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【続編】
97:真実の愛があっても不幸に
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カロリーナが何に嫉妬したのか。その推理を披露すると。
アズレークはゆっくりと深く頷く。
「カロリーナは魔術師レオナルドを知っていても、アズレークのことは知らない。きっと護衛の騎士ぐらいに思ったのだろう。スノーについては……よく分からなかっただろうが、ルクソール・プレジャー・ガーデンズだ。親戚の子供でも連れて遊びに来たと解釈したのだろう」
きっとそうなのだろうと思う。
頭に血がのぼったカロリーナはきっと私のことしか見えていない状態に近い。
「見る限り、私以外の護衛の騎士もいない。強い嫉妬の炎で燃えていたカロリーナは、無防備なパトリシアを見て、千載一遇のチャンスと思ったのだろう。その瞬間、自分がなぜここにいるのかということを忘れ、行動に移していた。深く考えず、動いた結果だ。だからスノーの林檎好きにも気づかず、またバレて捕まることを恐れ、逃亡を優先し、パトリシアが林檎を食べるところまで見届けなかった」
なんだかんだ言って。カロリーナとの付き合いは長い。
だから私を見つけたカロリーナのその後の行動が手に取るように分かってしまう。
私を見たカロリーナは。
燃え盛る嫉妬心を元に、私に何をするか考える。
もし私を殺せば。王太子も婚約者の魔術師も、カロリーナを許さないだろう。見つかったら間違いなく断頭台送りになる。ここで何か仕掛けて、逃亡することになっても、逃亡失敗の可能性に目をつむるわけにはいかない。そうなると、殺さず生かすがそれは不幸な状態に。仮死……冬眠のような状態。そんな状態になるような『呪い』をかけよう。カロリーナはそんな風に考えたと思った。
冬眠状態であるが、生きている。死んだわけではない。
ただ、声を出すことも話すことも笑うことはないのだ。幸せな結婚生活なんて無理。真実の愛があろうと幸せになれるわけではない。それを味わうといい……そう考えたカロリーナの次の行動は、どうやってその『呪い』をかけるかだ。
自身が近づき、直接『呪い』をかけるのは危険すぎる。少なくともそばに全身黒ずくめの騎士もいるのだ。女一人で仕掛けるのに騎士が相手では分が悪い。自分ではなく、誰かを魔法で操るのがいい。
そこでカロリーナは考える。護衛についている騎士にバレずに他人を操り私に『呪い』をかける方法を。そして思いつく。ここ、ルクソール・プレジャー・ガーデンズでは、果樹園でとれた果物を来場者に配っている。それを渡せば不審がることなく受け取るはずだ。
だが、そばにいる騎士が魔法を使えるかは分からなかった。バレないようにするに越したことはない。呼気に反応して、『呪い』が発動できるようにしよう。
こうして付け焼刃ではあるが、計画を立てたカロリーナは実行へと移る。
私とスノーとアズレークは楽しそうに揚げ菓子を食べていた。その間に果物を配る従業員を探し出し、魔法をかけ、果物に『呪い』を賭ける必要がある。
今日は平日であり、時間も中途半端。店が混雑する時間ではない。共に働く従業員に「レストルームに行く」と伝え、ショップを離れる。そしてすぐに林檎を配る従業員を見つけた。気さくに声をかけ、魔法をかける。さらに籠にある林檎を一つ手にし、『呪い』をかけた。
私達がまだ揚げ菓子を食べているかと思ったが、もうそこにはいない。焦りながらも魔法使いの装いの従業員を連れ、近くを探すと。回転木馬が見え、そこに黒騎士のような護衛の姿が見える。ということは私はすぐ近くにいるはずだ。辺りを伺い、ベンチに座る私を見つけると……。
「あの女よ、ブルーグリーンのドレスに、ドレスと同じ羽のついた帽子を被ったあの女。あの女にこの林檎を渡すのよ」
そう命じて林檎を配る従業員を私に差し向ける。
何も知らない私は林檎を受け取った。
――食べろ!
