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【続編】

69:思わず悲鳴を上げていた

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焦燥感が募ったその時。
サンルームが突然暗くなったように感じた。
さっきまでサンサンと降り注いでいた陽射しはなく、天井のガラス窓から見える空は鈍色に変っている。

天気が急変していた。

さらに。
思わず悲鳴を上げていた。
ものすごい音だった。
雷だ。
そしてガラスに当たる雨音が激しく聞こえてきた。
一面銀世界のグレイシャー帝国で、今の季節は雪が降っても、こんな雷雨なんてあるのだろうか。

驚いたまさにその時。

「……!」

暴風が吹いているようで、サンルームが揺れたように感じた。
さすがにこの天候の激変に、ロレンソの動きも止まっている。
耳を澄まし、何かを感知しているようにした後……。

「パトリシア様。外には出ないでください。怪我をしたくなければ。……あなたの中に魔力はほとんど残っていない。部屋で大人しく待っていてください」

そう言ったロレンソは私から手を離し、召使いを大声で呼ぶ。
サンルームに足早に入ってきた召使いにロレンソは命じる。

「彼女を部屋へ。決して部屋からも、屋敷からも出さないように」

ロレンソはそう言うと、サンルームから庭に続く扉へ向かって歩いてく。
この豪雨と暴風と雷鳴が響く中、外に出て行くの!?
それはあまりにも無謀では?
驚いて思わず呼びかけていた。

「ロレンソ先生、危険です! もう魔法は使いませんから、外に出てはダメです!」

まさに扉に手を伸ばしたロレンソがこちらを振り返った。

「……パトリシア様は。やはり優しすぎます。今、わたしがしていたことを忘れたのですか?」

「……!」

それは……分かっている。
でもどうしてもロレンソは悪人に思えないのだ。
このままこんな天候の外へ行かせては……。

「きゃあぁぁぁ」

轟音に悲鳴を上げ、耳を押さえ、ローソファに伏せた。
ガシャンとガラスが割れる音がして、目を開けると、サンルームの一画が破壊されていた。そしてそこから勢いよく、冷風と雨が侵入してくる。

「お嬢様、こちらへ」

召使いが二人掛かりで私を起き上がらせ、廊下につながる出入り口へと向かう。

「ロレンソ先生は!?」

ロレンソの姿は既にない。
さっき。
このサンルームには雷が落ちたのだと思う。
そんな状況の中、ロレンソは外に出て行った。
なぜなの?

「お嬢様、ここは危険です」

確かにサンルームは、急速に冷えてきている。破壊された一画から吹き込む、暴風と豪雨でこの部屋そのものが壊れそうだった。ロレンソの身が心配だが、ひとまずここから避難することにした。
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