪さに加担したのなら。カロリーナさまは、きっとその程度の人間ということなのだと思う」

マルクスは……。本当に鋭いなぁ。観察眼がすごいと以前から思っていたけれど。でもマルクスの言う通りだと思う。カロリーナが「お父様、それは行き過ぎでは?」と言うことができていたら。こんな未来にはならなかったのかもしれないのに。

その時。

バンッを荒々しく扉が開く音がして、カロリーナがバスルームから出てきた。

口を横一文字に結び、ヘーゼル色の瞳に怒りをはらませ、怒り心頭のカロリーナだが。選んだワンピースはよく似合っていた。髪もメイドの頑張りで上手くセットされ、チェック柄のワンピースということも相まって、私からするとアイドルグループのショートヘア担当に見えたぐらいだ。

部屋の扉をノックする音が聞こえ、マルクスが急いで扉を開ける。

「ものすごい物音がしましたが、大丈夫ですか?」

ロレンソが心配そうに顔をのぞかせた。
「ええ、大丈夫ですよ」と私が苦笑すると、ロレンソはチラッとカロリーナを見る。

物音の張本人はカロリーナだとすぐ分かったのだろう。
ロレンソの白金色の瞳は、冷たくカロリーナを見据えている。
一方のカロリーナは。
ロレンソのような美貌の青年から冷めた目で見られたことがよっぽど応えたのだろう。

扉を勢いよく開けた時の威勢はどこへやら。
視線を床に落としている。
その上で。
盛大なお腹の虫を鳴かせた。
これにはその場にいた全員が笑うしかない。
冷たい視線をカロリーナに向けていたロレンソさえ、苦笑している。

まだレオナルドは帰ってきていない。
既にカロリーナが捕まり、この屋敷にいることは把握は済みだろう。それにマルクスとロレンソがいることも掴んでいるはず。すぐに帰還せずとも問題なしと判断し、国王陛下の元に足を運んでいる可能性が高かった。

ということで。
スノーの『呪い』を解く時にはレオナルドにいて欲しい。

だから。

ひとまずカロリーナの腹の虫を収めるため、朝食を用意することにした。メイドに部屋へ朝食を運ぶよう頼み、カロリーナをテーブルと椅子のある窓際に案内した。カロリーナが窓際の椅子に座ろうとすると、マルクスがそれを止めた。

万一にも窓から逃走することは許さないという意思表示で、窓際の席にはマルクスが座った。不服そうな顔をしながらも、カロリーナは手前の席に座る。その様子を見たロレンソは再び廊下に出て、警備についてくれた。私はマルクスの隣の窓際の席に腰をおろした。
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