そうカロリーナは強く思ったはずだ。だが、私は食べない。魔法を使うことも考えたが。黒騎士はそこまで遠い距離にいるわけではない。黒騎士が魔法を使えるかは分からないが、もし魔法を使えるなら、感付く可能性もある。
そうこうしているうちに私は林檎をカバンにしまった。
食べるところまでを見届けたかったが。逃亡をする必要がある。護衛の騎士はただの騎士の可能性も高いが、『呪い』が発動すれば、すぐに婚約者である魔術師に伝わる。魔術師が動くと厄介だ。奴のせいでドルレアン家は崩壊した。
私に『呪い』がかかった見届けることなく、カロリーナは逃走のため、その場を離れた――。
「パトリシア」
アズレークの声に我に返る。
その顔を見ると、私を心配している黒い瞳と目が合う。
「カロリーナがどんな風に動いたかは、彼女と腐れ縁が長い君なら想像がついたと思う。今、カロリーナは必死に逃亡を図ろうとしている。逃すつもりはない。国境の警備は厳しくし、要所では検問を行うようお願いしてある。国外追放したはずのカロリーナが国内にいると分かった。ここでカロリーナを捕まえることができなければ、国王陛下の威信にも関わる。みんな懸命にカロリーナを捕まえようとしているから。きっと見つけ出すことができる」
アズレークはゆっくりと深く頷く。
「カロリーナは魔術師レオナルドを知っていても、アズレークのことは知らない。きっと護衛の騎士ぐらいに思ったのだろう。スノーについては……よく分からなかっただろうが、ルクソール・プレジャー・ガーデンズだ。親戚の子供でも連れて遊びに来たと解釈したのだろう」
きっとそうなのだろうと思う。
頭に血がのぼったカロリーナはきっと私のことしか見えていない状態に近い。
「見る限り、私以外の護衛の騎士もいない。強い嫉妬の炎で燃えていたカロリーナは、無防備なパトリシアを見て、千載一遇のチャンスと思ったのだろう。その瞬間、自分がなぜここにいるのかということを忘れ、行動に移していた。深く考えず、動いた結果だ。だからスノーの林檎好きにも気づかず、またバレて捕まることを恐れ、逃亡を優先し、パトリシアが林檎を食べるところまで見届けなかった」
なんだかんだ言って。カロリーナとの付き合いは長い。
だから私を見つけたカロリーナのその後の行動が手に取るように分かってしまう。
私を見たカロリーナは。
燃え盛る嫉妬心を元に、私に何をするか考える。
もし私を殺せば。王太子も婚約者の魔術師も、カロリーナを許さないだろう。見つかったら間違いなく断頭台送りになる。ここで何か仕掛けて、逃亡することになっても、逃亡失敗の可能性に目をつむるわけにはいかない。そうなると、殺さず生かすがそれは不幸な状態に。仮死……冬眠のような状態。そんな状態になるような『呪い』をかけよう。カロリーナはそんな風に考えたと思った。
冬眠状態であるが、生きている。死んだわけではない。
ただ、声を出すことも話すことも笑うことはないのだ。幸せな結婚生活なんて無理。真実の愛があろうと幸せになれるわけではない。それを味わうといい……そう考えたカロリーナの次の行動は、どうやってその『呪い』をかけるかだ。
自身が近づき、直接『呪い』をかけるのは危険すぎる。少なくともそばに全身黒ずくめの騎士もいるのだ。女一人で仕掛けるのに騎士が相手では分が悪い。自分ではなく、誰かを魔法で操るのがいい。
そこでカロリーナは考える。護衛についている騎士にバレずに他人を操り私に『呪い』をかける方法を。そして思いつく。ここ、ルクソール・プレジャー・ガーデンズでは、果樹園でとれた果物を来場者に配っている。それを渡せば不審がることなく受け取るはずだ。
だが、そばにいる騎士が魔法を使えるかは分からなかった。バレないようにするに越したことはない。呼気に反応して、『呪い』が発動できるようにしよう。
こうして付け焼刃ではあるが、計画を立てたカロリーナは実行へと移る。
私とスノーとアズレークは楽しそうに揚げ菓子を食べていた。その間に果物を配る従業員を探し出し、魔法をかけ、果物に『呪い』を賭ける必要がある。
今日は平日であり、時間も中途半端。店が混雑する時間ではない。共に働く従業員に「レストルームに行く」と伝え、ショップを離れる。そしてすぐに林檎を配る従業員を見つけた。気さくに声をかけ、魔法をかける。さらに籠にある林檎を一つ手にし、『呪い』をかけた。
私達がまだ揚げ菓子を食べているかと思ったが、もうそこにはいない。焦りながらも魔法使いの装いの従業員を連れ、近くを探すと。回転木馬が見え、そこに黒騎士のような護衛の姿が見える。ということは私はすぐ近くにいるはずだ。辺りを伺い、ベンチに座る私を見つけると……。
「あの女よ、ブルーグリーンのドレスに、ドレスと同じ羽のついた帽子を被ったあの女。あの女にこの林檎を渡すのよ」
そう命じて林檎を配る従業員を私に差し向ける。
何も知らない私は林檎を受け取った。
――食べろ!
そうカロリーナは強く思ったはずだ。だが、私は食べない。魔法を使うことも考えたが。黒騎士はそこまで遠い距離にいるわけではない。黒騎士が魔法を使えるかは分からないが、もし魔法を使えるなら、感付く可能性もある。
そうこうしているうちに私は林檎をカバンにしまった。
食べるところまでを見届けたかったが。逃亡をする必要がある。護衛の騎士はただの騎士の可能性も高いが、『呪い』が発動すれば、すぐに婚約者である魔術師に伝わる。魔術師が動くと厄介だ。奴のせいでドルレアン家は崩壊した。
私に『呪い』がかかった見届けることなく、カロリーナは逃走のため、その場を離れた――。
「パトリシア」
アズレークの声に我に返る。
その顔を見ると、私を心配している黒い瞳と目が合う。
「カロリーナがどんな風に動いたかは、彼女と腐れ縁が長い君なら想像がついたと思う。今、カロリーナは必死に逃亡を図ろうとしている。逃すつもりはない。国境の警備は厳しくし、要所では検問を行うようお願いしてある。国外追放したはずのカロリーナが国内にいると分かった。ここでカロリーナを捕まえることができなければ、国王陛下の威信にも関わる。みんな懸命にカロリーナを捕まえようとしているから。きっと見つけ出すことができる」
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